車の最新技術
更新日:2025.01.15 / 掲載日:2025.01.15
加速する自動車のデジタル化は、本当にユーザーのためになるのか
(掲載されている内容は「プロト総研 / カーライフ」2024年掲載記事【その技術はユーザーのためになるか⁉︎ 加速するデジタル化について考える】を転載したものです)
まとめと写真●ユニット・コンパス
様々な専門家を招き、業界のいまをお伝えするインタビュー記事。今回のテーマは「デジタル化」。昨今、自動車業界で急激に使われるようになったデジタル化は、クルマをどのように変化させるのか。また、我々ユーザーにはどのようなメリット・デメリットがあるのか。モータージャーナリストの岡崎五朗氏に話を伺った。
宗平 今回は、『その技術はユーザーのためになるのか』をキーワードとして、加速する自動車産業のデジタル化について考えます。お話いただくのは、自動車ジャーナリストの岡崎五朗さんです。本日は、よろしくお願いします。
岡崎 よろしくお願いします。
デジタル化で自動運転は実用化されるのか
宗平 さて、デジタル化がもたらす利便性として代表的なのが自動運転の実用化です。テスラは、2024年10月にペダル・ハンドルレスの完全自動運転タクシー「サイバーキャブ」を発表しました。移動の時間を運転操作以外に使えること、さらに自分が利用していない時に有料で貸し出すことで、クルマが自分で稼ぐ時代が来るという説明もありました。2026年中の生産開始を目指すということですが、岡崎さんは実現性も含めどう分析されていますか。
岡崎 最大の目的は株価の維持でしょう。テスラの株価は2022年をピークに下降傾向にありました。最近こそCEOであるイーロン・マスクのトランプ政権入り絡みで跳ねていますが、実業を見ると好材料と呼べるものはほとんどない。自動運転にしても、イーロン・マスクはこれまで数々の嘘をついてきています。2019年には、「今年中に完全な自動運転機能を備えた車両が完成し、2020年には100万台のロボットタクシーが路上を走っている」と発表しました。ところが実際にはまだ1台も走っていない(テスラ FSDは自動運転レベル2)。その時と同じで、イーロン・マスクは大きい話をして、それに夢を見た投資家たちが株を買う。今回も1年から2年くらいは夢が見られるのでは。自動運転が抱える課題は技術面だけではないですし、まだ実現性は低いと考えています。
宗平 では、このニュースをもって、自動運転で日本勢が遅れている、競争に負けてしまうということにはつながらないと。
岡崎 はい。経済誌などが見出しで煽るから不安になってしまう人もいるでしょうが、僕には自動運転の難しさをよくわかっていない記者が騙されているか、もしくはわかった上でページビュー稼ぎのために大騒ぎを演じているだけに見えます。
宗平 実際問題として、自動運転がどれだけ求められているのか。ユーザーとして疑問に思うところはあります。というのも、最近購入したクルマに渋滞時にハンズオフできる機能がついていて、最初は物珍しさで試しましたが、そこまで実用性を感じられませんでした。
岡崎 レベル2であるACC(アダプティブ・クルーズコントロール)でさえ、装着率こそ上がってきていますが、肝心の使用率はまだまだ低いのが現実なんです。前走車に追従するACCはロングドライブの疲労を確実に軽減してくれますし、事故率も大幅に低減するので、もっと多くの人に使ってもらいたいと思っていますが、残念ながらユーザーニーズとはまだまだ乖離がありますね。レベル2ですらこのような状況なので、それ以上の自動運転が急速に普及するという予想はいくらなんでも非現実的です。2021年に世界初のレベル3として発売されたレジェンドの価格はノーマル車比375万円アップの1100万円でした。それ誰が欲しいの?ということです。さらにコストや難易度が高くなるレベル4やレベル5が一般ユーザーが買うところまで下りてくるのはそうとう先の話でしょう。58歳の僕が免許返納を考えはじめる頃にはなんとかでてきてくれたらいいな、というイメージです。少なくともここ10年ぐらいは、レベル2に磨きをかけていくのが現実的なソリューションだと思っています。