車の最新技術
更新日:2025.09.15 / 掲載日:2025.09.15

スズキの技術、これからの10年【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●スズキ

 「小・少・軽・短・美」を行動理念として掲げるスズキ。小さく、少なく、軽く、短く、美しくという言葉から連想されるように、ムダを省いた高効率で高品質なものづくりの基本方針であり、エネルギーの極小化を目指す。潔くシンプルを追求するスズキらしい。技術説明会2025では今後10年程度のロードマップが示された。

 昨年に発表された「Sライト」は、現行の軽自動車から100kgの軽量化を目標としたもので2030年頃の発売を目指しているが、先行開発車ではこの1年で80kgを達成。さらなる積み重ねであと20kgの軽量化も現実的だとしている。

 初代や3代目のアルトを徹底的に調査したことで、現在の軽自動車に比べると圧倒的に小さいのに中に乗り込んでみると想像していたよりもずっと広く感じられることに気がついたという。構造の最適化、空間の最適化などで大いに参考になったようだ。

 現在の80kg軽減の内訳は、超ハイテンや接着材適用、材料置換などの部品軽量化が64%、構造進化が23%、仕様が13%となっている。思っていたよりも順調な進捗によってマイナス120kgぐらいまでいけるのでは? と冗談めかして語られたぐらいだ。

 パワートレーンはマルチソリューションを標榜。内燃機関の高効率化はHEV(ストロングハイブリッド)向けの直噴エンジンの開発を開始している。また、CNF(カーボンニュートラル燃料)、牛の糞からつくるバイオ燃料などにも取り組んでいる。

 電動化ではバッテリーリーンなBEV(電気自動車)、MHEV(マイルドハイブリッド)、HEVを展開していく。BEVはすでにeビターラが発表済みで2030年までに15%程度を目指す。軽自動車のBEVも投入されるようだ。

スズキ eビターラ

 MHEVはスーパーエネチャージと呼ばれる48V電源のモデルを開発中。現在の12V電源のエネチャージは1.9kWと出力の小さいモーターを採用しているが、スーパーエネチャージは15~20kW程度を想定。現在の軽自動車のNAエンジンは35kW前後なのでモーターが1/3~1/2程度相当になる。その分、エンジンの負担を減らして燃料消費の極小化を図る狙いだ。2020年代後半の市販が視野に入っている。

 軽自動車よりも大きいモデルではシリーズハイブリッドを開発中。普通車でもコンパクトなモデルが多いスズキにとっての最適解なのだろう。2029年の量産を目指している。

 さらにその延長線上でPHEV(プラグインハイブリッド)も開発し2030年以降に展開。日本、インド、欧州といった市場での環境規制を鑑みると複数の電動化が必要で、BEV、48V電源のMHEV、シリーズ式のHEVおよびPHEVでいく決断をしているのだ。

 モーターを含めたeアクスルは内製によって手の内化したいところではあるが、移行期ということもあって外部のサプライヤーからの調達がしばらくは中心になる。ちなみにeビターラのeアクスルはBlueNexus(デンソーとアイシンによって設立)製。バッテリーはBYDの子会社であるFDB製となっている。

 「SDVライト」もエネルギー極小化に繋がる技術であり、これはユーザーにとってのメリットである本質価値の極大化でもある。

 SDV(ソフトウエア・ディファインド・ヴィークル)は自動車業界で盛んに用いられている概念で、ソフトウエアによって高度な制御を実現するもの。OTA(オーバー・ジ・エア)という通信でのアップデートなども目玉だ。

 現在の自動車は各機能ごとにECUが搭載され、その数は50~100程度と膨大。この分散型ECUを集中型ECUへ改めていく流れになっている。究極は1つにまとめるセントラルECUだが、まずは近い機能をまとめて3~5程度のドメインにするのが一般的だ。

 スズキのSDVライトも同様だが、ライトと呼んでいるのは、ユーザーのメリットを実現するうえでのコストダウンのためだという。今後はADAS(先進運転支援システム)が進んでいくが、カメラやセンサーなどが追加されるたびにECUも増えていってはコストがどんどんと嵩んでいく。安全性を高める装備はユーザーに提供したいが、価格があがってアフォーダブルではなくなるのは問題。そこでSDVライトという発想がでてきたのだという。ユーザーに高性能な電装品を提供する実現手段なのだ。

 スズキの10年先まで見据えた技術ロードマップは、100kg軽量化など大胆かつスズキらしい発想であるとともに、パワートレーン戦略では多くのリソースが求められるマルチソリューションだが的を絞って最適解を見つけているように思える。もう数年で成果を見始めることができるので期待は膨らむ一方だ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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