車の最新技術
更新日:2025.03.03 / 掲載日:2025.03.03

トレンドの電気式4WDを解説する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ホンダ、日産

 冬は雪上・氷上での試乗の機会が増え今シーズンも幾度かの機会を得たが、FFベースでリアにモーターを持つモデルが進化し、身近になってきてもいることを実感した。なかでも日産e-POWERとホンダe:HEVという、よく似たハイブリッドシステムの4WDが興味深い。

 2000年代初頭は、日産マーチなどガソリン車のFFにリアモーターを搭載した電気式4WDが普及し始めた。3kW程度の小さなモーターを始めとしたシンプルかつ安価なシステムでも雪道の発進能力は高く、降雪地帯のユーザーにとってはありがたいものだった。ただし、一般的な4WDと比べると走破性は高くなく、生活4WDなどとも呼ばれた。

日産 ノートオーラ e-POWER

 リアモーターを大きくしていけばもちろん走破性は高まるが、コストは跳ね上がりスペースも使うためコンパクトカーなどでは採用しづらい面もあったが、2020年にノートe-POWERに本格電動4WDが登場。それまでのノートe-POWERのリアモーターは3.5kWだったが、一気に50kWへ高めた。発進時のみならず加速時にも安定感に優れ、リアも回生するため減速時に車体が前のめりになりづらい、回生効率が高いなど多くのメリットがある。

 一方、ホンダe:HEVは現在でも4WDはメカニカル。フロントの駆動用モーターの力をプロペラシャフトでリアにも伝える方式となっている。これはこれでコストやスペース効率、性能のバランスがいいシステムではある。

 大きなリア用モーターを使わなくても前後に同程度の駆動力を伝えることも可能なので走破性が高いのだ。ただし、次世代e:HEVは電気式4WDでリアモーターは50kW相当。

 当コラムでも以前にプロトタイプ試乗をお伝えしているが、今回は雪上で現行のe:HEV 4WDと次世代の電気式4WDを乗り比べることができた。

ホンダ ヴェゼル e:HEV プロトタイプ

 電気式4WDのメリットは高精度でスリップを検知しつつ最適な駆動力配分が可能なことだ。滑りやすい路面でも舵の効きが良く、それでいて安定感も高い。旋回中にアクセルを踏み込んでも、リアのグリップが少なければ駆動を与えすぎないなどという制御はメカニカルではできないことだ。

 ただし、メカニカル式は慣れ親しんでいることと熟成されていることで、振り回して走るときには予測が立てやすく、ドライバーに従順な印象が良かった。電気式4WDは制御次第でどうにもなるので、煮詰めていけばもっとドライバビリティが良くなるだろう。

 もう一つのメリットは加速力が高まること。メカニカル式はフロントのモーターの力を振り分けているだけだが、電気式はリアモーターのパワーがアドオンされる、しかも重量増が少ないから、それだけ速くなるわけだ。

 日産e-POWERには、電気式4WDにくわえて一歩進んだe-4ORCEもある。2022年のエクストレイルから採用され、最近ではセレナでも登場した。

日産 セレナ e-4ORCE

 e-POWER 4WDは前後トルク配分を行っていたが、それに加えてブレーキも統合制御することでハンドリング性能を向上させるのがe-4ORCEの特徴。4輪のグリップ限界を算出しながら前後モーターと左右ブレーキを制御している。

 これも雪道で試乗したのだが、滑りやすい路面でもアンダーステアが少なくて安心感があることに加え、積極的にアクセルを踏み込むことで旋回力が増していくのも楽しい。

 さすがはBEVも含めてモーター駆動車が多く、電気式4WDの経験も豊富な日産だけあって制御が上手だ。以前からモーター制御によるピッチングの抑制なども行っていたが、e-4ORCEはそれもさらに緻密になっていて乗り心地の向上にも役立っている。

 一つだけ残念に思うのはVDC(横滑り防止装置)の介入の仕方。テールがリバースし始めるとドンッと強く介入してきて、比較的に長い時間介入が続く。とにかく安全に、という志向なのはわかるが、ドライバーとしてはお仕置きされている感が強くてドライビングを楽しむ気持ちが削がれてしまう。もう少し安全と楽しさの上手なバランスになることに期待したい。

 生活4WDにとどまらない本格的な電気式4WDが増えてきたのは望ましいことだ。本当に高い走破性を得るには、スバルや三菱のようにリアもフロントと同等かそれ以上のパワーを持つ必要があるが、50~60kW程度のモーターでも相当の走破性やメリットがあり、しかもコンパクトカーやミニバンなど身近なモデルで乗れるのが嬉しい。

 ハンドリングや快適性の強みはドライやウエットでも強みとなるので非降雪地帯のユーザーも注目するべきだろう。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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