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更新日:2023.12.25 / 掲載日:2023.05.05
ダイハツの不正を考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●トヨタ
4月28日ダイハツ工業株式会社は、ダイハツで開発を行った海外市場向けの4車種で側面衝突実験の認証申請における不正行為があったことを発表した。発覚は内部告発によるものだ。
ユーザーや市場との信頼関係こそが根幹である企業にとって、言うまでもないが不正はあってはならないこと。ましてやそれが生命に直接関わりかねない安全分野での不正となれば、言語道断としか良いようがない。
この件、善悪判断の話としては疑問の余地なくダイハツはクロであり、ユーザーを筆頭に、株主、当局他、全てのステークホルダーに対して、徹底的かつ丁寧な説明を行うべきである。処断、処分など、全ての判断はその説明の後にそれぞれが決めることである。
不正があった4車種は、タイとマレーシアで生産し、タイ、GCC(UAE、サウジアラビア、オマーン、バーレーン、カタール、クウェートの6カ国)、メキシコなどで、トヨタブランドで販売する「トヨタ・ヤリスエイティブ」。マレーシアで生産し、マレーシアでプロドゥアブランドで販売する「プロドゥア アジア」。インドネシアで生産し、トヨタブランドでエクアドルで販売予定の「トヨタ アギア」。加えて未発売で詳細未発表の1モデルであり、4車種とも設計開発は日本のダイハツ工業である。
不正の内容は、「時速50キロで側面衝突用台車を運転席真横から衝突させ、ドライバーを模したダミーに対する危害性を評価する」側突安全の認証実験において、特別な加工を施したドア内張を用いて、安全性評価を偽装したことと発表された。
具体的にはドア内張の樹脂の一部に、生産モデルでは採用されない切り込み加工を施して、衝突時に、鋭利な樹脂の割れが、乗員の身体に接触する部位で発生しないことを意図し、破片形状による身体損傷を防いだものだ。
ここまでがまずはファクトとそれに対する基本的な考えのまとめである。以後、考察に入る。まずは今回の偽装実験は当然、当該車両への安全性への疑義につながる。そこについては、ダイハツ側の説明では、社内での再実験の結果、偽装加工が施されていない車両でも安全基準は満たしていることが確認されており、不正が行われた車両が直ちに危険な状態であるわけでも、使用の制限、改良などが必要であるわけでもないという見解だ。
これについては、よもやこの状況下での確認実験で再度の不正などはないと思われるので、原則的に信じるとしても、まだ疑問がある。試験に通る仕様であったにも関わらず、なぜわざわざ不正な加工を施したのか。不正の動機が全く意味不明である。
会見に臨んだダイハツ工業の奥平総一郎社長の説明では、「衝突試験に関しては一発で合格するための余裕を作りたかったのではないか」「細工をしてよりマージンを稼いだとしか、今のところ考えられませんが、そこのところの意図、本当の真因について、きちっと調査して報告したいと存じます」とのこと。わからないことに言及しない慎重な姿勢であり、当事者としては憶測で言い訳がましいことが言えない局面であることは理解できるが、会見としてはいまひとつわかりにくい。
別途開かれた親会社であるトヨタの緊急会見で、同じ質問をエンジニア出身のトヨタ自動車の佐藤恒治社長に向けると、あくまでも推定であることを断った上で、「開発のプロセスを見ると、複数回の設計変更を行なっている中で認証取得のタイミングを迎えている。エンジニアとして見ると、こういう部分にスリットを入れて、意図的に弱体部を作るということは、人体に被害が及ばないようにするために、より安定的に変形をコントロールするという意味で、技術上我々が常日頃行っている妥当な開発です。エンジニアとしてはより安全なクルマを作ろうとしている純粋な開発行為であることから、本来であればそれは正式な設計変更として、試験に織り込まれるべきもので、なぜ設計変更の必要をオープンに言えなかったのか。その原因をしっかり追及していく必要があると思っています」と説明した。直接当事者でないだけにわかりやすい。
さて、この件、まだ事態が発覚したばかり、奥平社長が言う通り、真因の調査は必須であると同時に、仮に佐藤社長の推測通り、より安全なクルマを作る取り組みがオープンに言えない体質があるのだとしたら、そこは徹底的に改革していくしかないだろう。拙速な処分による見せしめよりも、不正が起きるに至る原因をしっかりと確認し、改善を進めてもらいたい。