車種別・最新情報
更新日:2024.06.26 / 掲載日:2023.12.30

新型クラウン セダン完全解剖&シリーズ最新情報

新型はHEVとFCEVの2本立て

クラウンクロスオーバーの登場から約1年、多くのユーザーと関係者から注目を集めていた、新型クラウンセダンがついに発売された。新型セダンは、サイズも価格も従来よりもクラスアップしてしまったが、待った分だけ完成度も上がったようだ。その魅力、余すことなくお伝えしよう。

●文:渡辺陽一郎 ●写真:トヨタ自動車(株)

TOYOTA 新型クラウン セダン

《FRセダン復活!》新型クラウン セダンのすべて

根強い需要のセダンも登場
シリーズ初のFCEVも設定

 クラウンは、セダンを中心とした国内向けの商品だったが、近年はこのカテゴリーの売れ行きが振るわない。実際、クラウンの2021年の登録台数は、1990年の10分の1程度。そこで現行世代は販売を強化するために、クラウンをシリーズ化することにした。クラウンクロスオーバー/スポーツ/エステートという3種類のSUVを設定し、セダンも用意。合計4車種までバリエーションを拡大する。今回発売されるセダンは、クロスオーバー、スポーツに続く、新世代のクラウンになる。
 クラウンのあり方が変わったことで、現行クラウンはSUV3系統を中心にしているが、にもかかわらず新型クラウンにセダンを残した理由は、法人の社用車、官公庁や自治体の公用車、ハイヤーなど、個人ユーザー以外に根強い乗り換え需要があるためだ。
 特に今は、日産・シーマやフーガ、ホンダ・レジェンドなどの上級セダンが次々と廃止された。プレミアムブランドのレクサスと輸入車勢を除くと、トヨタ以外の全長が4800㎜を超えるLサイズセダンは、V型6気筒3ℓツインターボを搭載するスポーツ指向の強い日産スカイライン程度だ。ライバル車が実質的に不在になり、今後のLサイズセダン需要は、従来以上にクラウンに集中する可能性が高い。このユーザーを輸入車などに奪われるのは惜しく、そこでクラウンセダンも新型になったと考えられる。
 ただし、SUVのクラウンのように、大量に売るのは難しい。2022年にクラウンシリーズの第1弾として発売されたクロスオーバーは、1か月当たりの販売基準台数を3600台に設定したが、クラウンセダンは600台と少ない。そのために多額の開発コストはかけられず、プラットフォームは先代クラウンセダンや、MIRAI、レクサスLSに使われるGA‐Lと呼ばれるタイプだ。SUVのクラウンは、GA‐Kプラットフォームに変更して前輪駆動をベースにしたAWDに発展したが、セダンは後輪駆動の2WDを踏襲する。SUVとは異なり4輪操舵機能も採用されない。
 パワーユニットは、幅広い車種に搭載される2.5ℓ直列4気筒のHEVと、MIRAIと同じ燃料電池車(FCEV)だ。燃料電池の搭載を見ても、官公庁や自治体のニーズを狙っていることが分かる。ボディサイズも全長が5030㎜、全幅は1890㎜に達しており、先代クラウンセダンに比べて120㎜長く90㎜ワイド。一定数の個人ユーザーもいるだろうが、法人や自治体の需要が中心になる可能性が高いだろう。

威風堂々のプロポーション
快適性能はトップ級

 先の項目で触れた通り、新型クラウンセダンのボディはかなり大柄だ。全長が5mを超える国産セダンは、今回のクラウン、センチュリーセダン、レクサスLSに限られる。クラウンセダンはホイールベースも3000㎜と長く、それでいて新世代クラウンの売りのひとつとなる後輪操舵は採用されていない。そのために最小回転半径はHEVが5・7mで、燃料電池車は5.9mとさらに大回りだ。販売店からは「全幅を90㎜拡大したこともあり、マンションの駐車場に収まらないお客様もいる。先代型をマイナーチェンジして、継続販売して欲しい」という話が聞かれたほどだ。
 その代わりエクステリアの見栄えは、堂々としていて立派だ。後輪駆動だから、フロントピラーに対して前輪が前寄りに配置されることもあってボンネットも長い。前輪駆動とは違う後輪駆動ならではのプロポーションは本当に美しく、これを目当てにするユーザーも出てきそうだ。
 さらに全長とホイールベースが長く、全高も1475㎜とセダンでは高めに設定されるため、居住空間が広いことも見逃せない美点のひとつ。特に後席は頭上と足元にタップリした余裕があり、SUVと違って後席を格納するなどのシートアレンジもないため、座り心地も適度に柔軟でとても快適だ。オーナーが後席に座り、長距離を移動する用途には、セダンは最もしっくりするモデルといえる。
 内装仕立ても上質で、プレミアムナッパ本革シート生地を全車に標準装着。すべての座席にシートヒーターと夏場でも快適なベンチレーション機能も備わる。さらに後席にはリフレッシュシートも採用される。この機能は、シート内部の空気袋を膨張させて背中から大腿部を押してくれる一種のマッサージ機能だ。オーディオも充実しており、14個のスピーカーを備えたトヨタプレミアムサウンドシステムも標準装着。なおHEVも燃料電池車もグレードはZのみで、実質的に最上級仕様に限られる。
 ハイブリッドシステムは、エンジンは2.5ℓ直列4気筒だが、マルチステージハイブリッドシステムを採用。トヨタブランド車としては初搭載だ。既存のシステムに比べると、有段式ギヤを組み合わせることでエンジンの最高出力を使える速度域を拡大しており、従来型は時速140㎞以上であったが、新型は時速43㎞以上で最高出力が作動する。エンジンとモーター駆動の相乗効果によるシステム最高出力は、先代型を20‌PS上まわる245PS。なお、WLTCモード燃費は18㎞/ℓ。先代型の2.5ℓハイブリッドは20㎞/ℓだったので、数値は若干下がっている。
 目玉の燃料電池車のメカニズムは、基本的にMIRAIと共通だ。燃料電池(FC)スタックには330のセルがあり、スタックの最高出力は128kW、モーターの最高出力は134kW、最大トルクは30・6㎏‐mになる。高圧水素タンクは3本搭載され、容量は3本の合計で141ℓだ。1回の水素充填で820㎞の走行が可能。充填に要する時間は約3分だから、電気自動車の充電に比べて大幅に短い。駆動はモーターがすべて賄うので、純電動車ならではの静かで滑らかな走りを長時間にわたって楽しめる。環境性能のみならず、走りの面でも面白い存在だ。

■主要諸元 (HEV Z) ●全長×全幅×全高(㎜): 5030×1890×1475 ●ホイールベース(㎜):3000 ●車両重量(㎏):2020 ●パワーユニット:2487㏄直4DOHC(185PS/22.9㎏・m)+モーター(132kW/300Nm) ●トランスミッション:マルチステージハイブリッドトランスミッション ●WLTCモード総合燃費:18.0㎞/ℓ ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ベンチレーテッドディスク(R) ●サスペンション:マルチリンク式(F)マルチリンク式(R) ●タイヤ:235/55R19

リヤシートも電動仕様。ボディ後端の絞り込みの影響もなく、足元も頭上まわりも余裕十分。後席にこれほどの余裕を持たせたことからも、VIP層を意識したショーファーモデルを意識しているのは明らかだ。

燃料電池車は補助金で
ハイブリッドよりもお得

 クラウンセダンの価格は、HEVが730万円だ。先代型は2.5ℓハイブリッドの最上級グレードが2WDの場合で約600万円だったから、新型は約130万円値上げされた計算になる。
 そこで新型と先代型で装備を比べると、安全面を中心に約40万円は内容が充実している。そうなるとボディサイズやホイールベースの拡大を含めたボディの刷新、内装の質感向上に伴って、新型は90万円上乗せされたことになる。この金額分が、実質的な値上げに相当するだろう。
 こうなる背景には、先に挙げた1か月に600台という販売基準台数の影響がある。新型クラウンの売れ筋はSUVとなり、セダンは歴代モデルほどの量産効果を期待できない。これが価格が割高になった大きな理由だ。ちなみにセンチュリーもセダンからSUVの新型になって700万円以上値上げされたが、この背景にも販売規模の縮小という理由がある。
 その一方で、新型クラウンの燃料電池車の価格は830万円。HEVと比べると100万円の上乗せに抑えている。MIRAIのZエグゼクティブパッケージは805万円だが、クラウンのFCEV車はさらに機能が充実している。新型クラウンのHEVは先代に比べて割高になったが、燃料電池車は逆にMIRAIよりも買い得になっている。
 しかも燃料電池車には、経済産業省による補助金が交付される。その金額は、クラウンの場合は136万3000円だ。ハイブリッドと比べた価格アップが100万円であれば、補助金を差し引くと、燃料電池車の方がHEVより36万3000円ほど安く手に入れられる。自治体によっては経済産業省とは別に補助金を交付する場合もあり、その場合はさらに燃料電池車が安くなる。
 クラウンの燃料電池車を割安に設定した理由は、普及の促進を図りたいためだ。燃料電池車を利用するには、近隣に水素ステーションが必要で、居住地域でもユーザーは限られる。それでも普及を図るには、保有台数が多く知名度も高いクラウンに燃料電池車を設定して、価格を割安に抑えるのが効果的ということだ。またMIRAIの生産と販売を通じて、燃料電池車の開発/製造コストが低減したことも割安な理由に挙げられる。
 さらにクラウンは、特別な残価設定ローンのトヨタパスポートエクスプレスも使える。このプランには期間が1年という短いコースもあり「次々と発売されるクラウンシリーズを毎年味見して、一番気に入った車種を見つけてください」というメッセージが込められている。クラウン専門店舗の「ザ・クラウン」も展開され、サブスクサービスのKINTOの利用など、新しい販売方法も提案している。新世代のクラウンを狙っているユーザーは、それら新たな買い方も検討するべきだろう。

パワートレーン

燃料電池車

HEV

プラットフォーム

セダンのプラットフォームは、FR駆動車向けのGA-Lをベースに開発。ボディもレーザースクリューウェルディング(LSW)や構造用接着剤の拡大などで剛性強化と軽量化を両立。前後配分や慣性モーメントを最適化する工夫など、走りの質を高める工夫も目白押しだ。

トヨタプレミアムサウンドシステム

車両設計の段階から音の専門家がチューニングを行ったプレミアムサウンドシステムは全車標準装備。14のスピーカーと8chオーディオアンプで構成される。

リヤマルチオペレーションパネル

後席のアームレストには、エアコンやシート機能、サンシェードの操作を行うタッチパネルが配置。指先一つで操作が可能になっている。

新型クラウン セダン《主要諸元&装備比較》

新世代クラウンシリーズ《最新購入情報》

 クロスオーバーとスポーツのデビュー時に設定された月販基準台数は、クロスオーバーが3200台、スポーツが700台。そもそもの計画台数が少ないことと、トヨタ車全体の納車遅れの影響により、ともに契約からの納車目安は長めで、今契約しても、クロスオーバーは来年の4~5月ころ、スポーツは来年9〜10月ころというのが納車の目安になっている。新しく加わったセダンも最新の情報では、納車までに4~5か月かかりそう。どのクラウンも全体的に納車には時間がかかると考えたほうがいい。※記事初出:2023年11月

クラウン クロスオーバー

デリバリーが始まったのは、1年前の2022年秋ごろだが、人気が高いため、慢性的に続いている受注残の状態はまだまだ解消できていない模様。ちなみに2023年10月の登録台数は2510台だ。

クラウン スポーツ

10月に正式発売されたスポーツ。現時点ではハイブリッドのみが注文できるが、納車まで1年待ちの状態だ。上級設定のPHEVもまもなく注文が始まるが(※2023年12月19日発売)、こちらも争奪戦になるのは必至。

クラウン セダン

月販基準台数が600台、かつ他社にライバルがいないこともあって、値引きなどの販売条件はかなり厳しい。現時点での納期の目安は4〜5か月だが、セダンの納期も長引く可能性が高い。

クラウン エステート

唯一、正式発売前のモデルとなるエステート。発売時期は2023年度内とアナウンスされているため、ディーラーレベルでは年を明けたころを目処に何らかの動きが出る可能性が高い。
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内外出版/月刊自家用車

ライタープロフィール

内外出版/月刊自家用車

オーナードライバーに密着したクルマとクルマ社会の話題を満載した自動車専門誌として1959年1月に創刊。創刊当時の編集方針である、ユーザー密着型の自動車バイヤーズガイドという立ち位置を変えず現在も刊行を続けている。毎月デビューする数多くの新車を豊富なページ数で紹介し、充実した値引き情報とともに購入指南を行うのも月刊自家用車ならではだ。

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