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更新日:2022.12.26 / 掲載日:2022.12.22
【ポルシェ 911】歴代モデル情報・購入ガイドまとめ【車種別特集】

文●大音安弘 写真●ポルシェ
ドイツが世界に誇るスポーツカーの代名詞といえば、ポルシェ911だ。
ポルシェ初の市販車であるスポーツカー「356」の後継車として、1963年に登場した。水平対向6気筒エンジンをリヤに搭載し、後輪を駆動するRRレイアウト、その構造が生む低いシルエットのスタイル、カエルを彷彿させる2眼式丸目ヘッドライトなどの356の特徴を受け継いでいたが、新世代モデルとして高性能化と快適性の向上が図られ、全面的な刷新を受けていた。またボディ構造も同社初のモノコックボディであり、現代車と近いボディ構造であった。
- 911(タイプ901):初代モデルのレース仕様に「カレラ」の名前が使われた
- 911(タイプ930):911のイメージを定着させた大ヒットモデル
- 911(タイプ964):デザインを受け継ぎつつ現代化を果たした
- 911(タイプ993):空冷エンジンを搭載した最後の世代
- 911(タイプ996):水冷エンジン搭載という史上最大の改革を成し遂げた
- 911(タイプ997):911らしさを強調したデザインに完成度の高いメカニズム
- 911(タイプ991):サイズアップとスポーツカーとしての性能を両立した
- 911(タイプ992):新世代デザインに進化し、インターフェイスもデジタル化を加速させた
- 現行型911のラインナップ
- ポルシェ 911バイヤーズガイド【中古車編】
- タイプ996は国産上級車の価格で手に入る
- タイプ997は価格と内容のベストバランスだ
- タイプ991は年式が新しいだけあって弱点が少ない
911(タイプ901):初代モデルのレース仕様に「カレラ」の名前が使われた

ナローの通称で親しまれる初代は、当初、開発コードである「901」が、そのまま車名に使われる予定であった。しかし、フランスのプジョーが、「901」商標を所有していたことから、結果的に「911」を名乗るように。その名は現在まで使われ続けている。デビュー当初のエンジンは、自然吸気の2.0L水平対向6気筒であったが、最終的には、2.7Lがベースとなり、より高性能車向けの3.0Lエンジンもあった。
ポルシェで有名なグレード名「カレラ」が初めて使われたのは、ナローが最初だ。73年に登場したホモロゲーション獲得用モデル「カレラRS2.7」だった。カレラの由来は、スペイン語の「競技」を表すもので、レース用のマシンであることを意味しつつ、同時に、かつてポルシェも参戦し、成果を収めたメキシコ縦断公道レース「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」に由来する。
911(タイプ930):911のイメージを定着させた大ヒットモデル

1974年には、第2世代の911が登場。ファンからは、「930」の愛称で親しまれる。販売台数の多い米国市場に適合するために、衝撃吸収機能を備えた前後のビッグバンパーが特徴的だ。今も多くの人が思い描く911のスタイルが、この930ではないだろうか。
ビジュアル面では、ナローにそっくりだが、それもそのはずで、自然吸気仕様の911は、77年までは901ボディのままだった。それでは、なぜ「930」と呼ばれたのか、それは74年に発表されたポルシェ初のターボエンジン搭載の市販車であるポルシェ911ターボの開発コードが、「930」だったため。フラッグシップモデルの呼び名が、シリーズ全体で共有されるようになったのだ。実際に、930ボディへのアップデートは、78年モデルからとなる。エンジンは、2.7Lエンジンが基本であったが、シリーズ後半では、3.3Lまで拡大されている。
911(タイプ964):デザインを受け継ぎつつ現代化を果たした

第3世代となる911は、1989年にデビュー。通称、「964」と呼ばれ、そのスタイルは930を踏襲しているが、中身は全面的な刷新を受けており、排気量も3.6Lが基本となるなど、高出力化が図られた。
因みにターボ車は、3.3Lと3.6Lが存在する。新世代の911として仕上げられていた。最大の特徴は、当初は4WD仕様のカレラ4のみだったこと。これは当時のポルシェが、フラッグシップスポーツとして投入した「959」の4WDシステムの知見を活かしたもので、直進安定性やコーナリング性能の向上など、限界域でのドライビングが難しいRRレイアウト車の欠点の改善が図られていた。もちろん、後に定番の2駆モデルも追加されている。
またより多くのファンを獲得すべく、独自の4速AT「ティプトロニック」を初採用。これはATでありながら、任意のギアを自由に選び操れるMモード付のものであった。今こそ、MTモード付ATは当たり前だが、当時は画期的なアイテムであった。登場当時の異本は、バブル真っ只中ということもあり、街中で多くの964を目にすることが出来た。
911(タイプ964)オーナーのレビューをご紹介

911(タイプ993):空冷エンジンを搭載した最後の世代

1993年には、通称、「993」で親しまれる、第4世代となる911がデビュー。
スタイリングも、より流麗なものに仕上げられ、ボディサイズも拡大。エンジンは、3.6Lを基本とするが、一部グレードは3.8L仕様であった。最大の進化は、リヤサスペンションが、セミトレーリングアーム式からマルチリンク式に改められたこと。リヤスタビリティの向上と2駆モデルの人気が高かったことから、再び初期モデルは、2駆の「カレラ」から投入され、翌年に4WDの「カレラ4」が登場している。トランスミッションは、MTが6速に進化。さらにATの「ティプトロニック」は、「ティプトロニックS」へと進化。4速ATであることは同様だが、ステアリングにシフトスイッチを追加することで、ステアリングから手を放さずに、変速が行えるようになっていた。
搭載エンジンは、伝統の空冷式を受け継いでいたが、これが最後の空冷エンジンとなったことで、最後のポルシェ空冷エンジンモデルとしても有名。またレース参戦のためのホモロゲーション獲得のために、シリーズ初のターボ車をベースとしたスパルタンな仕様である「GT2」が初設定されたモデルでもある。
911(タイプ996):水冷エンジン搭載という史上最大の改革を成し遂げた

1997年に登場した5代目となる、通称「996」は、911史上最大の大改革が図られたモデルである。
最大の変化が、エンジンが伝統の空冷から水冷に改められたこと。これは環境対応が主な狙いであるが、ユーザーの利便性の向上にも繋がった。改革は、エンジンに留まらず、ボディ構造まで及んでいる。またビジネス的にも、ほぼ専用となる911の収益率を高めるべく、新たなエントリースポーツモデルとなる「ボクスター」との同時開発が行われたのも大きなトピックのひとつ。
これはエンジンを車両中心に積むミッドシップレイアウトのオープンスポーツカーとフロントセクションを共有化することで、2台分の開発費の圧縮を図ったものだった。
結果として、より手頃なポルシェのスポーツカーの誕生へと繋がったが、フロント部のデザインも共通となったことが、一部の911ファンから不評を買った。
このため、追加ターボモデルと後期型は、涙目と呼ばれる異なるデザインのヘッドライトを採用している。水冷式となったエンジンは、DOHC化などのアップデートにより、排気量を3.4Lに抑えながらも、高出力化を実現。
高出力モデルやターボ車、後期型には、3.6Lエンジンが使われている。トランスミッションは、6速MTに加え、ATのティプトロニックSも設定。ギア数が4速から5速に進化したことで、使い勝手と燃費が向上していた。また競技用やサーキット主体とするユーザー向けの新グレード「GT3」も登場。GT2がターボ車ベースに対して、GT3は自然吸気エンジンとなる。
911(タイプ996)オーナーのレビューをご紹介

911(タイプ997):911らしさを強調したデザインに完成度の高いメカニズム

2004年に登場した6代目は、通称、「997」と呼ばれ、996の大幅アップデートモデルであった。
スタイリングは、再び丸目ヘッドライトの911らしい顔つきに修正。この世代でも、弟分となるミッドシップオープンの「ボクスター」やミッドシップクーペの「ケイマン」と部品の共有化が図られているが、エクステリアの共通性は薄められた。
新たな機能も積極的に採用され、ステアリングはチルト機構を追加し、より多くの人が最適なドライビングポジションが得られるように。エンジンは、3.6L主体とするが、パワートレインは前期と後期が異なる。
自然吸気エンジンが直噴化され、ATが通常のトルコンATではなく、デュアルクラッチトランスミッションである「PDK」に変更された。PDKは、構造がMTに近いため、変速が素早く、ダイレクトにパワーが伝達でき、まるでクラッチレスの自動変速機能の7速MTなのだ。このため、ギア数は、MTよりも多く、スポーツ走行も得意とする。これにより元々高いAT比率がより高まることに繋がった。
911(タイプ997)オーナーのレビューをご紹介

911(タイプ991):サイズアップとスポーツカーとしての性能を両立した

2011年には、7代目となる通称「991」にモデルチェンジ。
そのスタイルは、997と似た雰囲気だが、よりワイド&ローの低さの際立つシルエットに。全長とホイールベースも延長されている。構造上は、軽量化を重視しており、アルミ合金などを多用化しており、サイズアップを図りながらも従来型より軽くなっている。
パワーユニットは、自然吸気の3.4Lと3.8Lの水平対向6気筒が基本で、ターボは3.8Lとなる。トランスミッションは、多段化が図られ、MTが7速化。PDKは従来同様に7速となる。
2015年のマイナーチェンジでは、エンジン排気量の最適化とCO2削減などの環境対策を目的に、ライトサイジングターボエンジンに変更。GT3などの特殊なモデルを除き、ほぼ全てがターボ車となった。これによりカレラシリーズは、新開発の3.0L水平対向6気筒ターボエンジンとなり、仕様により出力を変更。ターボ車は、従来同様の3.8Lエンジンを搭載した。
911(タイプ991)オーナーのレビューをご紹介

911(タイプ992):新世代デザインに進化し、インターフェイスもデジタル化を加速させた

現行型となる8代目は、通称「992」と呼ばれ、2018年に登場。911らしいスタイルは継承されるが、ライト類は、LEDヘッドライトの標準化に加え、横一文字のLEDテールランプを象徴とする新生代デザインに進化した。
991後期でライトサイジングターボ化を図るなど、大幅なブラッシュアップが図られているため、992はビックマイナーチェンジともいえる内容だ。但し、インテリアはデジタル機能が強化され、フルデジタルメーター、通信式インフォメーションシステムなど一気に最先端に駒を進めている。
エンジンは引き続き、3.0L水平対向6気筒ターボエンジンが基本。より高性能なモデルでは、GT3に従来同様に、自然吸気の4.0L水平対向6気筒エンジン、ターボには、3.8L水平対向6気筒ターボエンジンを搭載する。トランスミッションは、ATのPDKが、ついに8速化。7速MTも継続されるが、選択可能なモデルはより厳選されている。
現行型911のラインナップ

最新世代となる992のラインアップにも触れておきたい。
基本となる後輪駆動の「カレラ」をメインに。後輪駆動の高出力仕様となる「カレラS」、スポーツ性をビジュアルと性能で追求した「カレラGTS」という基本的なバリエーションを持つ。さらに4WD仕様では、「カレラ4」、4WDの高出力仕様の「カレラ4S」、4WDの上級仕様「カレラ4 GTS」がある。後輪駆動車専用グレードとして2シーター化などの軽量化を図った「カレラT」も設定。これらは全てハードトップを持つクーペだが、それ以外にも、オープンカーの「カブリオレ」では、「カレラ」、「カレラS」、「カレラ4」、「カレラ4S」、「カレラGTS」、「カレラ4 GTS」とクーペとほぼ同じラインアップが選べる。
さらにキャビン上部のルーフ部だけを格納できるタルガトップを持つ「タルガ」では、4WDモデルのみがラインアップされ、「タルガ4」、「タルガ4S」、「タルガ4 GTS」を用意。トランスミッションは、ほぼPDKが基本となり、クーペモデルのみ一部にMT車が設定されている。
この他にも、フラッグシップモデルとなるグランドツアラー「ターボ」シリーズやモータースポーツ向けやピュアスポーツを望むユーザーのための「GT3」シリーズなども用意されている。
911と言っても、かなり多彩なボディとキャラクターの車両が取り揃えられていることが分かるだろう。911は、単に高性能なスポーツカーではなく、豊富なバリエーションから自分に最適な一台を選び出すことでも、楽しませてくれる一台なのだ。
ポルシェ 911バイヤーズガイド【中古車編】

一般的には、新車よりもお手頃なのが中古車の魅力。しかし、憧れのポルシェ911となると一筋縄ではいかないのが現実だ。国内外の新車製造の遅延による納期の長期化の影響も多少あるが、コロナ禍で旅行やレジャーなど移動に関する消費が減った分、富裕層の目が趣味性の高いクルマに向いた影響もあり、中古車相場が上昇傾向にあるのだ。
さらに初代(ナロー)から4代目(993)までの空冷ポルシェは、以前からの相場上昇に加え、メンテナスやレストアに必要な部品代の高騰もあり、選ばれし者だけに所有が許させる存在となっている。端的に言えば、非常にお金がかかる。ただ、それも仕方ない話なのだ。何しろ、最後の空冷となる4代目911(993型)でも、1998年が最終生産車と、24年も前なのだから……。
参考までに、グーネットで掲載される初代911(ナロー)は、ほぼすべての車両がASK(価格応談)となっており、価格が提示されているものも2,000万円を超えている。2代目911(930型)は、ナローより数は多いものの、流通台数は少なめ。こちらもほとんどの掲載車が、ASKとなっており、プライズタグを掲げる車両は、ほとんどが1千万円台だ。3代目911(964)も流通数は少ないが、下限は1000万円前後からで、やはりASKのものが多い。また964からはATのティプトロが登場したため、価格が低めのものは、全てATだ。MT派は、更なる負担が求められる。最後の空冷4代目911(993)も、流通量は少なめ。下限は1,000万円前後からあるが、1500万円前後を中心に、2000万円越えの車両もチラホラ。さらにASKも多く見られる。このように購入予算からハードル高めなのが、空冷ポルシェなのである。
タイプ996は国産上級車の価格で手に入る
中古車価格で、興味を注がれるのは、初の水冷モデルとなった5代目911(996型)だ。
なんと下限は、200万円前半から。一部ASKの車両もあるが、上限でも1,000万円前半なのだ。中心価格帯は、300万円台~500万円台なのだから、一気に現実味を帯びてくる。何しろ国産上級車の価格帯で、憧れの911が手に入るのだ。
しかし、ここは冷静に考えて欲しい。現代化を図った996の最終生産車でも2002年と立派な20年選手なのである。また水冷エンジン化第一世代であり、当時のポルシェは収益改善のため、コストダウンにも熱心に取り組んでいた。お手軽だから、維持も楽々とはいかないことを認識すべきだろう。購入後に、すぐに修理代の必要となる可能性も十分にあるため、購入価格に加え、最低100万円~200万円の余裕は持っておきたい。もちろん、その費用が不要となれば幸いだが、それでも近い将来に、小さくない金額のメンテナンス費用が発生するのも、また現実なのだ。
タイプ997は価格と内容のベストバランスだ
そこでおススメしたいのが、トラブル例が少ない先々代の6代目(997)と先代の7代目モデル(991)だ。
まずは6代目911(997型)だが、それ以前の911と比べ、まず流通台数が多め。価格も300万円台~2000万円越えと幅広いが、1000万円越えの車両は、低走行車や特別なモデルが中心。
豪華で高性能な「911ターボ」だって、1000万円以下で狙えるほどだ。MTに拘っても、600万円台から見つかる。911購入が目的ならば、500万円以内でも叶えることが出来るため、エントリーポルシェとしては、最有力候補といえる。ATについても、前期型は必要十分な5速AT。後期型では、MTベーストランスミッションの7速PDKを搭載しており、ATを選ぶストレスも軽減されている。
メインとなる911カレラ系モデルは、自然吸気仕様の3.6L水平対向6気筒エンジンを搭載するが、後期型では、新設計の直噴エンジンに変更されている。997特集の注意点は少ないが、前期型モデルは、経年劣化によるスイッチのベタツキが発生するため、いずれ交換や修理が必要となると認識しよう。
タイプ991は年式が新しいだけあって弱点が少ない
最後に先代となる7代目911(991)について。こちらは年式も2011年~2019年と比較的年式が新しいこともあって、弱点は少ない。
最大の悩みは、価格かもしれない。価格帯は、800万円~3,000万円と幅広いものの、スタンダードな911カレラに限定すると、800万円~1500万円まで圧縮。数は少ないが、900万円前後でも、検討する価値のある固体が見つけられる。ただMTの入手は難しい。
これはMTライクな走りも楽しめるPDKが登場したことで、MT設定グレードが絞り込まれたこと。そして、991から採用される7速MTが、従来の6速MTと比べると、フィーリングや操作性が落ちることにある。だから、MTと同じギア数を持つ7速PDKを選ぶのも有りかもしれない。また前期型のカレラは、自然吸気の直噴エンジンとなるが、後期型は、一部特殊モデルを除き、全車がターボ化されている。年式や走行距離などで、後期型の方が値段は高め。自然吸気エンジンの前期型の方が、比較的安いようだ。ただ将来的には、自然吸気エンジンの人気が高まる可能性も十分にあるから、無理にターボ仕様のカレラを選ぶ必要はないかも。その点は、捕らぬ狸の皮算用ではなく、好みで決断して欲しい。
注意点としては、人気オプションである「スポーツクロノパッケージ」に含まれるエンジンのアクティブダンパー(PADM)の存在だ。これは調整可能な油圧式エンジンマウントなのだが、壊れることがある。エンジンの左右に備わり、1か所の修理で30万円ほど。左右だと50万円ほどと言われる。このため、購入検討者の中には、スポーツクロノパッケージ非装着車を探す人もいるほど。ただその点以外に、大きなウィークポイントはないため、かなり優秀な911といえるだろう。
今も昔もクルマ好きにとって憧れの存在で有り続けたポルシェ911だが、以前は中古車の流通台数も多く、手頃な価格のものも散見された。しかし、それも今や過去のこと。購入のハードルは、数段も上がってしまった。しかし、ポルシェ911を所有したという経験は、ユーザーにとって、一生の宝となるはずだ。もしあなたが、本気で911を手にしたいなら、広く情報を集め、信頼できる販売店を見つけ、憧れのポルシェ911ライフへと繋いで欲しい。決して、叶わぬ夢ではないのだから……。