輸入車
更新日:2023.11.16 / 掲載日:2023.11.11
【シンガー】クラシック911を甦らせるオーダーメイドレストア【九島辰也】
文●九島辰也 写真●シンガー・ヴィークル・デザイン
かっこいいポルシェ911を見てきました。シンガー・ヴィークル・デザインが仕上げた“ポルシェ911リイマジンド・バイ・シンガー”です。シックなボディカラーがいい感じ。センスの良さが光ります。それにリムの深いホイールがパフォーマンスの高さを匂わせますし。う〜ん、只者じゃない。
このクルマを手がけたシンガーは、ポルシェ911のレストアやチューニングをする会社です。設立は2009年で、カリフォルニア州ロサンゼルスでスタートしました。カリフォルニアはカーカルチャーの民度が高いですからこういった会社が生まれる土壌があります。レストアやチューニング、カスタムを行う会社は数多くありますし、それを欲するマーケットもしっかりあります。それに天候がカラッとしていて湿度が低いのもクルマに優しかったりします。まさに「クルマ天国」ですね。
その中でピカリ輝いているのがシンガーです。クルマ好きであれば一度は聞いたことのある名前でしょう。日本でも何年か前に話題になりました。いろいろな自動車メディアで取り上げられていたのを覚えています。
彼らは3つのタイプをラインアップします。「クラシック・スタディ」、「ターボ・スタディ」、それと「ダイナミック・ライトウェイト・スタディ(DLS)」です。いずれも1989年から94年までのポルシェ911、つまり964型をオーダーメイドでレストアし、リイマジニングします。この「リイマジニング(Reimagining)」とは「あらためて創造すること」だそうで、彼らのコンセプトとなります。伝統と21世紀の機械工学と材料工学を反映したものというから、素材を見直すことなどが含まれるかと。軽量化を推し進めているので、カーボンを積極的に取り入れています。
「クラシック・スタディ」のエンジンは3つのタイプから選べます。964型3.6リッターユニットを完全にリビルトしたタイプ、コスワース社の手で3.8リッターに排気量アップされたタイプ、ポルシェのレーシングエンジンをベースにした4リッターのハイパワータイプです。いやぁ、どれも強者でしょう。フィーリングを楽しむなら完全リビルトですが、レーシングエンジンベースというのも気になります。エキゾーストにも手が入っているからきっと音もレーシーなサウンドに変わっているに違いありません。展示車両はエンジンをかけてはいけなかったのでリアルに聴くことができなかったのは残念です。たぶん、かなりヤバイことになっているような。想像するだけで自然と頬が緩みます。
そんなシンガーのクルマを求めるカスタマーはいったいどんな人なのか気になります。そこで簡単なプロファイリングをシンガーの日本代理店永三MOTORSに伺うとユニークな答えが聞けました。多くのカスタマーがポルシェはもちろん数多くのスーパーカーを所有しているそうです。フェラーリ、ランボ、マクラーレン云々。つまり、その先に何が待っているのだろうという好奇心からシンガーにたどり着くようです。もはや吊るしでは満足しない人たちですね。恐ろしい。
でもシンガーは広告を一切していません。やっているのはSNSくらい。となると、SNSを偶然目にするか、もしくは知り合いなどからの聞き伝えになります。わからなくないですよね。クルマ好き同士は常にクルマ談義ばかりしていますから。その中の誰かがシンガーの存在を知ったら、周りに流布するのは時間の問題でしょう。個人的にも月に一度はクラシックカー仲間と会う機会がありますが、それがいい情報交換の場になっています。いい刺激にも。メーカーからのニュースリリースだけではわからないことがたくさんありますからね。行動しなくちゃダメです。
ということで今回は“ポルシェ911リイマジンド・バイ・シンガー”の話をしましたが、あらためて思うのはグッドなサイズだということ。最近のクルマは皆大きくなりすぎです。ドライバーが等身大に付き合える大きさってやっぱあると思うんです。まぁ、側突安全上ドアが分厚くなるのはしょうがないといえばそうなんですけどね。もう少し繊細さを感じさせるデザインがあってもいいかと。そんなことを鑑みると、クラシックカーのレストアはやっぱ大事。新車では二度とできないデザインです。最近は高級旅館やホテルなんかもレトロモダンブームですし、クラシックカーを現代の目線で見直してレストアやチューニングするのはアリですね。となると今後シンガーのような会社はもっともっと増えてくるかも。自称カーガイとしては期待したいところです。