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更新日:2023.09.22 / 掲載日:2023.09.22

レクサス 見えてきた未来【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●レクサス

 トヨタ自動車は、9月15-16日、富士スピードウェイホテルにて、メディア向けイベントLEXUS SHOWCASEを開催した。レクサスブランドの現在と未来を訴求するため、2023年前半にワールドプレミアを行った6台のプロトタイプカーを揃えてクローズド環境で行われた試乗イベントである。

用意されたのは以下の6台。

  • ・レクサスLM(新型アルファードのレクサス版)
  • ・レクサスLBX(ヤリスクロスのレクサス版)
  • ・レクサスGX(ランドクルーザー250のレクサス版)
  • ・レクサスTX(GA-Kプラットフォームの3列シートSUV、グランドハイランダーのレクサス版)
  • ・レクサスROV(水素内燃機関搭載のオフロードビークル。車名はRecreational Off highway Vehicleの略)
  • ・レクサスRZ(バイワイヤーとヨーク型ステアリングシステムを持つプロトタイプカー)

 さて、レクサスはずっと悩んでいる。レクサスとは何か? という明確なイメージが築けていない。特に国内においては、そのブランド立ち上げ期から「要するにトヨタ車の見た目をちょっと変えたぼったくりモデルでしょ」と陰口を叩かれてきたわけで、そこに明確な「トヨタとは違うサムシングエルス」が築けるかどうかがこのブランドの将来を決めるわけだ。

 ところがTNGA時代に入って、トヨタ車のハードウェアが著しく進化し、もっといいクルマになってしまった。レクサスはもっともっといいクルマにならなければならないのだが、果たしてそのために何をどうするのかがなかなか定まらないでいたのである。

レクサス LBX(プロトタイプ)

 と書くと、すでに解決したかのようだが、まだまだ兆しが見えただけ。筆者が今回注目したのは、レクサスLBXだ。成り立ちから言えば、LBXはヤリスクロスのレクサス版だ。ところがただのガワ違いとは思えない出来に仕上がっていた。

 乗って最初に思ったのは「これは日本人が思うフォルクスワーゲン・ゴルフのあるべき姿だ」ということだった。グローバルには少し話が違ってくるのだが、日本におけるゴルフのイメージは、プレミアムCセグメントである。

 普段使いで持て余さない、気軽なボディサイズとオーナーを満足させるクオリティを備えた小さな高級車。ゴルフはそういうブランドだったはずだ。しかしながらここ最近のゴルフはそういう期待に応えきれずにいる。端的に言ってプレミアム感が足りない。グローバルなイメージに倣うように、スタンダード化が進行して、カローラやプリウスのライバルという位置付けにズルズルと後退してきている。

 実はそれはドイツ車全般に言える話で、メルセデスもBMWもアウディも、かつてほどプレミアム感の説得力がなくなってきている。その失われつつあるプレミアム感を筆者はLBXに感じた。

 何故か? それは極めて意外な文脈で成立していた。レクサスはずっとまともな小型車を持っていなかった。これまでボトムラインを受け持っていたのはCT。あるいはHSである。これらは残念ながら「トヨタ車の見た目をちょっと変えたぼったくりモデル」と言われても仕方がない出来だった。いや見た目すら上手く変えられていなかった気がする。だからこそ、筆者もヤリスクロスがデビューした時、これのレクサス版を作るべきだとチーフエンジニアに具申したのだ。

 まさか筆者に言われたからLBXが出来たなどという話ではなく、レクサス内部でもその計画は進行していた。デザインスケッチを見て、GOを出したのは当時の豊田章男社長本人である。ところが、開発を前提としてより現実的なデザインに仕上げていくと、豊田社長のノーが出た。「これならいらない」そうはっきり言われたらしい。

レクサス LBX(プロトタイプ)

 何があったのか。18インチホイールの採用を開発陣は躊躇った。標準の5ドアGA-Bプラットフォームはそのサイズのホイールを本格的に履きこなす想定で作られていなかったのだ。実はヤリスクロスには18インチの設定があるが、その味付けは、限界を高める方向ではない。むしろ早期にリヤを滑らせて、高旋回領域に入れない代わりに、滑りを徹底的にスムーズにする方向に仕立てられている。そのやり方でレクサスらしい走りを実現できるかとなれば、少し足りない。

 高旋回領域まで持っていこうとすれば、GRヤリスの3ドアボディの水準に並ぶ改良を加えなくてはならない。当然金が掛かる。なんと言うか、まさにここにレクサスのジレンマが潜んでいる。金を掛けずにトヨタの水準のまま製品化しようとするから、レクサスは独自のブランドにならない。そこで掛かるものは掛けないといけないし、その掛かった分をきっちり上乗せした価格で売る覚悟が必要なのだ。

 「これならいらない」とまで言われれば腹を括るしかない。エンジニア曰く「同じ部品がないじゃないか」と言われるくらい徹底的に手を加えた。それこそこれまでレクサスが超えることの出来なかった壁を超えた瞬間だったと思う。ちなみにLBXの名前の由来は「Lexus Breakthrough X-over」である。

 富士スピードウェイのショートコースでの短い試乗だったが、限界も高く、懐の深い乗り味には極めて好感を持った。旋回能力を高めながら乗り心地も良い。よく動く良いアシである。ただし、サーキット試乗だと硬目のアシを乗り心地が良いと判断しがちなので、最終的な判断は公道での試乗をもって確定したいが、現時点では、内外装のデザインも含め、筆者がちょっと購入を考えはじめたくらい高評価であるとお伝えしておく。

 ちなみに価格は未発表なのだが、どうなりそうなのか。筆者が問うと、むしろ今それを議論している真っ最中なのでご意見をと言う。400万円スタートで、特殊モデルを除外して400万円台に収めるくらいが妥当なのではないかと言っておいた。

 さて、このLBXがブレークスルーになって、新しいレクサスのブランドが確立できるかどうか、レクサスにとってひとつの勝負所である。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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