車の最新技術
更新日:2025.04.07 / 掲載日:2025.04.07
日産復活の鍵となる第3世代e-POWERを解説する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●日産
2016年にノートのマイナーチェンジで初めて導入されたe-POWERは、エンジンが発電に徹してモーターが駆動するシリーズ式ハイブリッド。
ホンダのe:HEV、三菱がアウトランダーやエクリプスクロスのPHEVに採用しているハイブリッド・システムも基本はシリーズ式だが、高速・低負荷領域ではエンジンが直接駆動するモードも持っているのが違う。ホンダ、三菱は言わばシリーズ式+αなのだ。
日産、ホンダ、三菱の経営統合が検討されたときには“e-POWERは高速域の燃費が悪い”とTVや新聞などの一般メディアでも紹介され、それが日産の経営不振の一因でもあると紹介されてもいた。それは間違いではないものの、主要マーケットであるアメリカでハイブリッドカーの人気が急上昇したのにe-POWERを販売していないこと、そもそも新型車の投入が遅かったことなどが重なっている。
そんな日産の窮地に明るい希望をもたらすのが、第3世代e-POWERだ。



第1世代はリーフ用モーターを流用して既存のガソリン車のエンジンと組み合わせたもので、2代目ノートと5代目セレナに採用された。第2世代ではモーターとジェネレーターを一体化して3代目ノート、キックスに採用。さらに、可変圧縮の1.5L 直列3気筒VCターボと組み合わせたエクストレイルとキャシュカイ(欧州)も登場してセグメントを追加。6代目セレナは1.4Lのe-POWER専用エンジンを搭載したことで第2.5世代とみていい。
そして第3世代はe-POWER専用エンジンにくわえて、電気系はモーター、インバーター、減速機に加え発電用の発電機と増速機を一体化した5 in 1となる。現在のところ明らかになっているのは、1.5Lターボ・エンジンでキャシュカイと次期ローグ、次期大型ミニバンに採用されるということ。エンジンはVCではなくなるようだ。また、コンパクトカー用が第3世代になるのはもう少し先になるのだろう。



シリーズ式ハイブリッドは、エンジンの始動・停止、回転数などを運転状態にかかわらず自在に選べるゆえ、最良の熱効率を使用できるのがメリット。第3世代では最良効率のポイントを高トルク域にも拡げることで主に高速域での燃費改善に繋がっている。また、定点運転に特化した専用設計とすることで、燃焼室に入る空気流の安定を確保。エンジン回転数の変動が少ないことで空気の乱れも少なく、強いタンブル流が導入される。この安定した燃焼を実現する技術はSTARC(Strong Tumble&Appropriately strtched Robust ignition Channel)コンセプトと呼ばれる。
5 in 1は、これまで接合していた各ユニットを一体化することで高剛性となり、振動レベルを下げることができる。軸構造を最適化したことと合わせて静粛性を向上させた。
第3世代キャシュカイと第2世代キャシュカイを比較すると、モード燃費は9%改善、高速燃費は15%改善。改善寄与度はエンジンが68%、電気系が16%、車体が16%。静粛性は車内騒音レベルが−5.6dBで寄与率はエンジンと電気系を合わせたパワートレーンで84%、車体で16%となっている。
実際に新旧を乗り比べる機会もあったのだが、第2世代の現行キャシュカイからへ乗り換えて走り出した瞬間から、動的質感が向上していることが実感できた。
第2世代でも振動・騒音は少なく、まったく悪くないと感じたのだが、それをさらに上まわっているのだ。5 in 1の効果がとくに高いように感じた。その感覚は、エンジン車とBEV(電気自動車)が同じボディで用意されているモデルを乗り比べたときに似ている。
振動が大きいエンジンは、重量物ながら柔軟性のあるマウントで支えられているが、走行中に常に揺動していて動的質感にはマイナスに働く。それに対してBEVは揺動しないので余計な振動がなく、サスペンションもきっちりと仕事をできる。エンジン車とBEVほどの違いはないが、5 in 1は似たような効果があるのだ。エンジン回転の制御も進化しているので静粛性はさらに向上している。

第3世代e-POWERはおもに高速燃費を改善していると聞いて、ホンダや三菱のようにエンジン直接駆動が加わるのかと予想していたが、そうではなく、専用エンジンを含むパワートレーンで実現していた。欧州や北米など、平均速度の高い地域でも競争力はありそうだ。
e-POWERは2016年の登場以来の累計販売台数は162万台。そのうち日本が123万台、欧州が19万台、中国が6万台、ASEAN・メキシコなどその他地域が8万台。2026年には第3世代を引っさげて北米市場にも打って出る。アメリカの関税問題で混沌としている自動車産業だが、相対的に日産の競争力が高まることを期待してよさそうだ。