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更新日:2018.11.11 / 掲載日:2017.04.12
これぞ北欧流スポーティ! 大人も納得の知性派スポーツワゴン

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
ここまで洗練されたとは。それがV90の「T6 AWD R-DESIGN」に触れてもっとも強く感じた印象だ。
大型ステーションワゴンとしてこの春に登場したV90は、先行して発売された大型SUVのXC90と骨格や基本メカニズムを共用していることを知っている人も多いだろう。すべてを新開発したSPA(SCALABLE PRODUCT ARCHITECTURE)と呼ぶプラットフォームを採用していて、驚くのは一連の新世代モデルを製造するにあたって工場設備などの投資に費やされた額。なんとスウェーデンの産業史上最大級となる110億ドル(約1兆1000億円)がつぎ込まれたのだ。そんなチャレンジングな生産プランから生み出された初のステーションワゴンがV90というわけだ。
車格感を理解しやすいようにライバルをあげておくと、想定されるのはメルセデス・ベンツEクラス、BMW5シリーズ、そしてアウディA6のステーションワゴンだ。車体サイズも価格レンジも、それらドイツのプレミアムブランドと張り合うようなポジションに設定されている。
V70の実質的な後継モデルとなるV90だが、増えた数字が示しているようにV70時代に比べると車体はひと回り大きい。しかし120mm伸びた全長に対して車幅は10mm狭くなっており、実際のサイズは見た目ほど大きくないことは覚えておいたほうがいいかもしれない。
見た目と言えば、新しいデザインの洗練度は、何度見ても息をのむほどの美しさだ。前輪からフロントドアまでの間隔を伸ばしてボンネットフードを長く見せるプロポーションの大改革に加え、これまでボルボのフラッグシップワゴンが伝統的に持っていた垂直のテールゲートから決別したことで、躍動感は飛躍的に高まった。なかでもボクが気に入っているのは前後のランプで、フロントは北欧神話に登場するトール神(雷神)が持つハンマーをモチーフにしたT字型のヘッドライトがクール。リヤはボルボの伝統にしたがいピラーに埋め込んだテールランプが安定感あふれると同時に、後続車にボルボであることを主張していると思っている。
インテリアも旧世代とはモチーフが全く異なり、インパネのセンター部にはiPadのようなタッチパネル式の9インチモニターが組み込まれているのが次世代を感じさせる。そしてオーディオやナビから空調や車両設定までの操作を組み込んだことで物理スイッチの数が極めて少ないのも特徴だ。そこに、V70世代までの面影はほとんどない。
さて、V90には3つのパワートレインが用意されており、ベーシックタイプから254馬力のターボエンジンで前輪駆動の「T5」、320馬力のターボ+スーパーチャージャーエンジンで4WDの「T6」、そして同エンジンにモーターを加えたハイブリッドの「T8ツインエンジン」となる。エンジンはすべて排気量2.0Lの4気筒だ。

今回試乗した「T6 AWD R-DESIGN」は「T6」に設定されている、V90のなかでもスポーティな仕様に位置づけられるグレード。
そんなR-DESIGNが特別なモデルであることは見た目が物語っている。前後バンパーの意匠だけでなくグリル内部のデザインまで異なる専用エクステリアパーツを組み合わせ、エキゾーストパイプはリヤバンパーに内蔵。20インチのタイヤは安定感を主張し、シルクメタルのサイドウインドウトリムやマットシルバーのドアミラーで細部まで違いを演出。洗練性を追求したクリーンな他グレードに対し、R-DESIGNはワイルドな雰囲気を持っている。このテイストが気に入れば、R-DESIGN以外に選択肢は考えられないと断言できる。

基本的にはインテリアの仕立てもその延長線上だ。通常はアルミニウムや木目で明るさを演出するインパネだが、R-DESIGNはカーボンファイバーパネルでスポーティ感を強調。シートをはじめとするインテリアカラーの用意はブラックのみと、あえて選択肢を狭めて世界観を作り出しているのだろう。ちなみに標準装備されているパドルシフトは、90シリーズのなかでもV90 R-DESIGNだけに採用。これもV90 R-DESIGNが特別なモデルとして位置づけられていることの象徴のひとつだ。
フロントシート形状もR-DESIGN専用のスポーティタイプ。サイドサポートの張り出しが大きく、旋回中もしっかりと身体を支えてくれる形状になっている。
とはいえ座ってみるといかにも窮屈な設計ではなく、左右のサイドサポートの間隔が広くとられているので通常は見た目以上にゆったりしている。しかし、クルマが曲がり始めてひとたび身体に強い横方向への力(横G)がかかると左右のサイドサポートがしっかりと支えてくれる、頼れるシートなのだ。

だが、V90 R-DESIGNの真骨頂はそんな“見てわかる部分”ではない。そのサスペンションにあるのだ。XC90のR-DESIGNが特別な内外装を組み込む一方でサスペンションが標準モデルと共通だったのに対し、V90では専用サスペンションなのだ。これがふたつめの、V90 R-DESIGNが特別なモデルといえる証だ。
前後のスプリングはバネレートが標準サスペンションに対して約50%ハードになり、モノチューブのダンパー(他グレードはツインチューブ)を採用。アンチロールバー(スタビライザー)も強化され、電動パワステの味付けもスポーティな設定となっている。つまり、ひときわ締め上げたスポーツサスペンションを組み込んでいるのである。
とはいえ、走り始めると驚かずにはいられなかった。ハードに仕立てたスポーツサスペンションを組んで、重くて乗り心地には不利な20インチタイヤを履いているのだから乗り心地も悪化しているはず。という想像はガラガラと音を立てて崩された。乗り心地がいいのだ。それも「望外にいい」ではなく「かなりいい」のである。
路面の凹凸をしっかりと吸収するから突き上げがなく、ボディが上下にゆすられないフラットな乗り味は見事としか言いようがない。いっぽう峠道で楽しく走ろうと思ったときには、気持ちよく曲がりドライバーの意図したとおりに走るハンドリングはスポーティそのものと感じられる。そんな乗り心地のよさと、優れたハンドリングのハイバランスに驚いた。
ちなみにR-DESIGNでは、走行モード制御の切り替えを「コンフォート」から「ダイナミック」にするとパワステのアシスト量が変化してステアリングが重くなるが、サスペンションの硬さに変化はない。しかし、これは確実に錯覚なのだが、ステアリングフィールが変わることでサスペンションまでスポーティに感じられるような気がした。

それにしてもV90 R-DESIGNに試乗して改めて感じたのは、ここ数年でのボルボの乗り味の大きな進化だ。前身のV70が2007年に発売されたときは、ハンドリングは従来のボルボの味付けの延長線上でまったりと長い距離を走るのに適したゆったりしたものだった。いっぽうでコーナリングの俊敏さやリニアな挙動はなかったのだが、追ってV60が登場したあたりからシャープさも身につけてきた。そしてすべてが生まれ変わったいま、V90は優れた乗り心地とコーナリングを積極的に楽しめるハンドリングの両方を手に入れることができたのだ。R-DESIGNに乗ってみてそのバランスの高さを改めて知ることになった。
R-DESIGNの「R」はレーシングなどではなく「改善」や「洗練」を表す「Refinement」の略と言われている。今回の試乗で感じたトータルバランスの高さは、まさにその名前が象徴していたのだ。
【V90 T6 AWD R-Design(8速AT)】
全長 4935mm
全幅 1880mm
全高 1475mm
ホイールベース 2940mm
重量 1840kg
エンジン 直列4気筒DOHCターボチャージャー&スーパーチャージャー
最高出力 320ps/5700rpm
最大トルク 40.8kg/2200-5400rpm
サスペンション前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ前後 ディスク
タイヤ前後 255 /35R20
販売価格 769万円

シートはサポート性能が強化され、スポーティマインドを高めてくれる。シートバックにはR-DESIGNのロゴが型押しされ、特別感をアピール。
コックピットはブラック基調でトーンをまとめたシックかつスポーティなテイスト。デコラティブパネルはノーマルのウッドからカーボンに変更される。また、ステアリングも専用ロゴ入りでグリップしやすい形状。
ホイールはインスクリプションとサイズは一緒ながらもデザインが専用となる。