車の最新技術
更新日:2024.11.06 / 掲載日:2024.11.06
技術のかけ算で勝ちワザを生み出す【日立Astemo】【石井昌道】

文●石井昌道 写真●日立Astemo
2021年に日立オートモティブシステムズ、ケーヒン、ショーワ、日信工業と経営統合して設立された日立Astemo。電動化、コネクテッド、自動運転などいわゆるCASEの技術基盤を有する超大手サプライヤーだ。自動車メーカーから直に取引をするサプライヤーはTier1、そのTier1と取引をするサプライヤーはTier2などと呼ばれるが、日立AstemoはTier0.5を目指すという。自らが自動車メーカーになるわけではないが、SDV(ソフトウエア・デファインド・ヴィークル)化に対応して技術を提案していくということのようだ。
そんな日立Astemoが現在開発中の技術をテスト車両で体験できる機会を得たのでいくつか紹介したい。
ステップワゴンで体験したのはマルチカメラ3Dセンシング。ステレオ視=視差によって正確な測距ができるのが日立Astemoが有する強みの技術だが、それを発展させたものだ。

テスト車両は70度、120度、196度などの画角のカメラを11台搭載。すでに市販車に搭載しているカメラと共用可能なものも多く、ドアミラー下の4つを追加すればシステムとして使うことができるそうだ。前方、後方、側方などで2つのカメラの視差で測距できるのだが、従来は同じ画角で同じ方向を見ているカメラでのみ測距していたところ、マルチカメラ3Dセンシングは異なる画角、異なる方向を向いたカメラでも行えることだ。
目的は低速での自動駐車などで求められるパスプランニング(経路計画)の情報をカメラだけで得ることができるようにすること。従来のシステムは例えば120度と196度のカメラが付いているリアでは、120度までしか視差がとれなかったが、AIを用いることで196度までとれるようになった。これらを駆使して水平方向だけではなく地面や天井付近など垂直方向まで視差をとることが可能になっているという。

周囲の人やクルマの物標認識、自車がどこにいるかを判断するためのセグメンテーションなどはカメラの情報を使うが、11個分を演算するのは負荷が強いので、一度鳥瞰図に置き換えて一枚の画像として演算量を減らしている。ここまでは従来でもある技術だが、そこに視差情報も盛り込むことで精度を高めたそうだ。
駐車シーンを体験したところ、地面付近の細長いポールや天井のちょっと上の看板などを正確に把握していた。単純なカメラ映像では遠くにあるものとの区別が付きづらいが、視差によって正確性が増している。ポイントは360度をカメラで見ていて垂直方向でも視差がとれること。自動駐車の課題をクリアしているのだ。また、並走する車両との距離などの精度が高く、パスプランニングに役立つとのことだった。


この3Dセンシングの技術とバイワイヤステアリングを組み合わせたのがMDS(Manual-Driving Support)だ。日産リーフ(オレンジ)のテスト車両で体験したが、直角カーブが組み合わされた低速クランクでは、ぶつかりそうになるとステアリングとブレーキが制御される。狭い道での不安を払拭するのが目的だ。中・高速のハンドリングコースでは、スムーズで快適な走行になるようライン取りをサポートしてくれる。あえて変なライン取りをしようとすると、ステアリングが制御される。“そっとサポート“と呼ばれているが、誰でもが上手なコーナリングになるようそれとなく導くのが特徴だ。
日立オリジナル試作車両のCRP22C+はインホイールモーターで、ハンドル操作は一般的なステアリングではなく、ダイヤル型の新操作デバイスを採用していた。


パチンコのように右手でダイヤルを捻ることでハンドル操作をするのだが、直進を保つためにわずかな修正操作をするときに従来のステアリング操作よりも意識させられることがあったものの、慣れてくれば少ない操作量で楽に運転できる。
ステアバイワイヤになれば、様々なデバイスが提案されるのだろう。インホイールモーターは4輪独立制御となるので、凸凹した道でのピッチングを抑えることによる乗り心地を改善し、コーナーではヨーの出方をスムーズにしてロールを抑制するなど、様々な可能性を感じさせた。実用化されれば、とんでもない性能を発揮することだろう。
その他にも次世代セミアクティブサスペンションや車両統合制御プラットフォーム技術、シャシーデバイス連携、ブレーキバイワイヤなどそう遠くない将来に実用化されるであろう新技術を体験。
様々な技術、コンポーネントを持ち、それらを組み合わせて新たな価値を創造するクロスドメイン制御が日立Astemoのユニークなところ。この中から勝ち技を見つけていくのが使命なのだ。