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更新日:2025.01.17 / 掲載日:2025.01.17

ウーブンシティはモビリティのテストコース【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ、池田直渡

 1月7日、トヨタはアメリカはネバダ州ラスベガスで開催されるCES2025のプレスカンファレンスにおいてウーブンシティに関するプレゼンテーションを実施した。

 ウーブンシティのコンセプトが最初に発表されたのは、実は5年前のCESである。5年前に未来都市として説明された計画が第1期の工事を終えて、今秋スタートする。

 さて、ウーブンシティとは何か?

 昨今頻繁に言われることが、クルマのハードウエアだけを考えていては取り残されるという話である。その場合、議論はどうも正体のはっきりしないSDVに繋がって行くので、話半分以下に感じてしまうのだが、実はモビリティの未来を考えるためにはハードウエアだけではダメなのは確かである。

 例えば、トヨタはモビリティを構成するのは、人、インフラ、ハードウェア(クルマなど)の3つだと言う。その3つの条件を色々変えて試せないと未来はわからない。

 「EVはタイヤの付いたバッテリー」という言い方もよく聞く。それは電力網、つまりグリッドのシワ取り(電力の細かい過剰、不足の調整)用に分散型の電池としてEVを活用する話だ。

 グリッド側のニーズを満たすためには、電力が不足する時や余剰が出る時、EVはグリッドに繋がっていなければならない。つまりユーザーはその間クルマを自由に使えなくなる。しかもバッテリーはグリッドの都合に合わせたそうした充放電で劣化が進む。つまりインフラに対して個人の所有するバッテリーを貸し出すとするならば、EVユーザーには色々と不利なことが発生することになる。

 当然なんらかのメリットを用意して協力してもらうというのは誰でも思いつくのだが。10年以上前からその概念はしつこく聞いている割に、その「なんらかのメリット」の具体例はどこにもない。この10年間誰も手をつけてないのである。必要な台数をグリッドの都合に合わせてもらうためにはどんなメリットをどのくらい用意すればいいのか。その時充放電器にはどんな機能があればいいのか。

 こういう実験は人とインフラとクルマの3つがセットになっていないとできない。だから「人とインフラとハードを全部揃えた実験都市を作り、それをモビリティのテストコースにする」というのが、トヨタが構想するウーブンシティの姿である。そういうクルマのある生活の中での未来形を探っていくのがウーブンシティの役割である。

 こうした実験を必要としているのはトヨタだけではもちろんない。さまざまな研究を行いたい人や企業がいる。ウーブンシティではこれらの人を「Inventors(インベンターズ/発明家)」と呼ぶ。「自分以外の誰かのために」という思いをもつインベンターが、人の暮らしの未来の形を持ち寄り、ウーブンシティで実験する。それも構想に含まれている。

 実験をしたい人たちがいれば、その反対側に被験者が必要だ。実際にそこで街のインフラやハードウエアを試してその使い勝手をフィードバックする役割の人たちである。例えば先のEVグリッド構想で、協力できるライン、できないラインを決めるのは彼らの役目である。こうした街の住民やビジターをトヨタはWeavers(ウィーバーズ)と呼ぶ。リリースでは以下の様に書かれている。

 “住民やビジターは Woven Cityにおいて重要な役割を担います。 Woven Cityでは住民及びビジターをWeavers(ウィーバーズ)と呼び、「モビリティの拡張」への熱意と、より豊かな社会を目指し未来をより良くしていきたいという強い思いを持ち、 Woven Cityで行われるInventorsの実証へのフィードバックを通じて、 Woven Cityにおける価値を共創する人を指します。”

 インベンターとウィーバーズが二人三脚で未来のモビリティのあり方を探っていくテストコースがウーブンシティである。未来がわからない以上、どんな未来がやってきても、その先の可能性をテストできる街であり続ける必要がある。

 だから、「ウーブンシティってどういもの?」という質問に対して、トヨタは「モビリティのテストコース」だと言うし、それはリアルな街と違って、未来の街を模索するための実験・被験都市であり、同時にモビリティの開発の道具箱でもある。

 ウーブンシティの発表に多くの人が期待するのは、自分がタイムスリップしたかの如く、まだ見ぬ未来を現実に見せてくれる、そういう姿だろう。だがウーブンシティはそういうものではない。未来はわからない。「だから、試そう」というのが、ウーブンシティのコンセプトなのだ。、「トヨタの理想の未来」のショーケースを期待してウーブンシティを見るとわからなくなる。「未来がどうなるかを考え、試すためにつくった」実験施設。テストコースである。

ウーブンシティは、都市を舞台に実験を行いたい企業や研究者にも一部開放される構想となっている

 なのでウーブンシティがスタートした時、ここを新たなトレンドスポットとして遊びに行けるかと言えば多分原則的にNOだろう。何しろテストコースである。秘匿性の高い新技術のテストをやっている場所。ごく限られたエリアは見学できるかも知れないが、基本的には部外者は入れない街だと思った方がいい。

 もしこの街に入りたいのだとすれば、実はインベンターになるのが一番早いのではないかと思っている。ウィーバーズは被験者なので色々と制約が大きいと思われ、むしろこの街にモビリティの新しいサービスを持ち込む企画を立てた方が通りやすいような気がするのだ。もしあなたがウーブンシティの住民になりたいのだとすれば、モビリティの新しい未来に対するアイディアを提出してみてはいかがだろうか?

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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