車の最新技術
更新日:2025.01.25 / 掲載日:2025.01.24
ダイハツもモータスポーツ起点のクルマづくりへ【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●川崎泰輝、ダイハツ
「モータースポーツを起点としたクルマづくり」とは、ここ数年トヨタが主張してきたことである。「もっといいクルマづくり」を実現していくためには具体的にクルマを良くするための方法が必要である。
モータースポーツの世界には、そのための具体的な方法がたくさん蓄積されているのだが、手間やコストがかかり過ぎて、あくまでも市販車と別世界の話とされてきた。
トヨタはそこにメスを入れ、モータースポーツ的カイゼン手法を量産車に取り入れる技術を磨くことで、一気にもっといいクルマの世界を広げることに成功した。具体例としてはGRファクトリーによるGRヤリスやGRカローラなどである。従来であれば、ゆうに一千万円を超えるコストがかかったであろう競技車両のノウハウを盛り込んだコンプリートカーが500万円前後から購入できる様になった。
ダイハツは今やトヨタの100%子会社であり、必要があればトヨタとシームレスに開発を進めることができる。ダイハツはトヨタガズーレーシング(TGR)を範としたダイハツガズーレーシング(DGR)を発足させて、新たにモータースポーツを起点とする「小さな」クルマ作りをスタートさせたのである。
TGRでは市販車の性能向上の取り組みと合わせて、モータースポーツの裾野を広げる活動を続けて来たが、GRヤリスやGR86では裾野を広げると言っても価格的に限界がある。しかし、ダイハツの安価なクルマをそこに加えることで、我が国のモータースポーツの裾野を一気に拡大することができる。

例えば、ダイハツが東京オートサロンに出典した「ミラ イース モータースポーツ参戦車」と「コペン GR SPORT モータースポーツ参戦車」である。特に前者のベースとなったミラ イースは税込で99万2,200円からと圧倒的に安価である。出典車はこれにターボを追加、5MTを投入、フルバケットや6点式のロールゲージ、DGRのタワーバーや、冷却系のインテークやダクトを装備して競技モデルに仕立ててある。コペンベースのモデルはラリージャパンに出走したワークスマシーンであり、排気量も車幅も軽自動車枠ではない。こちらは市販の流れにはつながらないだろうが、ダイハツではコペンGRスポーツに「D-SPORT」のパーツを組み込んだモデルも開発しており、こちらは市販パーツを購入して同様に仕立てることも可能だ。


もちろんあくまでも参考出品で価格は発表されていないが、おそらくは車両込みで200万円もあれば競技が始められると思う。200万円程度でメーカーが仕立てたコンプリートカーが手に入るのであれば、参入障壁は一気に下がる。そのくらいの金額であれば、収入が低い若い人であっても、やる気次第でなんとかなるだろう。
「モータースポーツ参戦まではちょっと」という人に向けては、純粋に市販車として楽しむ「ミラ イース GR SPORT コンセプト」が出品されており、こちらは先に述べたモータースポーツ参戦車のベースになる市販モデルのコンセプトカーだ。

ダイハツの軽からコンパクトカーに至る小さく安価なクルマをベースにしたスポーツ、あるいは競技車両の充実は、より少ない予算でクルマを楽しむ人たちに福音となるだろう。
トヨタは現在GRヤリスのラリー2を市販して、カスタマーモータースポーツの振興に乗り出しているが、仮にダイハツが、軽自動車をベースにラリー4やラリー5と言ったラリーのエントリークラスのためのコンプリートカーの開発に乗り出せば、もっと気軽にモータースポーツを楽しむことができるだろう。特にラリーという競技は、公道の移動も含むため、通常ナンバー付きのモデルで競われる。となれば日々の通勤のアシとして使いつつ、週末だけ競技を楽しむ様な使い方も可能になってくるだろう。
ということで、まだ活動が始まったばかりのDGRにはちょっと荷が重いかも知れないが、着々とプロジェクトを進めて、長期的に日本のモータースポーツの裾野を着実に広げていって欲しいと切に願う。