車の最新技術
更新日:2023.08.21 / 掲載日:2023.08.21
エンジン車のゆくえを左右する環境規制【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●日産、ルノー、ブレンボ
最近は「いまのうちにエンジン車を買っておいたほうがいいですか?」と聞かれることが多い。
BEV(電気自動車)への移行を促すためエンジン車実質禁止などの規制が気になるからだが、EU(欧州連合)は一旦は2035年のエンジン車販売禁止を取りまとめておきながら、今年になってカーボンニュートラルを実現できるe-FUEL (合成燃料)を使用することでエンジン車の存続を認めることに。
ただし、e-FUELは高コストで大量生産の目処も立っていないことから、エンジン車の必要性が高い緊急車両や高価なスーパースポーツカーなど、限られたモデルだけのものになるという見方があり、規制の運用もまだ決まっていない。
技術革新によってガソリンと同等の利便性のe-FUELが実現するかもしれないが、先行きは不透明だ。とはいえ、エンジン車が新車で買えなくなるまでに12年あるので、それほどあせることはないし、その先も中古車で手に入れることはできる。
そうはいっても、もっと近い将来に消滅するエンジン車は出てくるはずだ。

たとえばアルピーヌA110は次期型がBEVになることが決定しており、モデルチェンジは2025年でもう2年もない。とくに欧州ではブランドがBEV専売にすると表明しているところが多く、その場合は現行モデルが最後のエンジン車となりモデルチェンジのタイミングが2025年というケースは少なくないだろう。なぜなら次期排出ガス規制のユーロ7が2025年7月に施行され、新型車だけではなく継続生産車にも採用されるからだ。
ちなみに、フェラーリなど年間生産台数1万台以下のメーカーでは2030年まで猶予がある。
ユーロXは欧州の排出ガス規制として1992年7月のユーロ1から始まり、現行はユーロ6dで、前述のように次期のユーロ7は2025年7月に施行される。
現行でも排気ガス規制は厳しいもので、ユーロ7もさぞ厳格化されると思われていたが、予想よりは緩めだった。RDE(リアルドライブエミッション、実走行テスト)の強化やPM(粒子状物質)の対象粒子の大きさが小さくなるなど小さくない壁もあるが、それ以上に話題なのが新たにタイヤやブレーキなどからの摩耗粉塵が規制の対象になることだ。

タイヤが摩耗すると、環境汚染の大きな懸念材料となるマイクロプラスチックが発生するとされ、これを抑制するのが目的。
ただし、マイクロプラスチックの測定方法や摩耗限界も定かではなく、まだ規制値は提示されていない。初期段階では従来の耐摩耗性改善という技術の延長線上でいけるのではないかという見立てが多い。
ブレーキは粒子状物質のPM10の排出量が初期は7mg/km、2035年からは3mg/kmと規制値がすでに提示されている。
ブレーキメーカーのエンジニアに聞くと厳しい数値であり、既存技術以外の革新も求められるそうだ。ちなみにブレーキの粒状物質はパッドよりもローターの鉄粉が課題だという。ローターへの攻撃性の高いパッドが、いわゆる良く効くブレーキだが、鉄粉を減らすには攻撃性の低いパッドにするしかない。
パッドの物質がローターに移ってコーティング状にして、ローターの金属をあまり減らさずに効かせるなどの技術を伸ばしていくとともに、従来のブレーキシステムでは解決しきっていない残留トルク低減、いわゆるブレーキの引きずりをゼロにする、あるいは極限まで下げることが一つの回答でもある。

パッドとローターの隙間を広くするとレスポンスや効きに影響が出てくるので、精密で素早い制御が求められるが、それには油圧制御ではなくモーター制御が適している。そうなると新たなシステムが必要だ。だからこそコンチネンタルのグリーンキャリパーやブレンボのSENSIFYなど新たなブレーキシステムが登場し始めているのだろう。ブレーキバイワイヤの一歩先をいく先進的なものだ。
BEVやハイブリッドカーなど電動車では回生ブレーキが効くのでパッドやローターの摩耗は少なく、その比率を高めていけば粒子状物質の排出も抑えられるが、それはそれで課題もあるそうだ。
パッドやローターをしばらく使わないでいると、いざ使おうとしたときに効きやレスポンスが落ちてしまい、劣化が早まるという問題がでるからだ。そこでリアはドラム式にするというアイデアも脚光を浴びている。開放型のブレーキキャリパーに対して密閉型のドラムのほうが劣化を防ぐとともに、粒子状物質が外部に排出されるのを防ぐこともできる。いずれにしてもブレーキシステムは近い将来に進化していきそうだ。
また、エンジン車の存続を心配する人は、クルマ好きでスポーツカーに興味があるだろうが、騒音規制の厳格化も今後は壁になる。CO2規制だけではなく、さまざまな面でエンジン車が行きづらい時代になってきていることはたしかだ。