車の最新技術
更新日:2022.09.22 / 掲載日:2022.09.15
マツダ CX-60のパワートレインを解説する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】
文●石井昌道 写真●マツダ
いよいよ9月15日から発売されるマツダCX-60。これまでのマツダ車よりも上級モデルとなる新世代ラージ商品群は、エンジン縦置きのFRベースのプラットフォーム、直列6気筒エンジン、トルコンレス8速AT、48Vマイルドハイブリッドシステム、PHEV、後輪駆動ベースAWDなど新技術がてんこ盛りで、まさに社運を賭けたプロジェクトだ。
導入されるのはXD-HYBRID(e-SKYACTIV D)、PHEV(e-SKYACTIV PHEV)、XD(SKYACTIV-D 3.3)、25S(SKYACTIV-G 2.5)の4機種で、9月15日にはまずXD-HYBRIDを発売。市販バージョンに公道で試乗し、様々な驚きや発見があったのだが、とにかく力が入っていると感じたのが燃費性能だった。BEVを始めとする電動化全盛と言われる時代に、新たに大排気量・直列6気筒ディーゼルを投入するからには、半端なものでは許されないとばかりに、徹底的に高効率なパワートレーンを造り上げてきたのだ。
カタログのWLTCモード燃費をみるとXD-HYBRIDは21.1km/L。最大トルクは550Nmと頼もしく、車両重量は1910kg、タイヤサイズが235/50R20であることを考えれば驚異的だ。ちなみにCX-3 XD(6AT、4WD)は最大トルク270Nm、車両重量1340~1370kg、タイヤサイズ215/50R18で19.0~21.2km/L、CX-5 XD(6AT、4WD)は車両重量1710kg、タイヤサイズ225/55R19で16.6km/L。DセグメントのCX-60 ながらCセグメントのみならずBセグメントまで上回るほど。マイルドハイブリッドではないCX-60 XDは1860kgで18.5km/Lなので、エンジン+トランスミッションの実力でみればほぼBセグメント並とみていいだろう。
徹底した効率追求は、まず新開発のトルコンレスの8速ATにあらわれている。マツダは2012年のCX-5登場時に採用した6ATをずっと使い続けてきた。ライバルが多段化していくなかで少し見劣りしていたが、内製にこだわっているのでなかなか踏み切れなかったのだろう。ラージ商品群では満を持して8速とし、しかもトルクコンバーターのかわりに湿式多板クラッチを採用して高効率化。一気にモダンになった。低負荷で巡航しているとエンジンが停止するコースティングを行うが、クラッチで駆動系を切り離すのでさらに効率がいい。ただし、再始動の制御が難しいので、わずかなショックを感じることもあるが、それだけ効率を追求している表れでもある。
直列6気筒エンジンは3.3L。BMWやメルセデス・ベンツ、ジャガー・ランドローバーなどの直列6気筒エンジンは3.0Lで、気筒あたり500ccがもっとも燃焼効率がいいというガソリン・エンジンとモジュールだからという理由と思われるが、マツダは自己着火のディーゼルだから必ずしも気筒あたり500ccが理想ではなく、大排気量化でダウンスピード(低いエンジン回転数を使う)ことで効率化を果たした。
ちなみに既存の直列4気筒ディーゼルは2.4Lでボア×ストロークは同じなのでモジュールとみることもできるが、新開発の直列6気筒は燃焼室形状が異なっている。2段エッグ形状と呼ばれるもので、最初に噴射する燃料と次に噴射する燃料が別の空間にいくことで干渉を抑制。縦渦による混合促進もなされている。これによって短い間隔で噴射しても綺麗に燃焼してエミッションに問題はでない。もっとも効率のいいピストン上死点で燃焼させることが可能になっている。DCPCI(空間制御予混合燃焼)と呼ばれる新技術だ。大排気量化はダウンスピードの実現のみならず、取り込む空気量が増えるのでEGR(排気再循環システム)の効率もあがるという。熱効率は40%を超えているが、その範囲は広く、低回転域を多用できる。
これまでのマツダのマイルドハブリッドは24V電源だったが、新たに欧州勢と同様の48V電源となった。24Vの燃費改善効果は4~5%だったところ、48Vは8%ほどだという。モーターは最高出力12.4kW、最大トルク153Nmでバッテリーは0.33kWh。トルク増強を体感できるほどではないが、駆動アシストはエンジン回転のダウンスピードにも有利なはずだ。
新技術がてんこ盛りで生まれたばかりのモデルなので、荒削りな面も見受けられるが、内燃機関の可能性を追い、走る歓びとの両立を目指しているユニークな姿勢は素直に応援したくなる。これからのラージ商品群に期待したいのだ。