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更新日:2024.05.26 / 掲載日:2024.05.17

集合住宅でのBEV生活を考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡

 東京都は、2025年4月以降、新築マンションへの充電設備設置の義務化を決めた。適用が開始されるとひとまず駐車台数の2割に充電器の設置が義務付けられる。

 筆者の長年の持論は、BEVやPHEVを維持するならば、自宅に普通充電器があることが前提である。なのでこれはひとまず朗報と言えるだろう。国や自治体にもよるが、充電インフラ補助金適用範囲の拡大も決まった。

「東京都マンションEV充電器情報ポータル」。2025年から都条例によって都内の新築マンションにEV充電器設置が義務となる。

 とは言え、あくまでも東京に限り、今後新築マンションに徐々に設備整備が進んでいく話だ。誰もが新築マンションに入居するわけでもないし、そもそも都内在住でもない。なので全国の多くの人にとってみれば、やはり今今の話、自分の裁量で充電器が設置できるのは、駐車場付きの戸建てが前提となる。

 既存のマンションの場合、分譲であっても賃貸であっても、充電器を設置するのはかなりハードルが高い。集合住宅では、まずもって管理組合や理事会の同意を取るのが難しい。現状のBEVやPHEVの普及率を前提に見れば、利用希望者は圧倒的少数派。費用や手間が一切必要なければともかく、常識的にはそういうケースは稀で、充電器を使うつもりがない人から同意を得たり、費用や手間の負担をお願いすることになる。まずこういう調整をまとめることが難しい。

 ある程度理解が得られるとすれば、おそらくはイニシャルに掛かる手間や費用が少ないケースになると思われるが、その場合シェア型の充電設備になりがちである。イニシャルコストもランニングコストも安いからである。ただしこのケースではSAやPAのように充電時に共用で使う専用駐車枠が必要になる。この枠は当然充電したい時に空いていないと使い物にならないので、充電時のみクルマを止めることになる。

 昨今マンションの駐車場は余剰があるケースが多いとは言え、1台分や2台分ならともかく、それ以上の台数になれば、徐々に駐車場のキャパシティを圧迫する。

 仮に2台分の充電スペースを確保したとして、3人目の利用者が現れたらどうするのか。たいていは、夜仕事から帰ってきて充電することになるので利用のタイミングは重なるケースが多いだろう。

 今のBEV普及率がずっと続くことを前提にするならば、当座の話として1台分2台分で良いかもしれないが、EV普及率が上がっていくと、このシステムだとやがて運用的にパンクする。夜中に充電器の譲り合いで車両を移動するなどして1基を一晩で2回転させることはできるかも知れないが、とても快適とは思えないし、ヘタをすれば住民トラブルの元。ゆっくり時間をかけて充電する普通充電器の場合、キャパも2倍が限界で、所詮は運用でカバーするやり方では抜本的解決は難しい。

 設備にはランニングコストがかかり、それは固定費と変動費に分かれている。電気契約の基本料金と充電器のシステム費が固定費。電気使用料が変動費だ。変動費は使わなければそれで良いが、問題は固定費である。マンションの全住民に例外なく理解があれば、数名しか利用しない設備の固定費を全戸数で割り勘にできるかも知れないが、一般的には使わない人に費用負担を求めるのは難しいだろう。現状少数派のBEV利用者が、当事者意識が希薄な理事会を通そうとすれば、どうしてもお願いベースになり、固定費は受益者負担になることが想定される。

 しかし、受益者負担運用の場合、2台の利用者の内1人が引っ越してしまった場合、残る1人が全ての固定費を負担することになる。かなり難しい選択である。多数派の使わない人に平等に負担をお願いするか、使う人が減った時には残った人が全部背負う覚悟をするかという厳しい選択肢になってしまう。

 この様に、シェア型はコストメリットがある分状況変化に弱く、長期的にBEVの普及率が上がった場合には、全面的にやり直さなければならなくなる。

 これに対して、占有型充電器を用意すれば、長期的に問題が起こりにくい。日本のマンションの平均戸数は約35戸と言われているが、仮に普及を前提に、全戸数の半分の17戸分の駐車枠に充電器を用意しようとするとかなり大変な話になる。普通充電器には一般的に3kWと6kWがあるが、100V換算でそれぞれ30Aと60A。

共用部である駐車場の電源容量は元々それほど余裕がない。にもかかわらず必要電力は、仮に出力の低い方の3kWを17戸分としても51kW、つまり510A相当となり住居の9戸分から17戸分と同等の容量が必要だ。より充電速度の速い6kW充電器ならその倍になる。

 50kWを超えるとなれば当然電源の引き込みからのやり直しが必要になって工事費が掛かるし、高圧受電設備(キュービクル)の設置が必要になり、概算で500万円程度のコストを要する。補助金などで充当できる部分もあるが、当然全額ではない。使う人が少ない充電器のイニシャルコストと固定費を全戸の割り勘にするにしても受益者負担にするにしても負担は甚大になる。

 かと言って住まいの話なので、BEVユーザーだけを入居させるとか、非BEVユーザーを退去させるなどと言う話はさらにハードルが高過ぎる。

 一般に利用者とインフラの話は卵が先か鶏が先かという話になりがちなのだが、集合住宅はまさにその縮図になっていて、問題を先送りにして1台、2台分の充電器を設置するという話ならまだ可能性はあるが、今のBEV普及率ではそうそう簡単に既存集合住宅の充電設備普及が進められるとは考えにくいのである。

東京都では集合住宅への充電器普及促進のため、調査費用や設備費の一部に補助金を設定。ランニング経費補助は最大3年間行われる。

 とは言え、遅ればせながら国や自治体も、問題解決に向けて動き始めた。まずは冒頭に述べた通り、東京都では新築マンションへの充電設備設置の義務化がスタートしている。既存の集合住宅については、補助金とセットで、住民同意要件の緩和が推奨され始めた。設備の側でも集合住宅に多い︎機械式駐車場用の充電器モジュールが増え始め、集合住宅などでの利用を前提に課金システムが統合されたシステムも出てきた。それとリンクして︎機械式駐車場には必須となる車両側の充電口の位置統一への指導も始まった。少しずつではあるが、状況は変わっていく可能性がある。

 今後は、︎先に述べたような「3kWを17戸分として51kW」のピーク電力供給を電力会社が絶対義務付けられるのではなく、充電器システムを統合管理して個別の車両の充電ピークを分散し、基本電力料金や設備の高能力化コストを効率よく抑える。つまり電力契約や設備投資が安くなるシステムの普及が求められていくだろう。

 電力の話は、BEV充電のみならず、ベース電源と調整電源をどう維持して、同時同量運用をどうやって成立させるかなど、もっと根本的なところからやり直さないと難しいという問題もある。まだまだ問題は多々あるのだが、ひとつずつ解決していくしかないだろう。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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