車の最新技術
更新日:2022.06.30 / 掲載日:2022.06.18
新型ステップワゴンに見るメカニズムの進化【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ホンダ
2022年5月にホンダ・ステップワゴンがフルモデルチェンジをうけた。1月にはトヨタ・ノア/ヴォクシー、さらに年内には日産セレナといったガチンコのライバルも新型に切り替わるとあって今年はミドルクラス・ミニバンが熱い年になっている。ファミリーカーの定番であり、どれもサイズやカタチ、機能は似通っているが、世代によって人気に少なくない差がつく。何が要因なのかはっきりと把握するのは難しいが、デザインが大きな要素を占めるのは間違いのないところだろう。箱型ミニバンではトヨタ・アルファード/ヴェルファイアに代表されるオラオラ系の威張りの効いたデザインが長らく人気であるが、先代がやや苦戦気味だったステップワゴンは、逆張りともみえる勝負をかけた。

先代はノーマルが基本としてあって、派生としてスパーダを造っていたが、販売比率はオラオラ系に近い後者が約90%だったという。新型ではノーマルを廃して、シンプル&クリーンなAIRと従来通りのスパーダを造り分ける。どちらかが派生であるという考えではなく、どちらも同じように力を入れているのだ。事前にはAIRのほうが洒落ていて評判がいいという声が多く聞かれ、ディーラーを訪れる人もAIR目当てが多かったようだが、実際にはAIRでは電動テールゲートが選べないなど、装備面でスパーダのほうが充実していることもあり、発売数週間ではスパーダが50%超えで軍配が上がっているようだ。箱型ミニバンでシンプル&クリーンがどれだけ受け入れられるのか、モデルサイクルのなかで注目しておきたい。
新型ステップワゴンはプラットフォームをキャリーオーバーとしているが、ボディ全幅は3ナンバーとなる1750mmとしてトレッドも拡大。先代で蓄積してきた解析結果を開発に生かし、サイドシル断面の大型化、フロアの剛性向上などで基本的なシャシー性能を上げている。部分的にはあえて剛性を落として全体のバランスをとることも行っているという。またサスペンションはストロークアップしてバンプラバータッチで衝撃を和らげているという。
こうした効果は走らせてみるとすぐに実感できる。サスペンションがしなやかに動くようになり、大きな凹凸での衝撃に対しても懐の深い印象がある。足が良く動いているという表現がぴったりだ。
ステップワゴンはもともと箱型ミニバンのなかではハンドリングがスポーティな部類だったが、乗り心地が快適になってもそこはキープされている。トレッドの拡大、ホイール・リム幅の拡大などが功を奏してタイヤが路面を捉える力が強くなった印象で、コーナリング中の踏ん張り感が高いのだ。高速道路でのフラつきを抑制する効果もあるのでロングドライブでも快適だろう。また、音・振動の抑制でも進化が感じられる。
パワートレーンは1.5Lガソリンターボ+CVTと2.0L NAガソリンを搭載したe:HEV(ハイブリッド)の2種類という構成は従来通りだが、どちらも進化させている。
1.5Lターボは、ターボの過給レスポンスをあげるために斜流タービンと効率改善したコンプレッサーを採用。エキゾーストマニホールドを4-1から4-2へと変更することで排気干渉を抑制しパワーアップを果たした。大きく重たいミニバンに203Nmの最大トルクは必要十分といったところで、常用域の2000rpm程度はもう少し力があったほうがドライバビリティが良くなると思われる。適宜、Sレンジを使って少しエンジン回転を上げてあげると走りやすい場面が多いだろう。

e:HEVはエンジン、モーター、PCU(パワーコントロールユニット)、IPU(インテリジェントパワーユニット)などあらゆる面に手が入れられた。エンジンは圧縮比を13.0から13.5へアップ、フリクション低減、EGRの採用などで熱効率40%を達成。IPUの冷却効果が高まったことでバッテリーの出力も向上していることが主な進化点だ。
従来モデルでも動力性能には余裕があり、モーター駆動ならではの美点が感じられていたが、新型が優れているのは、加速時にあまりエンジン回転数があがらないことだ。全開加速などでは瞬時にエンジンが高回転に張り付くが、追い越し時や登坂時など日常でよくあるちょっと強めの加速などでは、低回転で済ませるのでうるさくなく、せわしなさもない。バッテリーの出力向上とSOC(充電状態)をより低レベルまで粘って使うように攻めた制御をしているのが肝のようだ。ハイブリッドでSOCをどのように管理するかは腕の見せ所でもあって、あまり低いレベルまで使いすぎるといざ強い加速を求められたときに足りなくなったりする心配もあるから、慎重を期して高いレベルをキープするように制御したくなる。ただ、それではエンジン回転が高まるシーンが増えてしまう。またSOCが低いレベルのほうが充電効率が高いので、問題のない範囲で低めに攻めるというわけだ。
シビックのe:HEVは同じ2.0LでもDI(直噴)を採用しているが、ステップワゴンではPI(ポート噴射)としている。シビックはスポーティを追っているので高性能化しているが、ステップワゴンはキャラ的にPIが向いているという判断だ。また、有段ギアのように疑似的なシフトチェンジを行うリニアシフトコントロールを採用していないのは、DIよりもエンジン効率が高い範囲が狭くなるPIには向いていないからだそうだ。
乗り味も燃費もエンジン車に対してかなり勝っているので、約40万円の価格差があってもe:HEVがオススメ。ただし、e:HEVはバッテリー搭載位置の関係で4WDの用意がないというのが唯一の欠点だ。