車の最新技術
更新日:2024.10.07 / 掲載日:2024.10.07
進化した水素燃料電池の今【ホンダ CR-V e:FCEV】【石井昌道】

文●石井昌道 写真●ホンダ
以前から予告されていた通り、ホンダCR-V e:FCEVが2024年7月に発売となった。ホンダにとっては2021年9月に販売を終了したクラリティFUEL CELL以来、約3年ぶりのFCEV(水素燃料電池)となる。
ベースとなるCR-Vは2022年にアメリカで発売された6代目で日本未発売。今回FCEVが導入されたがエンジン車やハイブリッド車が続く予定は残念ながらないようだ。

心臓部となるFCスタックは米GMとの共同開発でクラリティのユニットと比較するとコストは1/3以下、耐久性は2倍以上、−30℃でも2分で始動可能など超低温性能の大幅向上など進化を果たしている。クラリティは技術基盤の構築が目的で9100万kmの走行実績を積み、今回のCR-V用へ活かすとともに、今度は量産技術を磨くという。さらに、2030年を目処に次世代FCスタックを開発中でさらにコスト1/2、耐久性2倍として本格普及を目指すそうだ。
クラリティは自動車の基本であるセダンタイプをあえて選択することで、各ユニットや水素燃料タンクが嵩張るFCEVで難しいパッケージングに挑戦していたが、空間に余裕があるSUVにスイッチしたのは、普及へ向けて人気のあるセグメントであり、そのなかでもグローバルで販売台数の多いCR-Vに白羽の矢が立ったということだ。

CR-Vは欧州向けにPHEV(プラグインハイブリッド)のラインアップがあり、それをFCEVにも追加採用したのがユニークだ。FCEVがBEV(電気自動車)に比べてメリットとなるのが、充填時間が短く航続距離が長いことでCR-V e:FCEVもわずか3分の充填で621kmも走れる。ただし、水素ステーションはまだ充実しているとは言い難く、ユーザーにとって不安材料となるので、充電すればしばらくは走れるPHEV機能を追加したのだ。
バッテリー容量は17.7kWhで約61kmのEV走行が可能。6.4kW200V電源ならば2.5時間で充電完了となる。FCEVにPHEV機能を追加するアイデアはメルセデス・ベンツGLC F-CELLでも用いられていたが、残念ながらメルセデスはFCEVの展開を止めてしまっている。

PHEVが便利なのはもちろんのこと、興味深いのはバッテリーが大きいことによってパワートレーン全体の制御が楽になり、走行性能や燃費効率の向上にも役立っているということだ。FCセルは繊細で、熱に対する感度が高く、また燃料すべてを化学反応させて効率を高めようとすると劣化が早くなるなどの課題がある。
だから、環境変化や負荷変動の大きな自動車で使うには苦労が多いのだが(逆に定置型は楽)、PHEVの大容量バッテリーが助けになるのだという。
FCスタックはなるべく定常的は発電として負荷変動は大きなバッファとして機能するバッテリーが吸収するというような考え方で使用したところ、カタログに記載されるモード燃費と実用燃費の乖離が小さくなったそうだ。エンジンも回転数などによって効率のいいところと悪いところなどがあるので、たとえばプリウスでもHEVよりもバッテリー容量の大きなPHEVのほうがシステム制御が楽になる面もあると聞いたことがあるが、格段に制御に気を使うFCスタックでの効果は大きいそうだ。
また、性能を引き出しながらFCセルの劣化を抑えることができるという点で、環境負荷低減に貢献しているとも言える。

その他、わかりやすいところでは回生エネルギーをより多く蓄えられるということがある。容量の大きさは、たとえば長い下り坂で満充電になってしまうだけではなく、電力が入りやすいということもある。
たとえば過去に自分がBEVで急速充電したときの例では、バッテリー容量35.5kWhのホンダeでは30分で16.4kWhしか入らなかったところ、93.4kWhのアウディRS e-tronGTは同じ90kWの充電器で39.2kWhも入った。ホンダeの充電受け入れ能力は50kW程度ではあるが、そこまでも出力は上がっていなかったので、やはり容量が小さいと入りにくいのだ。
FCEVに興味がありながらも充填など利便性がちょっと不安という人にとっては気になるCR-V e:FCEV。個人でもリース形式で販売され、車両価格は809万4900円。国のクリーンエネルギー自動車導入促進補助金は255万円と高額で、さらに地方自治体の補助金も含めれば現実的なターゲットとなりうるだろう。