車の最新技術
更新日:2022.07.09 / 掲載日:2022.07.09
軽EVの日産 サクラがスマッシュヒットした理由【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●日産
2010年に初代リーフを発売し、どのメーカーよりも早い段階からBEV(電気自動車普及)へ取り組んできた日産だが、ここにきて成果が見え始めてきた。
2022年5月20日発表、6月16日発売となった軽自動車のサクラは、発表から3週間の6月13日に1万1429台を受注、7月5日には1万7000台を突破している。価格やスペックのバランスがいいので健闘するだろうとは思っていたが、いまのところ予想を超えるスマッシュヒット。初速だとはいえ、エンジン車のデイズが年間5万台強というのと比較しても好調だと言っていいだろう。
そもそも軽自動車とBEVは相性がいい。使われ方は、短距離の街中が中心であり、さほど長い航続距離は求められず、バッテリー容量もそこそこでいい。街中のように平均速度が低い走行では、エンジン車に比べてエネルギー効率が高いことがBEVの強みであり(2021年4月最後か5月最初のBEVの電費のコラム参照)、2013年デビューのBMW i3ももともとは大都市での望ましいモビリティとしてメガシティヴィークルというコンセプトから生まれてきたものだ。日本のシティコミューターの代表格といえば軽自動車であり、これをBEV化するのは一つの理想だろう。
そこに早くから目を付けていたのが三菱アイミーブで2009年に発売。初代リーフとともに量産BEVのパイオニア的な存在として、BEVの認知度や理解度の向上、インフラ整備なども含めて普及に向けて先鞭をつけてきた。思うように販売台数が伸びず、茨の道ではあったが、2011年に設立された日産と三菱の軽自動車の合弁会社、NMKVによって日産サクラと三菱eKクロスEVが発売され、いよいよ成果が出そうだというのは、ちょっと胸アツなストーリーでもある。
日産ではアリアも好調。半導体不足の影響などもあって発表からだいぶ時間が経っても、いまだ4WDや大容量バッテリー版のB9などはいつ販売されるか不透明だが、すでに約7000台を受注しているという。またサクラやアリアを目当てにディーラーを訪れた人がいろいろと検討してリーフを選ぶというケースも増えていて、リーフも販売が上向いているそうだ。アリア、リーフ、サクラのBEV三兄弟が揃って人気者になった。まだBEV中心のメーカーとまではいかないかもしれないが、BEVが大切な柱の一つになりつつあるという状況だ。また、軽自動車は日本の乗用車販売の約4割を占める国民車でもあり、そこでBEVが存在感を示すことは市場を一気にかえるゲームチェンジャーの役割を担う可能性も高い。

サクラのバッテリー容量は20kWhで一充電航続可能距離は180km(WLTCモード)。街中に限れば、日本のどの都市でも昼間の平均速度は20km/h程度なので、モード通りに走れば9時間、実電費が70%ぐらいだとしても6時間以上は走れるので十分だろう。通勤や買い物などで毎日使用するとしても、一日あたりの走行距離は20km以下程度が多いので、平日は充電なしでもいけて、週末にちょっと足を伸ばすためにフル充電、という使い方もできる。郊外路は平均速度があがるがストップ&ゴーが減るので電費はそこそこいいはずなので、このバッテリー容量でも不足はあまり感じないはずだ。
問題は高速道路で、速度域があがっていくほどに電費は不利になり、平均速度が高いために走れる時間が短くなる。モード通りに走れて140km、2時間弱、その70%として約100km、1時間強といったところだ。
急速充電にも対応しているが、受け入れ能力は30kWと低め。とはいえ、急速充電は一回あたり30分で、30kWで充電し続ければ15kWhが入る計算となり、20kWhのバッテリーに対しては十分。実際には80%以上では充電が絞られ、外気温によっては入りづらく、また熱ロスなどもあるが、これ以上の受け入れ能力を持たせてもあまり意味がないだろう。
極端に暑かったり寒かったりすることのない状況で、バッテリー残量が下限に近い状態から急速充電を始めれば30分でおそらく12〜13kWh程度は充電できる。その分で、高速道路を少なくとも50km強、順調ならば80km程度は走行できるだろう。ドライブプランをしっかり立ててのぞめば、高速道路を含めた片道100kmほどの移動は可能であり、週末のレジャーにも使えるわけだ。ロングドライブ向きではないのは承知のうえだが、無理というわけでもない。
もっと足を伸ばしたいのであれば、リーフかアリアを選択するか、日産の充電プログラムであるZEP3に加入すれば日産レンタカーを割り引きで借りられるので(最大50%)、ハイブリッドカーやエンジン車を借りるという手もある。無理なくBEVとの生活を始めたいというユーザーにとって軽自動車のサクラは、もっとも有力な候補になるのは間違いない。