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更新日:2017.12.14 / 掲載日:2017.12.05
続(前号に続き)三菱 ランエボXぶったまげ!! 仇敵インプレッサでスーパーGT参戦中の山野哲也(ほか5名)が徹底解析!!
仇敵インプレッサで戦う山野氏はランエボXをどう斬る!?

【本記事は2007年11月にベストカーに掲載された記事となります。】ついに10月1日、正式デビューとなったランエボX。本誌ではこの試乗レポートを担当していただくため、今シーズンのスーパーGTにクスコレーシングのインプレッサで参戦中の山野哲也氏に(本誌リクエストにより、なんとスバルのレーシングスーツで)試乗していただいた。仇敵インプレッサで戦う山野氏はランエボXをどう斬る!?
上質感が格段に上昇

これまでのランエボシリーズはドライバーズスクールなどで各モデル乗ったことがありましたが、今回のランエボXはそれとずいぶん印象が違っていてまずそこに驚きました。ひと言でいえば上質感が格段に上がっています。運転しやすく、スムーズ。これは世界的な潮流を受けてのことなんでしょうけれども、ポルシェでもフェラーリでも、あるいはF1マシンでも、性能が上がれば乗りやすくなるもので、時代に合っているところですね。これが一番顕著に見られるのは体感速度が低く感じられるところ。かなりのハイペースで富士のショートコースを走ったけれど、どの場面でもゆったり操作することができる。これはポテンシャルが全体的に底上げされている証拠で、レースやラリーに使うのでも高速道路を走るのでも有利です。
サーキットから街乗りまで幅広く対応

新世代に進化したランエボXの心臓4B11。最高出力280ps/6500rpm、最大トルク43.0kgm/3500rpmを絞りだす。低速からトルクフルで評判も◎
今回はウェットコンディションのなかでの試乗でしたが、そのわりには足回りがキチンと仕事をしている感じで、その点も評価が高いですね。特に対角線方向のロールがいい具合に抑えられています。インリフトが少し大きい感じだったので(エボIXのように)「路面にすいつくように走りたい」という人にはちょっと不満かもしれませんが、それもランエボXならではの個性でしょう。ではランエボ特有のクイックなハンドリングは失われてしまったかというと、そうではなくてちゃんと生きています。ボディが大きくなったぶん車両重量が増しているので心配でしたが、AYCが進化しているのでクルマの向きはドライバーの思いどおりに変わります。スタイルもターゲットユーザーもかなり上のほうにシフトした感じですが、「ランエボらしさ」は随所に生きている感じですね。エンジン特性も非常にいい。トルクバンドが広くて扱いやすいのが特徴で、サーキットから街乗りまで幅広く対応できる。レスポンスもすばらしい。特に低速トルクがしっかりしており、2速に落とさなければいけない場面でも3速で回っていけます。アンチラグ付きのレーシングカーに乗っているような感覚で、4000回転あたりのトルクの幅広さが「乗りやすさ」にも強く影響しています。
「どこまでも踏める」という感覚

三菱渾身のツインクラッチシステム「SST」。6速を瞬時に切り替えることで常に最大トルクの発生域にギアを置くことが可能。パドルシフトでも操作できる
ランエボX最大のウリのひとつであるSSTは、これはもう本当に驚いた。僕が普段乗っているBMW M5よりもいい。少なくとも互角の勝負はしています。回転数を積極的にターボのトルクバンドに乗せていってくれるので、ほとんどラグがない。コーナリングの最中でも「どこまでも踏める」という感覚がずっと続く。シフトチェンジのタイミングがドライバーの意志、それも非常に運転の上手な人のテクニックに近いのが凄い。こんなに簡単に4WDのパワードリフトに持ち込めるクルマってほかにないんじゃないでしょうか。この制御技術はすばらしいですね。乗る前に「レーシングドライバーいらずのクルマ」と聞いていましたが、本当にそうだなあ、と思ってしまいました。
アクセルを「前に踏み進める」という感覚

上質で高級感のあるインテリアを持つ。街乗りでもまったくストレスを感じさせず、長距離ドライブもまったく苦にならない。シートも上質感があっていい!
また、一点ぜひ加えておきたいのは着座姿勢。これまでのランエボは、ベースのランサーがファミリーセダン色が強かったこともあって、着座位置が高く、アクセルを「上から下に踏む」というような感覚でした。しかしベースがフォルティスになったことで着座位置が低くなり、アクセルを「前に踏み進める」という感覚になっています。これはスポーツカーを運転する時に重要なことで、日常の街乗りでも「俺はいまスポーツカーに乗っているんだ」という雰囲気をうまく演出しています。全体的な印象としては、これまでのランエボの進化の方向性とは大きく変えてきています。これまでは僕もレースで使っているインプレッサと同じところを目指していたわけですが、今度はもっと上の、高い次元での走る、曲がる、止まる、という要素を目指しているな、という印象を強く持ちました。これは今までのランエボファンならずとも、スポーツ走行に興味のある人なら「買い」ですね。
私は「ここ」に驚いた!! 続々と寄せられるぶったまげレポート

私は「ここ」に驚いた!! 続々と寄せられるぶったまげレポート続いてはランエボXに試乗した5人の有識者たちに、それぞれの「ぶったまげ」をお伺いした。●日下部保雄は「シャシー」にぶったまげた!今回のランエボXに使われているプラットフォームは、三菱の基幹シャシーであり、アウトランダー、デリカD:5、ギャランフォルティスに使われているものと基本的には同じもの。正直いってアウトランダーに乗った時には「かなりいいけど、ポテンシャルを持てあましてないか?」というもの足りなさと、「これをランエボに使っても大丈夫なの?」という心配があった。しかし実際乗ってみると、ランエボXのために作られたんじゃないかっていうくらい、よくできているのに驚いた。エンジンとミッションとのバランスも非常に高い次元でマッチしている。これまでのランエボシリーズはエンジンや4WDをドライバーがねじ伏せて、「なんとか乗りこなす」というイメージだったけど、今回は上手にドライバーを導いてくれるイメージが強い。もちろんこれは4WDとミッションの制御技術が上がったことも大きいのだけれど、それを受け止めるシャシーのキャパシティが大きくなったということも重要だ。ついでに言えば、多くの車種に使われることで、安くできるというのも大きい。汎用性の高さは技術力の証。世界戦略レベルで考えると、三菱にとってはこのランエボXは非常に重要なクルマになるだろう。逆にいえば「多くのクルマに使われているシャシー」でここまで仕上げた技術力にも拍手を贈りたい。●熊野学は「電子制御技術」にぶったまげた!今度のランエボXは(SSTの)ATモードのままで、実に多彩な走り方を選択できる。「AYCのターマック×グラベル×スノー」という3つのモード、「SSTのノーマル×スポーツ×スーパースポーツ」という3つのモード、「ASCのオン×オフ×長押しで全カット」という3つのモード、それぞれの組み合わせは3×3×3で合計27通りの走りを体感できるということだ。すべてを街乗りに合わせた「ターマック×ノーマル×オン」にすればジェントルでストレスのない走りができるし、一番過激に「スノー×スーパースポーツ×全カット」にすればどんな路面であろうとそれこそラリードライバーのように「攻めの走り」を体感できる。特にお薦めはAYCをターマック、ASCをオンにしたままSSTをスーパースポーツにしておくモード。安全に速く、かつスポーツ走行の雰囲気を極限まで味わえる。よくまあ市販車でここまでやったな、と開発陣の「力の入れ具合」に感心してしまった。もちろんこれらは電子制御技術の問題だから、やろうと思えばどのメーカーだってできないことはない。けれどあらゆるモードでキチンと走らせ、ちゃんとドライバーを楽しませ、さらに安全で速く走らせるクルマを作ることができるのは、世界でも三菱自動車だけだろう。これは今までのランエボで培った技術の上に成り立っているメカニズムであり、一朝一夕に完成されたものではない。このバリエーションのなかから自分に合ったモードを選ぶことができるというのが、ランエボXの楽しさの本質なのではないか。●斎藤聡は「S-AWC」にぶったまげた!そもそも4WDターボ車というのは(例えばNAのFR車と比べて)決して乗りやすいクルマとは言えないんですよね。乗りこなすには一定以上の技術が必要だし、それを制御しようと思うとどうしても「押さえつける」というような感覚になってしまう。けれどランエボXはそんなことをまったく感じさせない。そこが凄いです。限界域までの道のりがとても穏やかだし、限界近くでも非常にスムーズに操作できる。これは主にAYC+ASCの制御技術がレベルアップしたことでもたらされているのですが、これなら誰でも一流レーサー気分になれるでしょう。エンジンについてはまだちょっとおっかなびっくりパワーを出している感じはした。4G63は熟成された鋳鉄ブロックでパワーを思いきり絞りだしていましたが、新しくなった4B11はその点、まだおっかなびっくりパワーを出している感じはします。もちろんポテンシャルの大きさは感じることができますけれど、ここは今後に期待、という部分でしょうかね。●渡辺陽一郎は「価格」にぶったまげた!もともとランエボは安かった。エボIX MRのGSRが362万円少々。最終型のR34GT-Rを200万円近く下まわるのに、高度な4WDを備えていた。そこを考えればランエボXのGSRは腰を抜かす。横滑り防止装置のASCまで加えて、5速MT仕様は350万円に達しない。世界最高技術ともいえるクラッチ技術を備えたSST仕様でも380万円を下回る。しかも、ASCを挙動の安定装置で終わらせず、積極的にクルマを曲げる働きも持たせた。メーカーにとっては4輪のブレーキを独立制御する横滑り防止装置の応用技術だが、ユーザーが受けるメリットはきわめて大きい。生産コストの差は小さくても、機能の価格換算は大違い。140万円上乗せして500万円としても不思議はない。インテリアやインパネ回りの質感も手を抜くことなく、上質な仕上がりを見せつつスポーツカーとしての雰囲気を醸し出している。そしてもうひとつ、エボXには別次元のメモリアルという価値がある。ASCを加えた「S-AWC」は、エボXを速く走らせるスポーツメカではない。クルマの走行性能全般を高次元に引き上げる、今後の三菱車全体に影響を与える先進技術だ。それを端的に表現したのがGSRハイパフォーマンスパッケージ(21万円高)。ビルシュタイン製のショックアブソーバーは、初期応答がいいこともあってノーマルサスより減衰力を下げ、乗り心地もいい。同時にコーナーでは後輪を確実に安定させる。その方向性はラリーのベースマシンではなく、トータルバランスに優れたセダンの設定だ。400万円少々で買えるクルマとしては、間違いなく世界最高レベルである。これを可能にしたのはエボXが「走る実験室」だというところで、つまりこのクルマは将来の三菱車全体の走りを開拓する役割がある。「今の三菱車の走りはエボXから始まった」と言われる日がくる。その歴史の始まりを手にする価値は大きい。●三好秀昌は「ラリーアートバージョン」にぶったまげた!10月初頭に、ひと足早く(まだ開発中である)ラリーアートのラリー仕様パーツを組み込んだランエボXに乗った。グループN仕様とはいえ、まだ先行開発車で、正直足回りなど熟成されたランエボIXと比べると安定感は高いがまだまだやることがある。しかし、ロールゲージ、ラリー用サスペンションを組み込み、エンジンは軽いミスファイアリングシステムを備えたECUに変えられている。そしてルーフには乗員用のエアダクトまで備えたマシンはまったくのシェイクダウンにもかかわらず、ほぼノントラブルで走り出しているということだけでも、凄い。試乗を行なった栃木県・丸和オートランドのコースでは、エンジンパワーを判断できるほどではないが、エボIXより滑らかで低速からトルクがあり、さらに乗りやすい特性と感じた。名機4G63のあとだけに心配だったが、4B11もなかなかポテンシャルがありそうだ。このマシンをベースにラリージャパン用のコースカーを作っているからさらに完成度は高くなるはず。今からラリージャパンでのドライブが楽しみだ!
ラリー仕様

ラリーアートバージョンもすでに鋭意開発中!!
乗った人すべてが絶賛するランエボX。特に注目なのはそのラリー仕様で、その勇姿はひと足早くラリージャパンのコースカーで見ることができる。こりゃあ楽しみだ!
熟成したランエボIX MRとショートコースで100分の7秒差!

続いてランエボX(SST)でアタック。体感速度はかなり遅いのにタイムは36秒58と好調
富士スピードウェイのショートコースで山野哲也氏によるタイムアタックをお願いした。持ち込まれたランエボIX MRのタイムは36秒51。対するランエボX(SSTでスーパースポーツモード/AYCはターマック/ASCカット)は36秒58で、その差100分の7秒。「エボIXのほうが軽いし熟成されているし、しかも短い低速コースだから1秒は差がつくと思っていたけれど、これは驚きました」とは山野氏談。