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更新日:2026.03.13 / 掲載日:2026.03.13

EV元年ならではのトレイルシーカー【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●スバル

 スバルは、新型EVトレイルシーカーを4月9日に発表、受注を開始する。トレイルシーカーはすでにデビュー済みのソルテラをベースにしたバリエーション車両で、トヨタとの共同開発車である。

 兄弟車として開発されたスバル・ソルテラとトヨタbZ4Xと同じく、トレイルシーカーもまたbZ4X Touringと兄弟関係になる。なおトヨタは一足早く2月25日に、bZ4X Touringを発売している。

スバル トレイルシーカー プロトタイプ

 昨年後半から、国内各社から、従来に比べて買い求めやすい価格のEVが続々登場しており、その多くが航続距離700km前後と従来比で大幅に1充電航続距離を伸ばしていることから、ついに日本にもEV元年がやってきた感がある。

 現実的な使用環境において、日帰りで出掛ける場合は相当に頑張っても片道350kmくらいだろう。東京を起点にすれば、概ね西は名古屋、北は仙台くらい。自宅で満充電にしてあれば、往路は何の心配もないし、そこそこの出力の充電器で1回充電すれば帰って来られる。航続距離700kmと言っても流石にそれはWLTCでの発表値なので、実走行では8掛け程度だろうと。それでも初代リーフの頃は名古屋までの往路だけで3回充電が必要だったことを思い起こせば、隔世の感がある。

 要するに、ちょっとした手間を厭わない人ならば、日帰りに関してはもう実用領域に入った。加えて補助金を加味すればこれらのクルマが400万円台中盤で買えるようになった。従来のICEの感覚で考えると安いとまでは言えないが、手が届く人がだいぶ増えたはずだ。つまり買える人には買える価格帯、かつ実用的航続距離をクリアした選択肢が大幅に増えたのが、2025年後半からの流れだ。

スバル トレイルシーカー プロトタイプ

 そうした状況下で、トレイルシーカーは、さらに一歩踏み込んだ。これまでデビューした多くのEVは、ICEのデザインと如何に違って見えるかを競い合い。未来的なデザインに拘ってきた。また航続距離の激しい競争の中で、電費を左右する空力もまた激烈な競争領域だったため、ボディシェイプもまたみな似た様な形に行き着く。床下にバッテリーを収める制約があるEVの場合、室内空間を確保するためにはどうしてもルーフ高が上がって、前面投影面積を減らすことが難しい。結果、どのクルマも高いルーフ高にCD値の低いシェイプを組み合わせるしかないので、ボディの形を決めるのは物理法則。それは似た様な形になるに決まっている。

スバル トレイルシーカー プロトタイプ

 本来であれば、どんな動力機関を搭載しているにせよ。使用目的に合ったボディスタイルというものがあるはずで、従来のワゴンの様な使い方をするなら、ワゴンらしい垂直に近いリヤゲートが必要だ。空力優先ならリヤのスロープ角度は最適値となる17°から譲れなくなるが、それではアウトドアギアを満載して出かけたいというニーズを満たせない。

 トレイルシーカーと bZ4X Touringは、ようやく「EVらしさ」の呪縛を離れ、ユーザーの使用目的に合わせたデザインを手に入れた国内初のEVである。それはマルチパスウェイの中で「普通に」EVという選択肢が選べるということであり、とりも直さず、ようやくEVが普通のクルマになりつつあるということだ。もう少し先の未来になれば、これまでICEのラインナップの中で、自分の使い方に見合った排気量のエンジンを選んだように、EVを含む動力機関から自分の使い方に見合ったものを選択する時代が来るのではないか。

 さて、グレード構成を見てみよう。駆動はFFとAWDが選択可能。フロントのモーターは167kW(227PS)。AWDもフロントは共通で、リヤにもフロントと同出力の167kW(227PS)を搭載する。バッテリー容量は74.7kWhワングレード。そのため、FFの航続距離はWLTCで734km。AWDモデルでは690kmとなる。

スバル トレイルシーカー プロトタイプ

 ざっくり言えば、これまでEVは、床側からはバッテリーやリヤのeアクスルに蹴られ、ルーフ側からは空力のために傾斜の強いリヤウインドーで抑え込まれラゲージ容量に少々我慢を強いられていたが、トレイルシーカーは、なんとアウトバックを上回る積載容量を手に入れた。ロードクリアランスもわずかながらアウトバックを上回る。つまりアウトドア志向の強い米国のスバルユーザーをターゲットに据えたEV版のアウトバックということだ。

 当日は群馬サイクルスポーツセンターの積雪路での試乗となったが、極めて素直な素性で、最低限のスピードコントロールさえすれば、雪をものともせずに曲がって行く。EVならではの緻密な電制とAWDあっての性能だ。残念ながら価格はまだ発表になっていないが、ありそうでなかった「普通の格好のEV」なので、自宅のガレージに停めておいても、EVだと気づかれなさそうなところが好感触だ。

 トヨタのTHSIIをベースにしたS:HEVのクロストレックに加え、スバルユーザーの痒いところに手が届くEVの発売は、米国マーケットが極めて重要なスバルにとって、艦隊の主要艦艇が揃ったというところだろう。トヨタとの協業の中で、まだまだ隠し球が出てくる様子なので、先行きが楽しみである。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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