輸入車
更新日:2022.11.21 / 掲載日:2022.11.21

中国製電気自動車 BYD ATTO3のバッテリー技術【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●BYD

 いよいよ2023年1月から中国の自動車メーカー、BYDのBEV(電気自動車)が日本で発売される。

 Build Your Dreamの頭文字をとって名付けられたBYDは、1995年に中国・深圳でバッテリーメーカーとして創業。携帯電話などでは高いシェアを誇っていたが、市場の成長が鈍化してきたこともあって2003年から自動車産業へ参入。バッテリーメーカーとしての強みを生かしてプラグインハイブリッドカーやBEVにも早くから着手していた。2021年はNEV(新エネルギー車=BEV、プラグインハイブリッド、FCV)を60万台販売し、中国国内では9年連続NEV販売1位。2022年1〜9月は118万5000台にのぼり、BEVの販売台数世界一の座を射止める勢いだ。2022年3月にはエンジン車の生産を中止し、電動車専売メーカーにもなっている。


 日本ではBYDジャパンを2005年に設立し、EVバスとEVフォークリフトで事業を展開し、2022年に乗用車販売と関連サービスを提供するBYD Auto JAPANを設立して、EV専売で参入することになった。2023年1月に販売開始するのはミッドサイズSUVのATTO3(アットスリー)で、年央にコンパクトカーのDOLPHIN(ドルフィン)、下半期にハイエンドセダンのSEAL(シール)をそれぞれ発売する予定となっている。


 BYDはもともとバッテリーメーカーだけあって、バッテリー技術を強みとしている。現在のBEVの多くは三元系と呼ばれるリチウムイオンバッテリーを搭載しているが、BYDはリン酸鉄のリチウムイオンバッテリーを採用している。NMC(ニッケル、マンガン、コバルト)を正極に使う三元系はエネルギー密度が高く、BEVに最適と言われてきたのに対して、リン酸を正極に使うバッテリーはNMCのようにレアアース・レアメタルを使わないためリーズナブル、しかも熱安定性が高く安全性が高いというメリットがある一方、エネルギー密度は低めでBEVの高性能化では不利と言われてきた。ところがBYDはエネルギー密度という弱点を克服したブレードバッテリーと呼ばれる新たなリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを独自開発、2020年に発表してATTO3など最新モデルに搭載した。

BYDはバッテリーメーカーから出発し、EVバスなどを経て乗用車の開発・生産に乗り出した

 車載用リチウムイオンバッテリーのほとんどは、最小単位であるセル、それを複数組み合わせたモジュール、さらに冷却系などを含め自動車に求められる容量にまとめたパックといった構成になっている。ブレードバッテリーは、長さ2m×厚み13.5mmのブレード状の細長いバッテリーをモジュール無しでパック化。モジュールを省くことで体積利用率が従来比50%向上し、三元系と同等のエネルギー密度を実現した。安全性が高いリン酸鉄だからこそ可能なものだ。ちなみにライバルである中国のバッテリーメーカー、CATLもセル・トゥ・パックという同様のコンセプトのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを持っており、テスラなども採用。日本で走るモデル3もこのバッテリーを搭載している。BYDも自動車メーカーであるだけではなく、バッテリーメーカー/サプライヤーでもあり、トヨタBZ3はブレードバッテリーを採用。車両開発もトヨタとBYDの共同となっている。


 ATTO3は58.56kWhのバッテリーを搭載して航続距離は485km(WLTCモード)、DOLPHINはスタンダードが44.9kWhで386km、ハイグレードが58.56kWhで471km、SEALは82.56kWhで555kmとなっており、三元系リチウムイオンバッテリーを搭載するモデルにまったくひけをとらない。また、リン酸鉄はライフでも有利と言われ、ブレードバッテリーは8年・15万km補償となっている。


 車体では独自開発したBEV専用のe-Platform3.0を採用している。ブレードバッテリーを8つのモジュールを集約した8in1パワーシステムアッセンブリーとなっていて、サーマルマネージメントでバッテリー温度を一定に保って効率を向上。駆動、制動、操舵を統合制御してダイナミクス性能を高めてもいるという。

 ATTO3に短時間ながら試乗したところ、動的質感は高いレベルにあった。メイド・イン・チャイナの自動車は、テスラ・モデル3やモデルY、ボルボC40などを体験しているが、中国ブランドのモデルに乗るのは初めて。しかし、何かが劣っていたり違和感などはなく、日本やヨーロッパ、アメリカ、韓国などのモデルとかわりない印象だった。中国は右側通行・左ハンドルの国だが、日本仕様は右ハンドルになっていてウインカーもわざわざ右側に移設されている。

BYD ATTO3

 乗り心地は比較的にソフト志向で、どちらかと言えば欧州車よりもアメリカ車や日本車に近い雰囲気だ。BEVは重くなりがちなので、ミッドサイズSUVでは操縦安定性を確保するためにサスペンションをちょっと硬くする必要があり、乗り心地も硬めということが多いのだが、ATTO3は快適なほうだ。車両重量がライバルよりも軽量なことが有利なのだろう。


 ちなみに日産アリアB6は全長4595×全幅1850×全高1655mm、バッテリー容量66kWh、航続距離470kmで車両重量1920kg。ATTO3は全長4455×全幅1875×全高1615mmとわずかに小さいが、バッテリー容量58.56kWh、航続距離485kmで車両重量1750kgとなっている。


 BYDは日本のディーラーを100店舗まで伸ばすことを目指しているという。輸入車ディーラーで店舗数が多いのはフォルクスワーゲンの約250、メルセデス・ベンツの200強などドイツ勢は200前後が多いが、その他は100前後、あるいはそれ以下のところがほとんど。100店舗というのは、どの地域で買いやすく、街を走れば目について知名度があがっていく目安ともされている。BEVはオンライン販売で中間コストを削減するという戦略が多い中、BYDは本気で日本市場に根付こうとしているようだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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