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更新日:2019.01.27 / 掲載日:2017.11.28
『未来の車』トヨタMIRAIがそこまでやってきた!!
FCVがもてはやされるワケ

【本記事は2014年12月にベストカーに掲載された記事となります。】トヨタとホンダが相次いで燃料電池車の市販を開始!! なぜ今、燃料電池がもてはやされるのか?11月18日、トヨタは世界初となる量販市販燃料電池車(FCV)のMIRAI(ミライ)を発表した。価格は消費税込み723万6000円だが、国の補助金が202万円交付されるということで、ユーザーの実質的な負担額は520万円程度。クラウンなどと同じレベルの金額となることで、これまで「未来の乗りもの」のようなイメージだったFCVが、現実的なものとして身近に感じられるようになった。この前日、11月17日にはホンダが来年度中までにFCVを市販することを表明。トヨタに先手を打たれたことに危機感をいだいたのだろう。「ウチもFCVを市販目前です!!」と猛烈に存在感をアピールしてきた。なにやら寝耳に水のように、今急にFCVが新時代のトレンドリーダーのようになってきた。その動きについて国沢光宏氏は以下のように分析する。
課題山積の水素

そこが知りたい!!
■国策として水素社会が日本発で世界をリードしていく「水素社会なんて無理でしょ」と思うアンチ燃料電池な人も少なくないだろう。そのとおりだ。私も7月まで最強のアンチだった。燃料電池には今でも数多くの課題が残っている。最もシンプルなのが「どうやって水素を作るのか?」という点。水に電気を流すという電気分解に始まり、天然ガスを熱して取り出す方法や、石油の精製で出てくる水素の利用など、さまざまな素材や方法で水素は作れるのだけれど、すべて大きな「宿題」がいっしょに付いてくる。主流になりそうな天然ガスから作る方法だと、ハイブリッド車や電気自動車の熱効率に勝てない。そもそも水素をミライのタンクに700気圧で充填しようとすれば、圧縮&冷却のため大量のエネルギーを消費する。1回満充電するエネルギーを電気自動車で使えば70kmくらい走れてしまうほど。だったら天然ガスで発電し、その電力で電気自動車を走らせた方がずっと効率がいいのだ。もちろんコストだって電気や石油由来のエネルギーに勝てない。二酸化炭素の排出量でも、エネルギーコストでも不利なのだ。
水素は理想的なエネルギー

FCスタックは前席下にレイアウト燃料電池本体(FCスタック)はフロントシート下に配置。水素タンクは2本あり、1本は後席下、もう1本はトランク下部に置く。フロントにはインバーターとモーターが置かれる
ではなんで水素社会なのか? 「いくつかの高いハードルさえ越えられれば理想的なエネルギーになる」からにほかならない。なんといっても水素そのものは無尽蔵にある。水だって水素でできている。原点に返るとわかりやすい。水に電極を入れ、太陽光発電で作った電気を通す。すると水素ができる。その水素を貯め、燃料電池に送り込めば電力というエネルギーになる。そこで排出されるのは水だけ。つまりエネルギーが循環するワケ。ここで「だったら太陽光発電で作った電力をそのまま使えばいい」と思うだろう。たしかにそのとおり。ただ電気は作ると同時に消費しなければならない。天気のいい昼間だけ使うならいいが、夜や雨の日にどうする、という問題を抱える。電池に蓄えればいいと思うだろうけれど、最先端技術でも200kgの電池で20kWh分の電力しか貯められない。ちなみにミライに搭載されている燃料電池は重量100kgで100kWhの仕事をする。10倍の効率を持つ。蒸気機関車と電車くらいの差なのだった。話が難しくなった。ようするに将来性や可能性からすれば、水素社会は理想なのである。
進まなければ始まらない

乗車定員4名とすることでリアシートは大型のセンターアームレストを備えた左右独立タイプとなり、ゆったりと寛げる空間となる
■課題は多いが、まずはその第一歩を踏み出す時水素社会は理想的ながら、現時点では難問だらけ。ただどんな技術であっても、諦めた時点で前に進まなくなります。40年前の人間に今のスマホを見せたら、理解すらできないことだろう。水素社会だって同じ。一歩ずつ前に進むことにより、さまざまなアイデアや技術が育ってくる。ここでの最も大きな課題は「いつ誰が最初の一歩を踏み出すか」だ。最近の日本の動きを見ていると、明らかに自動車で一歩を踏み出そうとしている。実際、自動車で実用化されれば、ほぼ全ての問題をクリア可能。自動車業界は民生品では最も厳しいクオリティコントロールを行っており、信頼性としては文句なし。さらに量産しないと安くならず、売れない。コストダウンもマストになる。なにより水素の消費量が大きいため、インフラ整備も併せて行えるという寸法。水素社会を目指すには自動車が理想的なツールだということ。もちろん現時点でモノになるかどうかは不明。コストだって厳しい状況にある。でも始めない限り、何も育たない。国家戦略としては原子力より200万倍以上好ましく思う。価格は723万6000円(補助金202万円で実質520万円) 4名乗りのアッパーミドルサルーン
FCVの市販はトヨタがリード

ホンダはトヨタMIRAI発表の前日となる11月17日、来年度中までにFCVを市販することを表明した。
燃料電池車=FCVはこれまでもホンダが’08年にFCXクラリティをリース販売するなど、すでに「市販」はされていた。では、今回のトヨタ『MIRAI』の“なに”が凄いことなのかというと、リース販売や実証実験といった限定的な枠組みのなかではなく、一般に向けて広く市販をする、ということにある。したがって全国のトヨタ店、トヨペット店に行けば誰でも『MIRAI』を買うことができる。当然だが、トヨタがリリースする市販車なのだから、完成度はトヨタクォリティが貫かれている。それが723万6000円という価格で市販されることに大きな意義があるということをまず理解していただきたい。そのうえでトヨタ『MIRAI』の新車解剖をしていこう。
乗り心地重視

MIRAIのボディサイズは全長4890mm、全幅1815mm、全高1535mmでサイズ感としてはクラウンやベンツCクラスなどに近い大型サルーンのボリューム感。
■FCスタックは床下配置で余裕の室内空間MIRAIのボディサイズは全長4890mm、全幅1815mm、全高1535mmでホイールベースは2780mm。サイズ感としてはレクサスISやベンツCクラス等に近い印象。全長はこれらよりちょっと長い。このボディサイズゆえに室内は広々している。リアシートは大型のセンターアームレストを備えた独立シートで乗車定員は4名。FCスタックはシート下に配置され、2本の水素タンクは後席下と荷室下に置かれるため、特に後席が2名掛けとなる物理的な理由はない。「ひとつの理由として、このクルマはアッパーミディアムサイズのサルーンとして使っていただきたいという思いがありました。そのためにも、後席にゆったりと座っていただくために4名乗車としたのです」と開発を取りまとめた田中義和チーフエンジニアは説明する。「そして、本音を言うと、乗り心地なのです。後席を3名掛けにすると、定員乗車時の重量に対応するためにハードなサスペンションを使わないとなりません。乗り心地が固くなってしまうのがいやだったので、後席は2名掛けとすることで、理想的なソフトなサスペンションとすることができたのです」と教えてくれた。
安心のニッケル水素バッテリーも使用

重量物のFCスタックは前席下、水素タンクは後席下に配置するため重心が低くどっしりとした安定感を感じるのが特徴的。
■700気圧の水素タンクは3分で満タン、航続650km燃料は圧縮水素を使用する。700気圧の超高圧で車載の専用タンクに充填。まだまだ数は少ないが、専用の水素ステーションで充填にかかる時間は3分程度というからガソリン満タンとそう変わらない。起動スイッチオンで水素が心臓部となるFCスタックに送り込まれ、取り込んだ酸素(空気)と化学反応をすることで電気が発生する。これが燃料電池車と呼ばれるゆえん。FCスタックはこれまでの常識からは信じられないほどの小型化を実現しており、シート下に配置されるため、室内空間や荷室を犠牲にすることなくパッケージングを成立させている。実際の駆動力はフロントタイヤ付近に搭載される電気モーターによる。「走る」部分についてはEVそのものなのだ。搭載されるモーターは154ps/34.2kgmを発揮する。基本的にはFCスタックで発電した電力がそのままモーターに供給されるシステムだが、減速時の回生や一気に大パワーが必要な際に電力をアシストするために6.5Ahkのニッケル水素バッテリーが搭載されている。リチウムイオンバッテリーではなく、ハイブリッド車で信頼性を高めたニッケル水素バッテリーを使用するあたりがいかにもトヨタらしいところ。ちなみに航続距離はワンタンク650km(JC08モード走行)というから、実走行では450~500km程度は行くだろう。最高速は165km/hとのことで、テストコースでは最高速で巡航するとワンタンク150kmは走ることが確認できているとのこと。