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更新日:2023.05.09 / 掲載日:2023.03.02

【VW ID.4】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国ではクルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、近年、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか見分けるのが難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回フォーカスするモデルは、VW(フォルクスワーゲン)「ID.4」。日本に導入されるVW車としては初めてとなるEV専用のアーキテクチャーを採用したこのモデルは、果たしてどんな実力を見せてくれるのだろう?

【第36回 ボルボ XC40リチャージ】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

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VW ID.4のプロフィール

ID.4

 2050年までのカーボンニュートラル実現を目標に、EVを多くの人々にとって身近な存在とすべくVWが開発したのが、“MEB(モジュラー エレクトリックドライブ マトリックス)”と呼ばれるEV専用のアーキテクチャーだ。

 コンパクトカーからSUV、そしてミニバンに至るまで、幅広い車種に対応するMEBは、前後アクスル間のアンダーボディにバッテリーという重量物を配置することから、車両の低重心化と最適な前後重量バランスを実現。駆動用モーターの大トルクを余すところなくトラクションに変換する後輪駆動レイアウトと相まって、ダイナミックなドライビング性能を手に入れている。

 そのMEBを日本に導入されるVW車で初めて採用したのが、ここに紹介する「ID.4(アイディ フォー)」だ。ID.4はMEBアーキテクチャーをベースとするVWのEVラインナップ“ID.ファミリー”に属するVW初のフル電動SUVで、本国では2020年に登場。現在はヨーロッパだけでなく、北米や中国でも生産・販売されるVWの世界戦略モデルとなっている。2021年には全世界で約12万台が販売されるなど、ID.ファミリーでナンバーワンの人気車種に。さらに同年にはワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、高い評価を獲得している。

 日本市場向けは、2022年11月に導入仕様となる「ローンチエディション」の発売を開始。このモデルには、VW、アウディ、ポルシェの3ブランドによる独自の充電ネットワーク“PCA(プレミアム チャージング アライアンス)”の年会費や、1年間、VW販売店での充電をひと月当たり60分まで無料で利用できる会員特典、さらに、ユーザーが家庭に設置する普通充電器の設置費用10万円分のサポートや、買取価格保証型の残価設定ローン“フォルクスワーゲン ソリューションズ”の特別残価設定といった特典が付帯していたことから、順調なセールスを記録。多くの販売店で完売、あるいは在庫が希薄となったことから、インポーターでは2023年第2四半期以降の販売分となる標準グレードの販売を前倒しで行っている。

■グレード構成&価格

・「Lite」(514万2000円)

・「Pro」(648万8000円)

■電費データ

「Pro」

◎交流電力量消費率

・WLTCモード:139Wh/km

 >>>市街地モード:125Wh/km

 >>>郊外モード:132Wh/km

 >>>高速道路モード:153Wh/km

◎一充電走行距離

・WLTCモード:618km

「Lite」

◎交流電力量消費率

・WLTCモード:132Wh/km

 >>>市街地モード:116Wh/km

 >>>郊外モード:124Wh/km

 >>>高速道路モード:144Wh/km

◎一充電走行距離

・WLTCモード:435km

【高速道路】最新のスタッドレスタイヤは電費への悪影響はかなり抑えられている

 ID.4のテストは、アウディQ4 e-tron Sラインと同時に行った。両車はバッテリー容量やモーターの最高出力、最大トルク、タイヤサイズなどが同一(バッテリー容量のカタログ表記はID.4がネット、Q4 e-tronがグロスで違いがあるが同一)、車両重量はID.4のほうが40kg重いという以外、走りや電費に関するスペックは同じだ。ただし、Q4 e-tronは標準装着のサマータイヤを履いていたのに対してID.4はスタッドレスタイヤだった。一般的には20%ほど燃費、電費は悪化すると言われているが、同じシチュエーションのトヨタbZ4Xとスバル・ソルテラのデータからみれば、そこまで大きな差はなく、せいぜい5−10%程度。最新のスタッドレスタイヤは転がり抵抗も気を使っているようだ。

記録した電費は

制限速度100km/h区間のその1は4.4km/kWh、その4は5.6km/kWh。

制限速度70km/kWh区間のその2は5.4km/kWh、その3は5.6km/kWh。

ちなみにQ4 e-tron

制限速度100km/h区間のその1は4.6km/kWh、その4は5.8km/kWh。

制限速度70km/kWh区間のその2は5.4km/kWh、その3は5.4km/kWh。

 ほぼ同じか、ほんの少しQ4 e-tronのほうがいいかなといったところだが、これこそタイヤ、重量の微妙な違いだろう。

 Q4 e-tronで記した通り、制限速度100km/h区間はその1ではペースが順調で、その4はだいぶペースが下がって電費が良くでてしまっている。

【ワインディング】最新モデルだけあって駆動方式のデメリットは感じない

 Q4 e-tronと同じく、今回はいつもの箱根ターンパイクではなく、箱根新道でワインディングロードのテストを行った。

電費は

登りが1.9km/kWh、下りでは2.1kWhを回生。

ちなみにQ4 e-tronは

登りが1.9km/kWh、下りでは1.9kWhを回生。

となっているので、これもほとんどかわらない。

 RWDにはメリットもあるが、回生はあまり強くとれないものかと思いきや、同じような車両重量のFWDと下りの回生量はそれほど差があるわけでもない。最新の制御技術があれば、デメリットとはならないようだ。それよりも半導体の性能等が電費や回生の能力を決定付けるとみていいのだろう。

いつもテストする箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)が利用できなかったため、並走する箱根新道を使ってテストを実施した

【一般道】車重2000kg級のSUVとして優秀な電費を計測した

 

 一般道の電費はQ4 e-tronが6.0km/kWhだったのに対して5.7km/kWhとわずかに届かなかった。車両重量が40kg重く、スタッドレスタイヤを履いていることを考慮すれば、1割弱の差は想定内といったところだ。過去のテストをみてみると、制限速度70km/hでストップ&ゴーのない小田原厚木道路よりも一般道のほうが電費が悪いケースといいケースの両方があるが、今回はQ4 e-tronもID.4も一般道のほうが良かった。一般道は信号のタイミングや周囲の交通状況によって電費がバラツキやすいが、今回はスムーズであり、かつヒーターの負荷が一般道のときが一番少なかったというのも幸いした。いずれにせよ、車両重量2000kgオーバーのモデルとしては、一般道の電費は悪くない部類だ。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

【充電】90kWの急速充電器を30分使用し25.1kWhを充電した

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 スタート時はバッテリー残量93%、走行可能距離371km。そこから139km走って復路・海老名サービスエリアに到着したときにはバッテリー残量50%、走行可能距離217kmだった。出力90kWの急速充電器を30分使用して25.1kWhを充電。バッテリー残量79%、走行可能距離339kmまで回復した。充電開始直後の出力は48kW程度で一時期55kWほどまでいって終了直前は再び48kWに落ちた。平均は50.2kWだ。過去のデータでは、アウディRS e-tron GTが同じ急速充電器で39.2kWhを充電、平均出力78.4kWだったので、少々物足りない。ただし、別日の往路・海老名サービスエリアでアウディe-tron GTは出力90kWを30分使用しても25.5kWhしか入らなかった。外気温およびバッテリーの温度などで違いがあるようだ。出力40kWのほうは充電量が少ないもののバラツキは少ない。

前席とのゆとりがあるのに加えて足元もフラットで居心地がいい

ID.4はどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 インテリアのデザインやシフトセレクターなどは先進的で新しい時代のEVを主張しているようなID.4だが、それ以外はオーソドックスだ。基本的には質実剛健で良心的なクルマ作りをするフォルクスワーゲンらしく、これまでゴルフやティグアンなどのエンジン車に乗ってきたユーザーを戸惑わせることなく、走行フィーリングなどを自然に仕立てているのだろう。それでいてEVの美点であるトルキーで頼もしい加速や静粛性の高さはしっかりとある。また、同じようなサイズのティグアンに比べると、ロングホイールベースゆえに後席の居住性が圧倒的に高いのが魅力。RWDなので前輪の切れ角が大きく、ロングホイールベースでも回転半径は小さく抑えられている。逆にRWDのデメリットはほとんど感じられない。初めてのEVとして付き合いやすいモデルだろう。

ID.4 Pro

■全長×全幅×全高:4585×1850×1640mm

■ホイールベース:2770mm

■車両重量:2140kg

■バッテリー総電力量:77.0kWh

■定格出力:70kW

■最高出力:150kW(204ps)/4621~8000rpm

■最大トルク:310Nm(31.6kgm)/0~4621rpm

■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク

■ブレーキ前/後:Vディスク/ドラム

■タイヤ前/後:235/50R20/255/45R20

取材車オプション(Proローンチエディション)

フロアマット(テキスタイル)

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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