車の最新技術
更新日:2023.11.03 / 掲載日:2023.11.03

ジャパンモビリティショーを総括する【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●川崎泰輝

 ジャパンモビリティショーの会期ももう残すところこの週末だけになった。筆者は多分トータルで過去最高の5日通うことになる。まあ色々取材である。

 さてそれだけ見て回って、第1回ジャパンモビリティショーとは何だったのかをちょっと振り返ってみたい。

 一番基礎にあるのは、「自動車メーカーが新型車を出しますよ」という単純なイベントではなくなったことだろう。社会は大変複雑化していて、例えば脱炭素問題ひとつ取っても「すごい技術で一発解決」というわけにはもういかない。

 つまりユーザーであるわれわれも行動変容していかないと社会課題の解決ができない。例えばの話、PHEVはこれからの脱炭素に大きな期待をかけられているが、PHEVを買って、基礎充電をしないで運用したら、それはただの重たいHEVで、HEVより効率が悪い。HEVのバッテリーはせいぜい1kWhだが、PHEVでは20kWh級になる。

トヨタ RAV4のメカニズム。2.5Lハイブリッド車に比べて車重は約200kg重いが、95kmのEV走行を可能としている(WLTCモード)

 例えばトヨタRAV4で比べるとその重量差は200kg。つまり基礎充電をしないPHEVは車重が重いHEVであり燃費、すなわち二酸化炭素排出量に影響がでないはずがない。 PHEVはメーカーが想定した通り、基礎充電をしてBEVとして運用し、それで足りない時だけHEVモードで走る。そういう道具の特性に応じた運用が必要である。

 BEVだってFCVだって決定版にはなっていない。決定版であるならとっくにそれ以前の技術を滅ぼして天下を取っている。今の所様々な技術がそれぞれ一長一短を持ち、運用の仕方で長所が生きる場合もあれば、短所が目立つ場合もある。その運用はインフラに依存し、例えば戸建で充電器ありと無しでは違うし、近距離だけの運用かどうかにも依存する。要するに地域やライフスタイル、そして設備の普及状況によってその条件分岐は複雑に変化する。

 だから今、マルチパスウェイが必要なのだ。メーカーが全部BEVにして「戸建に住んでないヤツが悪い」というわけには行かないし、「長距離を諦めれば済むこと」とも言えない。われわれはそれぞれに違う生活をしていて、それを一様均一にすることはできない。

 もうひとつ大は小を兼ねるという考え方をやめることも重要だ。近所のコンビニまで行くのに大きく重いSUVをいちいち走らせない。自転車か、せめてもっとコンパクトで軽いパーソナルモビリティを使おうということになる。

 もっと俯瞰的見てもそうだ。例えばロサンゼルスから羽田までは飛行機で飛ぶしかないが、そこから最寄駅までは電車で良いし、駅から自宅まではバスかタクシーで良い。そういう風に、無駄の少ない手段をレイヤー毎に分けて使う必要がある。という形で見たときに、今一番不足しているのはラストワンマイルの移動である。

 ところがそういうレイヤー別の行動をしようとしても、今や土地勘のない駅で降りて、いつでもタクシーが拾える時代ではない。2024年問題もまた大きな課題だ。普通の人が自転車を電車に持ち込んで持っていける環境にもない。だから例えばターミナルにシェアできるパーソナルモビリティが必要なのだ。

 けれども駅にシェアモビリティを用意するとなれば、国交省がその運用を許可しなければならないし、鉄道事業者はそのニーズを満たせる場所の用意も必要だ。自動車などのメーカーはそこで具体的に運用されるモビリティを使いやすく安価に作らねばならないし、その保守運営管理をする事業者も必要。場合によってはその決済をするシステムも構築しなければならない。それをどこか1社でやれと言っても無理で、オールジャパンで官民一体。しかも民の方だって、ハードウェアの会社、サービス事業者、ソフトウェアや金融サービスまで全部が互いに綿密な整合を取りながら新しいインフラを構築しなければならない。

 そういう新しい時代に向けて、特定原付という新しい制度ができた。あれは別に、若者が電動キックボードを楽しむための制度ではなくて、現在のシステムに欠落しているラストワンマイルのパーソナルモビリティを普及させていくためにできた制度である。

 特定原付にはヘルメットがないと危ない。それは正論だが、例えば筆者が浜松のスズキまで取材に行くとする。レイヤー別を意識すれば、選択肢は新幹線になる。新幹線を浜松駅で降りて、タイムズでカーシェアを探そうにも、あるのはオプションステーションのみで、つまり常設のステーションはなく、よっぽど早くに予約を入れておかないとクルマが確保できない。タクシーは運任せで、最悪でも30分くらいは待つ覚悟がないと乗れない。そのためには時間に余裕を持った行動をするしかないが、社会全体がそんなことになれば生産効率は一向に向上しない。

 イニシャルコストが安く、運転手の確保がいらない電動モビリティなら、もう少し配備が楽になるはずだ。ではスーツを着て新幹線で出張に行くときにヘルメットを持参するかと言われたら、それも厳しいではないか。かと言って誰が被ったかわからないレンタルのヘルメットに忌避感を覚える人もいる。

 だったら東京からクルマで行っちゃえ。それでは行動変容ができない。どうにかしてみんなが気持ちよく便利に使えるラストワンマイルを構築しなければならないのだ。

 前回も書いたが、筆者が一番すごいと思ったのはスズキのブースである。ヘルメットを使わないためには速度を落とすこと、特定原付で言うところの時速6キロ対応で歩道を走るためには、2輪では難しい。速度が遅すぎて不安定になる。だから4輪モビリティを用意した。スズライドとスズカーゴには、緑ランプが装備されていることから特定原付の法対応が済んでいることがわかる。

 モビリティを軸に社会課題を解決する。そのためには自動車メーカーがまず汗をかく。しかしこれまで書いてきたように個社で全てを解決することは難しい。スズライドというハードウェアを使ってシェアリングサービスを事業化する企業や、それを駅のインフラと一体化する鉄道事業。そしてそれが社会規範に問題を起こさずに利便性を保つ法規制を作り、道路を整備する省庁。そうしたオールジャパンで、次の時代を切り開こうとするのが、ジャパンモビリティショーである。

 これまでのモーターショーが、個社の広報宣伝のためのゴールであったのに対し、モビリティショーは多くの所属の異なる人々が一同に会して、新しい時代を生み出していくためのスタートなのだと思う。この週末、もし時間が許すようであれば、ジャパンモビリティショーに集ったオールジャパンの挑戦をぜひその目で見てきて欲しい。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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