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更新日:2022.11.26 / 掲載日:2022.11.25
マツダの中期経営計画アップデート【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡
11月22日。マツダは中期経営計画をアップデートして説明会を開催した。大きく分けると、2つのテーマがある。
ひとつ目は、電動化時代に向けた開発強化で、ここでは2030年時点でのBEVの想定比率を25%〜40%と想定して、バッテリーの供給面でエンビジョンAESCと提携して調達を強化すると共に、従来のスモール群、ラージ群に加えてEV専用群を設けて「SKYACTIV EV専用スケーラブルアーキテクチャー」の採用を明確化した。加えて新しいハイブリッドシステムに言及したが、これはかねてより段階的に発表されてきているロータリーユニットを使ったシリーズハイブリッドを想定していると思われる。
基本的にはマーケット主導でBEV比率が高まって行くというよりは、規制の強化によって、スケジュールが前倒しになるケースへの対応を組み入れた形だと考えていい。
もうひとつは、サプライチェーンとバリューチェーンの再定義であり、この部分はマツダが注力してきた高付加価値販売の強化を意図したものだと考えられる。
面白いのは後者の方だ。多くの人が実感している通り、クルマの価格は上昇基調にある。安全装備の充実や、環境規制対策など多くの面でコスト増が進む中で、コロナ禍に端を発する部品不足の中で、原材料価格も急騰しており、価格の押し上圧力が止まらない。
しかも、バッテリー不足の中で、ZEV規制に対応して行こうとすれば、売り手市場のバッテリー調達で、バッテリー価格は益々跳ね上がる。ただでさえ高価なBEVを値上げしては、ZEV規制の販売数のクリアが絶望的になるので、BEVに関しては当面、利益率を落とした販売を余儀なくされるのは目に見えている。
となれば、その分、ICE搭載モデルの利益率を上げて行かなくては企業として存続できなくなる。今回の様に最大で40%ものBEVを想定するとなれば、その厳しさは推して知るべしである。だからこそエンビジョンAESCとのジョイントによる少しでも低価格で安定したバッテリーの調達と、ラージ群の高付加価値ビジネスが必要になるのだ。

とは言え、日本の市場を見れば、長らく給与が上昇していないという現実の中で、クルマの価格がどんどん上がって行けば、BEVに比べれば安価なICE搭載モデルも売れなくなるのは当然の流れだろう。現在、そこを救っているのが、残価設定ローンの存在である。
しかしながら、残価設定ローンで購入したクルマは3年後、若しくは5年後の下取りが前提なので、従来の様に、ユーザーが好き勝手にカスタマイズすることが出来ない。より正確に言えば、カスタマイズすることはできるが、それが下取り額に影響を与えれば、残価が落ちてしまう可能性があるのだ。
となれば、メーカー自身で公式カスタマイズモデルを用意するしかない。例えばCX-5に追加された「ブラックトーンエディション」や「フィールドジャーニー」などのモデルは、顧客に代わってメーカー自身が、カスタムモデルを用意している様なものだ。そして現在スーパー耐久などで活躍しているマツダスピリットレーシングは、そうしたカスタマイズニーズに対応する新たなリソースをして、組み込まれていくだろう。
今後時代が進んで行けば、そうした領域にディーラーがよりきめ細かい対応をしていくことになるかも知れない。そうした付加価値の積み上げを意図した、新しいビジネスが図の「両チェーンでムダ/ムラ/ムリを取り除く」に現れている。基本的には横軸のサプライチェーンはコスト低減を担い。縦軸のバリューチェーンは顧客の囲い込みによる売上の向上を狙うものだ。
長期的に見れば、人口減を控えた国内販売では地方のディーラーは従来通りにただ新車を売っているだけでは存続できなくなる可能性は高い。高齢者が増え、免許人口は実人口以上に減って行くだろう。その中でディーラー自身が存続を図ろうとすれば、従来の顧客が、自動車関連で払っている費用を可能な限り取り込んで行くしか無い。
当然、新車の販売に専念していたのではダメで、中古車の扱いも1台たりとも漏らさないくらいの覚悟がいる。今や車検や点検もサービスパックとして購入時に一括払いするシステムは当たり前になっているので、これを上手く活用すれば、新車ディーラーは、車両整備記録簿がしっかり整い、当然メインテナンスの行き届いた優良中古車を育てていくことが可能だ。そこに注目したのがバリューチェーンである。そういう意味で、今回の中期経営計画は、メーカーとしてのマツダの領域の話だけでなく、ディーラー網の改革を意図した大きな変化を目指したものだと言える。