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更新日:2018.11.06 / 掲載日:2018.10.26
レクサス30年の歩みに迫る!ブランドヒストリー

トヨタの高級ブランド、レクサスは、2019年で30周年を迎える。北米市場における短期間での成功の一方、苦戦した日欧の市場でも、鮮明な個性を武器に着実に認められつつある。その歴史を振り返りながら、レクサスというブランドの今の立ち位置に迫ってみよう。
●文:横田 晃
北米での成功の武器は圧倒的な品質と快適性
マーケティングを学ぶ世界中の学生にとって、1989年に北米でローンチしたレクサスは、最も短期間で成功した高級ブランドとして必修の教材だ。それまで高級ブランドとは、長い歴史や伝統に裏打ちされた、顧客との強い絆や信頼関係によって成立するビジネスモデルと考えられていた。ところがその定説を、新興のレクサスは打ち破ったのだ。
その先兵となったのは、フラッグシップセダンのレクサスLS。日本ではセルシオとして販売されたこのクルマの出来栄えは、世界の高級ブランドをも震撼させた。加えて、日本的な気配りやもてなしを重んじる接客を始めとする世界観や価値観で、レクサスはたちまちアメリカ人の心を掴んだ。
高級ブランドに対する認識や定義は、国や地域によって異なる。チャンスの国、アメリカにおける高級ブランドは、成功者が手に入れる正当な報酬だ。それはアメリカンドリームの伝統的な形でもあり、最新、最高の機能や性能、デザインといった、わかりやすいステイタスが求められる。
1984年にプロジェクトが始まったレクサスの開発陣は、数か月にわたってアメリカに滞在し、高級車所有層のライフスタイルや考え方、自動車観などを詳細に調べた。そうして、彼の国の成功者たちが必ずしも現存する高級ブランド車に満足していないことを知り、レクサスブランドをその期待に応える存在とすることを目指したのだった。
その成果として「世界トップレベルのハイパフォーマンス・ラグジュアリーカーの創造」を基本コンセプトに生まれた初代レクサスLSの完成度は、圧倒的だった。なかでも静粛性と快適性は、海外の老舗高級ブランドにも真似ができないほどだったのだ。
LSの開発陣は、それまでの開発手法を一から見直し、開発中に発生する不都合を原因にまで遡って根絶する「源流主義」を掲げた。たとえば騒音振動の低減には、エンジンからトランスミッション、プロペラシャフトを経てリヤデフに至る経路が直線になるよう、すべての配置と搭載方法を改めた。
妥協を許さず矛盾する要素をも両立させる「Yetの思想」は、高性能と低燃費を両立させたV8エンジンや、ボディに制振鋼板を使って軽量と高い静粛性、CD値0.29というトップレベルの空力性能などを実現させた。
それまでのトヨタ車とはケタ違いの高いハードルを課してクルマを開発するレクサスのあり方は、この段階で確立されたのだ。
一方、商品企画の面でレクサスのターニングポイントとなったのが、’98年に登場したSUVのRX。日本名、ハリアーだ。
’94年にセリカのプラットフォームから生まれた世界初のオンロードSUV、RAV4を世に送り出したトヨタは、その上級車としてV6エンジンも搭載するハリアーを企画。それはレクサスRXとして販売され、北米で爆発的なヒットとなり、世界の高級ブランドにオンロードSUVを作らせるきっかけとなったのだ。
2代目となった’05年には、高級SUVとしては世界初となるハイブリッド車のRX400hも導入。これも大きな人気を呼んで、ハイブリッドに対して冷淡だったヨーロッパの高級ブランドにも、開発を急がせることになる。
レクサスの歩み【1989年】レクサスブランド誕生、最初はLSとESが投入された
LS400
ES250
レクサスの最初の商品は、日本では初代セルシオとして販売されたLSと、カムリのV6エンジン車、プロミネントがベースのES。LSの完成度と比べるとESは見劣りしたが、日本ではウィンダムとして販売された1991年登場の2代目ESからは人気も実力も急上昇。ESは5代目以降は日本未導入だったが、この秋、7代目となる新型で復活することになった。
レクサスの歩み【1991年】スポーツクーペSCがデビュー

SC400
1991年に初代が登場したレクサス初のパーソナルクーペのSCは、日本では3代目ソアラとして販売されたモデル。北米ではソアラにはないV8の4L搭載車も設定されていた。
レクサスの歩み【1993年】アッパーミドルセダンGSがデビュー、ラインナップ拡大が本格化

GS300
LSに次ぐクラスとして1993年に投入。ラグジュアリーを意識したESに対して、走りを意識したキャラが特徴。日本ではアリストとして販売されたモデルだが、ターボも搭載された日本仕様に対して、レクサスはNAのみの設定だった。
レクサスの歩み【1996年】レクサス初のSUV、LXがデビュー

LX450
ランドクルーザー80をベースに、本革シートや本木目パネルなどを装備してアップグレードしたレクサスモデルがLX。2代目からは100系ベースとなった。
レクサスの歩み【1998年】RXが空前の大ヒットを記録

RX300
今日では各社が競ってラインナップする高級オンロードSUVの先駆けとなったのがRX。日本ではハリアーとして人気を呼んだモデルだ。オンロードを快適に走れ、オフロード“も”走れる高級SUVというコロンブスの卵的商品企画は、SUVとはオフロードがメインのクルマという固定観念から逃れらない海外メーカーに衝撃を与えたことでも有名。
レクサスの歩み【1999年】日本のアルテッツアがISとして北米市場でデビュー

IS300
後輪駆動のスポーツセダン、ISの初代は、日本ではアルテッツアとして販売されたモデル。ただし、北米仕様のISのエンジンは、全車6気筒の2L&3Lで、内装も高級ブランドらしい仕立てで、別物として仕上げられていた。
レクサスの歩み【2002年】LXの弟分としてGXを投入

GX470
ランドクルーザープラドをベースに開発されたGX。本格オフロードの流れを汲んだこのモデルは、レクサスのブランドを冠した頑丈なフレームとリジッドのリヤサスペンションを持つ、タフな高級車として世に送り出された。唯一、日本に未導入のモデルでもある。
日欧でも認められるために磨かれつつある個性と“型”
ただし、北米での短期間での大成功と比べると、高級ブランドの本場であるヨーロッパ圏と、’05年に独立したブランドとして展開を始めた日本国内でのレクサスブランドの定着には、時間がかかった。
意識にも社会システムにも階級が残る欧州における高級ブランドは、持つにふさわしい客を選ぶ存在だ。若者が見栄で高級ブランドを身に着けることはないし、新興の成功者が歴史ある高級ブランドに飛びつくのは、下品で恥ずかしい行為とされる。そもそも、“新興”の高級ブランドという概念自体が、彼の地にはないのだ。
一方、日本国内の成功者たちは、かつての定番であった「いつかはクラウン」のようなヒエラルキーの階段を上りきると、やはり歴史ある海外の高級ブランドに“卒業”してしまう時代を迎えていた。
そこで、日本でのローンチを前にした’03年ごろから、レクサスはブランドの再構築にかかる。歴史は浅くとも個性的で、スポーティで、クリエイティブな高級ブランド像の確立を目指して、現在のスピンドルグリルに継承される際立ったデザインや、環境性能と走りを両立させたハイブリッドシステムなどの、鮮明な個性を押し出すのだ。
’05年にコンセプトカーが発表され、’10年に3750万円で発売された超高性能スポーツカー、LFAの500台の限定生産も、そうした戦略から生まれた、高級ブランドでなければできないチャレンジだった。
量販モデルにおいても、’07年に登場したIS-Fを皮切りに、高性能を売りにするモデルを続々と投入。’14年のRC、’17年のLCなどの尖った個性のクーペも送り出した。それらは高い環境性能を誇るハイブリッド車でありながら、楽々とドリフトが可能なほどの動力性能も実現して、高級車の新しい方向性を示している。
そうして、日欧でもようやく認知されたレクサスブランドは成長軌道に乗る一方で、けっして販売台数を追わないことをアナウンスしている。レクサスというブランドの姿勢に共感してくれるファンを大切にし、彼らを満足させるクルマやサービスを提供することが使命と言うのだ。
それは、レクサスが30年の歴史の中で、ついに揺るぎない“型”を手に入れたことを意味する。たとえば能や歌舞伎と同じように、時代を越えて息づく美や感動を提供する世界の入り口に、レクサスはようやく到達したのだ。
レクサスの歩み【2005年】日本にレクサスブランドを本格導入、当初はIS、GS、SCの3モデルをラインナップ
IS350
GS400
SC430
北米での大成功を引っ提げて、レクサスブランドが生まれ故郷の日本で立ち上げられたのは、2代目のISとGSがデビューした2005年。国内では、バブル景気崩壊後も高級輸入車の販売台数が伸び続けた一方、クラウンなどの従来の高級車の顧客がそちらに流出していた。その流れを食い止めるのもレクサスの使命だった。ちなみに4代目となるLSは、翌2006年に上陸を果たした。
レクサスの歩み【2010年】スーパースポーツLFAを発売

LFA
ブランド再構築の一環として開発プロジェクトを発動。スポーティで個性的なブランドをめざすレクサスの象徴として誕生したスーパースポーツカーが「LFA」だ。かのトヨタ2000GTと同様に、ヤマハとの共同開発がなされ、ハンドメイドのカーボン製ボディにV型10気筒のエンジンを搭載。世界で500台の限定生産で、2012年末から2年をかけて生産された。
レクサスの歩み【2014年】新世代レクサスとも称されるRCとNXを相次いで投入
RC200t
NX200t
保守的な高級車イメージを払拭する、先鋭的なモデルとして登場したのが、ラディカル(急進的な)クーペに語源を持つRCと、個性派SUVのNX。いずれもエモーショナルなデザインを最大の特徴とし、RCにはV8の5Lを搭載するFモデルも設定。NXにはレクサスブランド初のダウンサイジングターボエンジンも搭載された。
レクサスの歩み【2017年】ラグジュアリークーペLCをデビュー

LC500
LCは、ドリフトも可能なハイブリッドを謳う大型スポーツクーペ。3.5LのV6を積むハイブリッドはシステム出力359PS。V8、5Lのガソリン車は477PSを誇る。世界で戦える実力と品格を併せ持つ、レクサスのもう一つのフラッグシップだ。