車の最新技術
更新日:2025.03.21 / 掲載日:2025.03.20

命を守る最後の砦、トヨタ安全技術30年の進化

文●ユニット・コンパス 写真●トヨタ、ユニット・コンパス

 カーライフを縁の下で支える力持ち、それが安全技術。この記事は、日頃あまり日の当たることのない安全技術について解説します。クルマ好きはもちろん、できればまだ免許を取得したばかりだったり、この春からクルマ生活を始めたりするひとに読んでもらえたら嬉しいです。

交通事故死傷者ゼロを目指して

 先日、トヨタ主催の勉強会に参加しました。テーマは安全。たくさんのメディア関係者が参加して、30年にわたるトヨタの安全技術の歴史や考え方を専門家から聞くことができました。
 通常の取材会は、なにか新しい発表があって開催されるのですが、この会はそうでないといいます。アトラクション的に技術体験もありましたが、それが本質的な目的ではない。普段なかなか向き合うことのない安全技術をいま一度、まさに勉強しましょうという会だったのです。

勉強会のプレゼンターを務めたトヨタ自動車株式会社 クルマ開発センターFellow 車両安全技術担当の御沓悟司氏。「GOA」の開発にも携わってきた衝突安全のエキスパート。現在はいわゆる認証問題を解決のための組織改革に取り組んでいる

 取材会の始まりにクイズが出題されました。それは、2024年の交通事故死傷者数のデータにまつわるものでした。

 ちなみに、答えは2663人です。トヨタが目標としているのは、この数字をゼロにすることだといいます。
 それにしても、「2663人」という数を聞いてどう思いましたか? 思っていたよりも多い?それとも少ない? いずれにせよ、数字以上にたくさんの人生が大きく変わったことは間違いありません。我々ドライバーは、その現実から目を背けてはいけないと思います。

 クルマにはたくさんの楽しさがあります。行動の自由が広がりますし、ひとや荷物を遠くまで運べますし、移動するプライベート空間でもあって、運転そのものも楽しめる。物流の例を出すまでもなく社会にとって欠かせない存在ですし、ときに道具を超えて愛車と呼ぶような特別な関係性も生まれます。

 一方で、事故が起きると人生が一変します。とくに人身事故は、相手だけでなく自分にとっても深刻な影響を及ぼすことになります。ですから、「2663人」という数字は、実際にはその何倍もの重さを持つのです。

「現地現物」と「改善」により実安全を追求してきた30年

 さてここからはトヨタの安全技術について簡単に解説していきます。自動車の安全技術は、大きくわけて2つあります。「ぶつかった時の技術」と「ぶつからないようにする技術」です。

 トヨタでは、「安全をなによりも優先」、「実安全の追求」という考え方により、国などが定めたルールや第三者機関の評価よりも厳しいトヨタ独自の安全基準をもうけ、実際の事故データや交通環境から学びながら安全技術を磨いてきたといいます。

 まずは「ぶつかった時の技術」。代表例は、トヨタでは1995年から導入している乗員を守る強固なボディ構造「GOA」です。この技術は年々進化を続け、現在では乗員だけでなくぶつけられた側の歩行者についても被害を軽減するようになりました。

最新モデルであるクラウン(エステート)のボディ骨格。強固なボディで乗員を衝撃から守る一方で、歩行者保護のための工夫も盛り込まれている。また高剛性のボディ構造は走行性能や走りの楽しさにもつながる

 そしてもうひとつの「ぶつからないようにする技術」も1995年から進化してきました。最初はドライバーの運転操作を補助する「ABS(急ブレーキ時の補助)」や「VSC(横すべり防止機構)」からスタート。2000年代には衝突のリスクをドライバーに報せる「PCS(プリクラッシュ・セーフティ・システム)」を実用化。クルマの知能化が進んだ2015年以降にはついに、クルマが危険を判断したときに車両が操作を補助するレベルにまで進化ました。自動ブレーキに代表される安全機能を統合した「TSS(トヨタ・セーフティ・センス)」と呼ばれる安全運転支援パッケージです。

 トヨタはこうした技術を、実際の事故データやドライバーの運転行動や事故状況と向き合いながら開発してきたといいます。その成果として、不注意を原因とする事故において「TSS」装着車は、非装着車に比べての死傷者数が81%も減少しているといいます。

AI技術や通信の活用で交通事故ゼロを目指す

 自動車メーカー各社の努力による安全技術の進化やインフラの整備、ひとびとの意識の変化によって、交通戦争時に1万人を超えていた死傷者数は現在2633人にまで減らすことができました。

 では、これをゼロに近づけるためにどうすればいいのでしょうか。

「ぶつからないようにする技術」は将来の自動運転にもつながる重要な技術だ。解説をおこなったのは、トヨタ自動車株式会社 デジタルソフト開発センターアプリケーション開発チーフプロジェクトリーダー 鯉淵 健氏

 トヨタは、従来の技術を磨き上げながら、AI技術を活用した「ヒトとクルマの行動予測」とデータ通信を活用した「三位一体(ヒト・クルマ・インフラ)」の協調制御を積み上げていくことで交通事故ゼロの達成に挑戦していくといいます。クルマがドライバーの相棒として運転を見守る存在となり、さらにクルマとクルマ、ひととクルマ、クルマと街が情報を通信することで、見えない危険を克服するという考え方です。そしてそれは自動運転の進化とも道を同じくすることでしょう。

安全あってこその楽しさ

 駆け足にトヨタにおける安全の進化について紹介してきました。しかし、トヨタによれば、クルマだけの進化では事故死傷者をゼロにすることは難しいといいます。

 安全技術ではカバーできない領域、それは「ひとの要素」。運転手や歩行者の意識も変わっていかなければ事故による悲劇はなくならないのです。トヨタは長年にわたり絵本の無償提供やドライビングスクールなどを通じた啓蒙活動を行なっているそうです。もちろんそれは素晴らしいことですが、やはり当事者である我々ひとりひとりが安全に関する意識を高める必要があるでしょう。

 長年にわたり安全技術に携わってきた御沓氏にアドバイスを求めたところ、「とにかくシートベルトを必ずしてください。運転席、助手席だけでなく後席も」という答えが帰ってきました。シートベルトをしていれば助かるはずだった命をたくさん知っているプロの言葉だけに、非常に重さがありました。

 クルマのある生活は楽しいです。趣味になるくらいですから。しかしその楽しさというのは、安全のうえに成り立つのだということを改めて実感することとなった勉強会でした。

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グーネットマガジン編集部

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