車の最新技術
更新日:2025.01.14 / 掲載日:2025.01.14
クロストレックのストロングハイブリッドを解説する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●スバル
水平対向エンジンとシンメトリカルAWDの組み合わせは低重心で安定感が高い。視界の良さといった基本的なものから高度なADASであるアイサイトまで安全性へのこだわりも強い。それでいて比較的にリーズナブルな価格設定といったところがスバルの魅力だが、残念なのが燃費性能。それに応えるかっこうでクロストレックに追加されたのがストロングハイブリッドのクロストレックS:HEVだ。
水平対向エンジンは低重心であるなどメリットがある一方でロングストローク化が難しく、オイルの抵抗も大きいなど燃費性能にとっては不利な面が多い。これまではe-BOXERと呼ばれるマイルドハイブリッドを搭載してきたが、効果は限定的だった。

そこでストロングハイブリッドを開発。トヨタのTHS IIの技術を用いているが、縦置きの水平対向エンジンにチェーン式CVTというメカニズムのため、ハイブリッドシステムも独特だ。
エンジンは新規開発で2.5L NAとなった。Cセグメントのクロストレックなら既存の2.0Lでも十分なように思えるが、燃費とパフォーマンスのバランスを考慮しての選択だという。高効率にするためミラーサイクル燃焼を採用しているが、一般的な燃焼に比べるとトルクを出しにくいので2.5Lは適正な排気量だと判断。スバルの主要マーケットであるアメリカなど海外では牽引の能力も問われるという事情もあるそうだ。
また、スバルのラインアップはクロストレックがエントリーだが、それよりも大きな車両へも同システムを載せるとなると2.0Lでは心許ない。今後の展開も考えての選択だろうと推測できる。
ちなみに既存の2.0Lは最高出力107kW、最大トルク188Nmだが2.5Lは118kW、209Nmとなる。マイルドハイブリッドのモーターは10kW、65Nmだが、ストロングハイブリッドは88kW、270Nmとなり、パフォーマンスは大きく向上。それでいてWLTCモード燃費は15.8km/Lから18.9km/L(ともにAWD)へと約20%改善された。
トヨタやホンダのハイブリッドカーに比べればそれでも物足りないが、燃費を追い求めるだけでは商品力としては不足であり、スバルらしさを大切にしたのだろう。AWDのみの設定というのもそのためだ。燃料タンクは63Lと比較的に大容量なのでモード燃費通りなら航続距離は1190kmにおよぶ。
メカニズムの要となるのはトランスアクスルで、発電用と駆動用の2つのモーターとフロントのディファレンシャル、電子制御カップリングが収められている。

以前からアメリカ向けにPHEVが存在したのだが、そこから進化させた部分としてはモーター用のリダクションギアをプラネタリーギアからヘリカルギアに換装してノイズを抑えたことがあげられる。このギアの加工は従来の方法では難しいため、パワーホーニングという日本の自動車メーカーとしては初の方法を用いたという。
その他、特徴としてあげられるのはPCU(パワーコントロールユニット)をエンジンルーム内に収めたこと。これによって燃料タンク容量を確保できたのだ。

こうして出来上がったクロストレックだが、これまで通りに低重心で左右が完全に対称のパワートレーンが自慢だ。
S:HEVの車両価格は383万3500円~で2.0Lマイルドハイブリッドに比べると40万円ほど高価なものの納得のいく範囲だろう。エンジン縦置きのFWDベースのAWDは、乗用車として最強の走破性を持っていて安心・安全。それを実現しているのはスバル以外ではアウディぐらい。
その優れた資質が、パワフルで燃費も悪くないフルハイブリッドを得たことで大いに魅力を増したのは確かで、スバルファンも納得のモデルになったと言えるだろう。