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更新日:2023.02.17 / 掲載日:2023.02.17

マツダ ロータリーEVの意味を考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ

 1月13日、マツダは「MAZDA MX-30 e-SKYACTIV R-EV」をブリュッセルモーターショーで初公開した。

 構造的には、2021年に発売された「MX-30 EV MODEL」に発電専用エンジンを追加したもの。EVモデルに搭載されていた35.5kWhのバッテリー容量を約半分の17.8kWhに落とし、モーター/発電機と同軸にワンローターエンジンを追加したモデルだ。

 さて、このR-EVすでにネットではその燃費性能に文句が殺到しているのだが、筆者としてはそれを見て肩をすくめる思いである。マツダがやっていることが全く理解されていない。

 現在BEV界隈の大きな問題のひとつはバッテリーの不足である。供給量が少ないまま需要が増えた結果、バッテリーの価格は上昇中。価格低減の見通しは立たない。という中で、マーケットが求める航続距離に応えようとしたら、BEVの価格はどんどん上がって行ってしまう。こういう世界がやってくるのは、社会人として常識レベルの産業知識がある人には予想できたこと。

 鉱物資源開発は、そもそも開発期間が10年15年掛りの大規模投資であり、長期で巨額の投資は明確なリターンが保証されないとできない。「BEVブーム」に惹かれて多くの企業が採掘への投資を一斉に決めたとして、技術者も機材も一気には増やせないから、そこも値上がりし、投資額は予想をどんどん上回っていく。という見通しの中で、自動車メーカーが考えるべきは、いかに少ないバッテリー搭載量で車両を成立させるかという話になる。

 仮に目の前に「100kWh分のバッテリー原材料」があったとして、これで100kWhのBEVを作れば1台分。50kWhのBEVなら2台分だ。20kWhのPHEVなら5台生産でき、1kWhのHEVならなんと100台作れることになる。

 で、それぞれどの程度、CO2を削減できるのかをざっくり算出してみよう。ちなみに1台の純内燃機関車が1km走るのに、130gのCO2を排出するとする。ちなみにこの値は、2020年までのCAFE規制の規制値である。純内燃機関車に対する削減率は、もちろん運用によるが、計算上、BEVは100%、PHEVは80%、HEVは30%としておこう。

・バッテリー搭載量100kWhのBEVは、130gを排出する内燃機関車1台を100%削減するのでその効果は130g。
・バッテリー搭載量50kWhのBEVは、130gを排出する内燃機関車2台を100%削減するのでその効果は260g。
・バッテリー搭載量20kWhのPHEVは、130gを排出する内燃機関車5台を80%削減するのでその効果は520g。
・バッテリー搭載量1kWhのHEVは、130gを排出する内燃機関車100台を30%削減するのでその効果は3900g。

 もちろん、バッテリー原材料が豊富で、いくらでもバッテリーが作れるならまた話は違ってくるが、これまで述べてきた通り、今の世界を前提にすれば、原材料供給には制約がある。バッテリー原材料が制約された世界で、カーボンニュートラルを、喫緊の課題だと捉えて取り組むとすれば、限られたバッテリー資源の効果的な使い方を抜きには語れない。

 それでも100kWh級の大容量バッテリーBEVを是とする考え方は、段階を踏む手間を嫌って、今から10年20年の間のCO2削減をほぼ諦めてでも、目の前にあるクルマ1台あたりのゼロを重視する考え方である。

 マツダは、バッテリー原材料に対する悲観的な見通しが基本にあったから、最初のBEVを35.5kWhと抑制的なバッテリー搭載量にしたが、その容量の小ささは理解されず袋叩きにあった。その批判は外部からみていると「難しいことはわかんねぇからデカいの寄越せ」と聞こえた。あるいはデカいことすなわち善とするマッチョイズムか。まあ、受け入れられない人もいるかもしれないが、バッテリーを小さくするのが正義という観点でみれば、マツダの製品の論理性が光って見えるはずだ。

 MX-30 EVは、自宅で普通充電で満充電にし、それで往復150キロ程度までの運用を前提にしたクルマである。距離的に苦しいケースでは、急速充電1回(50kWh×30分)を織り込んで、トータル航続距離200キロプラス+αというところだろう。これが「足りない」の大合唱の原因なのだが、そうじゃない。「多すぎる」のだ。

 日本国内の自家用車の1日あたり平均走行距離を統計でみると、8割のケースは20キロ程度に収まってしまう。日々の使用を前提にすれば20キロしか使わないのに、150キロ分のバッテリーが余分に搭載されていることになる。

 大きく重く、高価格なバッテリーを大量に積むのはエンジニアリング的には愚かな選択だ。大きさは室内スペースを侵食する。床下だから影響がないと言うが、足の高さは座面と無関係ではないから、床を上げれば天井を上げざるを得ない。重さは加速にも減速にもマイナスで、衝突時の加害、被害エネルギーを増大させる。価格の話は言うまでもない。

MAZDA MX-30 e-SKYACTIV R-EV

 ただし、これと真っ向対立するのが電欠への不安である。今回公開されたR-EVの公称航続距離は85キロなので、おそらく実用で50キロ程度は走るだろう。利用ケースの80%が20キロで収まるならば、50キロの航続距離は、おそらく95%以上をカバーするだろう。つまりは盆暮正月などのロングドライブが例外になるだけだ。それ以外は普通充電のEVとして運用される。R-EVは実質的にはBEVである。最初から頻繁な長距離運用を前提としたハイウェイエクスプレスを求めている人は対象ではない。

 年に数回の電欠時に備える予備装置としての発電機は、言ってみれば災害備蓄用の食料みたいなもので、そこで日常食と同様な味や栄養バランスを求めてもしかたがない。保存性の高さや携行のしやすさが優先される。エンジンで言えば、ライフタイム走行距離の5%にも満たないリスクに備える機能部品に求められることはコンパクトで軽量なことである。

 極論を言えば、その5%の例外ケースでそこらのエンジンの倍の燃料を消費したとしても、バッテリー重量を半減できることによる日々のエネルギー効率の改善と差し引きすればプラスになる可能性が高い。もちろんエンジンの燃費は良いに越したことはないが、利用頻度が極端に低いエンジンの、コストと重量とスペースを増大させてまでも、最先端機構を組み込む必要があるかどうかである。

 トヨタは新型プリウスのPHEVで、最先端熱効率のダイナミックフォースエンジンを使って、そう言う道を選択したが、だから、その訴求を加速性能に振り向けて爆速PHEVに仕立てあげた。初代プリウスPHVでエンジニアリング的に正しいミニマム志向の4.4kWhのバッテリーを搭載して全く理解されなかったことの反動である。

 さて、つまりはMX-30 e-SKYACTIV R-EVとはどんなクルマなのかと言えば、マツダのメッセージとしてはこれをBEVだと思って、可能な限り自宅充電で運用してくださいと言うことだ。そしていざと言う時、盆暮正月のサービスエリアの充電渋滞を尻目に、ゆうゆうとスタンドで給油して走り続けられる。なので、小さくて軽くて安価なワンローターのロータリーにしました。他にたくさんメリットがあるので、燃費はちょっとご勘弁のほどをということである。この辺り、もう少し理解されてもいいのではないかと思う。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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