車の最新技術
更新日:2019.07.18 / 掲載日:2019.07.18
トヨタが狙う未来戦略に迫る! EV、自動運転、協業関係次の時代が見えてきた!

【超小型EV】・乗車定員:2名・サイズ:全長 約2500mm×全幅 約1300mm×全高 約1500mm・最高速度:60km/h・1充電走行距離:約100km
今やトヨタの動向は自動車産業のみならず、日本の経済、ひいては日本人の未来の生活をも左右する。現在を100年に一度の変革期と呼ぶ彼らはどのような未来戦略を抱き、どんな世界を作ろうとしているのだろうか。
●解説:横田 晃
歩行者領域を狙った超小型EVが2020年に日本で市販予定
軽自動車より小さな超小型EVは、従来の小型車などとは異なる使い方を想定した乗り物。右のモデルは20年の発売を予定している。高齢者の日常の足のほか、近距離の訪問巡回などのビジネスユースでの応用も想定。左のコンセプトモデルは、そのような用途向けだ。
超小型EVには4輪車タイプのほかに、セグウェイのような立ち乗りタイプや、電動車いすのような座り乗りタイプ、さらに車いすに連結して使う補助動力タイプもあり、立ち乗りタイプは20年に発売予定。ほかにバンクして走る3輪タイプも公道で実証実験中だ。
最先端のEV技術がまもなく世界を走り出す
トヨタは今、自動車産業が100年に一度の大変革期に直面していると危機感を表明している。技術や市場環境の変化によって、これまでのようなクルマを作って売るだけのビジネスモデルは、やがて通用しなくなると言うのだ。
その危機感の根拠になっているのが、CASEとMaaSというキーワードだ。
C=クルマのネットワークへの接続、A=自動運転、S=シェアリング、E=電動化の進展によって、これまでのようにクルマを所有するという形態が終わる。代わって求められるのが、MaaS=モビリティ・アズ・ア・サービス。情報通信技術を活用して、マイカーにこだわらない、効率的な移動を提供するサービスだ。
スマホなどからワンストップで予約・決済し、航空機や鉄道、バスやレンタカー、シェアリングカーなどを自在に使いこなして移動する。そんな時代が到来した暁には、自動車産業以外の業種も巻き込んだ大競争が始まる。
そんな市場を勝ち抜き、生き残るためには、多くのパートナーと協業しながら、新しいビジネススタイルを獲得しなければならない。その最終的な姿はもはや自動車会社ではなく、ホームプラネットの視点で、地球規模でのCO2排出量削減などに取り組みつつ、すべての人に移動の自由を提供するモビリティカンパニーなのだとトヨタは定義しているのだ。
多くの普通の生活者にとっては、未来を見据えたトヨタのそんな取り組みは、別世界の話に聞こえてしまうかもしれない。しかし、じつはその成否はすべての日本人の人生設計をも左右する。
何しろトヨタは日本の経済を支える自動車産業の中核。万一そのトヨタの戦略が傾けば、日本の経済そのものも行き詰まる。トヨタの未来戦略が狙い通り進むことは、今やこの国の未来構想にとっても必須なのだ。
本格普及までカウントダウン開始 EV&HV最新展望

「RHOMBUS」
上海ショーで発表されたRHOMBUSは、中国の若者の価値観やライフスタイルに合うクルマとして現地のスタジオで開発されたEVのコンセプトカー。中国では、燃料電池自動車MIRAIの実証実験も始まっている。
C-HRベースのトヨタEVを2020年に中国で導入

量産小型車タイプのEVは、この春に上海でC-HRとIZAOの2台を発表済みで、2020年の発売がアナウンスされている。続いて日本やインド、北米、欧州でも発売予定で、2020年代前半には、全世界で10車種以上の量産EVを投入する予定だ。 中国ではすでに70万台ものEVが走る。今後もEV市場の未来を占う実験場になるだろう。
トヨタとスバルが強力タッグEV専用プラットフォーム&SUVのEVモデルの共同開発を発表
スバルと共同開発するEV専用プラットフォームはe-TNGAと呼ばれる。前後のモーターユニットやボンネット内のレイアウト、前輪に対するドライバーの位置、電池の幅などは固定化する一方、ホイールベースや電池の搭載量、オーバーハングなどは商品企画に応じて変化させることで、さまざまなバリエーションが作り分けられる。
多くのパートナーとの協業は、トヨタの未来戦略の重要な要件。EVの開発においても、国内外の様々な企業との共同企画・共同開発が目白押しだ。
この6月に発表されたスバルとの協業計画は、中・大型乗用車向けのEV専用プラットフォーム開発と、それを使ったミドルクラスSUVの共同開発。フォレスターやRAV4のEVが数年後には登場しそうだ。
ほかに、スズキ/ダイハツとの小型クラスEVの共同企画も公表されている。
車両電動化技術の特許実施権を他メーカーに向けて無償で提供
基幹技術を必ず自分たちの手で開発することにこだわってきたトヨタは、電動車両に関する膨大な特許を持つ。約23,740件のそれを無償で提供し、必要なら技術サポートもする。
それによって電動車両の普及が進み、自社で開発した技術がデファクトスタンダード(業界標準)になれば、長い目で見れば大きなメリットという戦略だ。
車載用角形電池事業分野に関してパナソニックと合弁会社を設立

今年1月に発表された内容は、トヨタの持つ電動車両のノウハウと市場データ、次世代技術である全固体電池の先行技術などと、パナソニックの電池メーカーとしての開発製造力を活かし、世界に車載用電池を供給する合弁会社を20年末までに設立するというもの。ほかに中国の電池メーカーとも協業を発表している。
実用化への道すじが見えてきた自動運転技術&次世代モビリティ最新展望
2020年の東京オリンピック/パラリンピックでは、トヨタは多くのEVやFCVなどの車両を提供・運行するほか、トヨタ生産方式のノウハウを活かして高効率な大会運営にも貢献する。都心の特定エリアでは、レベル4相当の自動運転の実証実験やデモンストレーションも行い、誰もが自由に移動できる未来を提示する予定だ。
人工知能で乗員の感情認識や嗜好推定を行い、会話するエージェント機能を搭載したコンセプトカー、「TOYOTA Concept-愛i」は実際に走行して、新しい移動体験を提案する。
e-Paletteはライドシェアや移動店舗など、さまざまな用途に使えるMaaS専用次世代EV。東京2020では、実際に選手村での選手や大会関係者の移動に使われる予定だ。
3輪タイプの超小型EV、TOYOTA i-ROADは、前ページで紹介した立ち乗り型とともに警備などの大会スタッフの足として各会場を走り回る。すでに東京中を走るJPN TAXIも、おもてなしの一員だ。
トヨタが世界最先端を走る燃料電池自動車(FCV)は、MIRAIが大会公式車両として提供されるほか、すでに都内を走っている大型バスのSORAも、会場周辺の足として活躍する。
Uber社と自動運転車に関する技術での協業を拡大

自動運転技術とライドシェアは、これからの自動車市場の大きな柱。ライドシェア大手のUber社への出資による協業は、それを踏まえた方策だ。Uberが開発した自動運転技術を搭載したライドシェア専用車両に、ガーディアンシステムと呼ぶトヨタの高度安全運転支援システムを搭載。車両の総合的な安全性を高めるとともに、リアルな道路交通データを収集、自動運転技術の進化と普及にも貢献する。
ソフトバンク社とモビリティサービスの構築を目的とした共同出資会社を設立

KDDIの大株主でもあるトヨタだが、すでにドコモとも5G通信技術の活用に関する共同研究を始めている。そのうえでソフトバンクグループとも組むのは、同社の新しいビジネスへの積極性を買ってのこと。共同出資会社で手掛けるのは、トヨタのコネクテッドカーから集まる車両情報と、ソフトバンクのスマホやセンサーなどからの人流などのデータを連携させることで、クルマや人のスムーズな移動環境を提供したり、新しい価値を創造するビジネスだ。
車載カメラを使った高精度地図生成実証実験を開始
自動運転用ソフトウエアを開発するTRI-ADでは、米国のCARMERA社と共同で、トヨタ車の車載カメラと市販ドライブレコーダーの映像から、自動運転に欠かせないリアルタイムの高精度地図を生成する実証実験を東京で始めている。
米国関連会社が新型自動運転実験車「TRI-P4」をCES(R)で公開

人工知能などの開発を行うトヨタの子会社TRIが開発した最新の実あ験車は、レクサスLS500hがベース。運転者を支援するガーディアンシステムと、完全自動運転のショーファーシステムの2つを開発する。
東京海上日動火災保険と、高度な自動運転の実現に向けた業務提携に合意
損保会社の東京海上日動が持つリアルな事故の状況データを使ったシミュレーションで、自動運転技術の向上を図る。一方、東京海上日動は、将来の自動運転車両向けの商品開発などに知見を活かす協業だ。
自動運転開発用のテスト施設をミシガン州に建設
TRIでは、公道では危険が伴う状況を安全に再現し、危険回避などのアルゴリズムを開発するために、混雑した都会や高速道路の入出路、滑りやすい路面などを再現した専用のテストコースを昨年建設した。
最先端のEV技術がまもなく世界を走り出す
遠い未来の戦略だけでなく、これから数年のうちに実現する技術も、トヨタには数多く控えている。本格的な普及を狙うEV(電気自動車)は、最も身近なその筆頭だ。
一部マスコミに、トヨタはEV技術で世界に遅れたと書かれたことがあった。しかし、それは全くの誤解だ。1997年に発売した初代プリウス以来、トヨタは走行用モーターを持つ電動車両を累計で約1300万台も売ってきた。
トヨタのハイブリッド技術の独自性はエンジンとモーターをそれぞれの効率がいい領域で使い分けるところだが、モーターで走っている状態は、EVそのもの。その緻密な制御技術は、世界最高峰のレベルにある。
EVの最終進化形と言ってもいいFCV(燃料電池自動車)に関しても、トヨタは世界初の市販セダンとなったMIRAIのほかに、大型バスもすでに実用化している。
来年の東京オリンピック/パラリンピックでは、それらが様々なシーンで活躍する様子が、全世界に発信されることだろう。
量産EVとしては、この春に上海で発表したC-HRのEVを始め、20年代前半には、グローバルで10車種以上のEVを世界市場に投入する予定だ。
10年先を見据えたコネクションを構築中トヨタを取り巻く協業関係最新展望
トヨタグループ
トヨタ自動車は、もともと豊田家の家業である織機メーカーの社内ベンチャーとして生まれた。自動車メーカーとして独立後は、逆に豊田自動織機を傘下企業としたほか、セルモーターなどの電装品製造部門が独立したデンソーや、トランスミッション製造部門がルーツのアイシンなど、多くの関連企業に分かれた。中でも中核となる16社をトヨタグループと呼ぶ。不動産会社や商社、住宅メーカーなど、その業種は幅広い。
【ダイハツ工業】トヨタの小型車開発製造の要|2016年完全子会社化

ダイハツは戦前から小型車を得意とし、戦後も軽自動車で名をはせた。67年にトヨタと業務提携し、小型車の製造開発を担当。その開発力にはトヨタも一目置き、小型車事業強化のため16年に完全子会社化した。
【日野自動車】ランクルなどの製造開発を担う|2001年子会社化

大正時代にわが国初のトラックを開発したのが日野自動車の前身。戦中は戦車などの特殊車両の製造を担う。戦後は乗用車も手掛けるが、66年にトヨタと業務提携。ハイラックスやランクル70なども生産する。
【トヨタ自動車】明治の発明王の独創性を受け継ぐ日本的経営で世界を代表する企業

【グループ会社】デンソー|アイシン|豊田通商
トヨタの創業者は、独自の自動織機を開発した明治の発明王、豊田佐吉。その息子の喜一郎が社内で始めた自動車の研究が、今日の源だ。創意工夫を貴び、自身の手で生み出した独自技術にこだわるなど、豊田家の家風を受け継ぐ日本的な経営と、とことん無駄を排した合理的なトヨタ生産方式で、世界27か国で年間約1000万台を生産。世界で約37万人を雇用する世界的企業に育った。現在の豊田章男社長は、創業者、佐吉のひ孫にあたる。
異業種とも提携関係を構築中
【パナソニック】白物家電からの転換が進む優良企業
経営の神様、松下幸之助が創業した家電メーカーは、近年、急速にBtoB(企業向け製品)への転換が進む。その柱となるのがEV向けの電池。高度な生産技術により世界の工場で高品質な電池を供給している。
【ソフトバンク】挑戦と成功で成長したベンチャーの雄
PCやゲーム機の卸売から始まり、出版業を経て通信業に進出したベンチャー企業の雄。さまざまなニュービジネス、中でもコンピュータ、通信関連サービス事業をいち早く手がけ、成功させてきた実績を持つ。
【NTTドコモ】日本のモバイル通信のリーディング企業
旧日本電信電話公社にルーツを持つNTTドコモは、説明するまでもない日本のモバイル通信企業の最大手。最新の5G通信技術を活用した自動運転やコネクティッド技術の研究で、トヨタと協業している。
【ALBERT】ビッグデータ解析のスペシャリスト集団
人工知能を使った自動運転技術には、大量のデータを収集してそれを的確に分析することが必須。データサイエンティストと呼ばれる解析専門家集団がその仕事を担うALBERTに、トヨタは出資もしている。
他メーカーとも関係を強化中
【スズキ】インドでトップシェアを握る世界的小型車メーカー
鈴木修会長は自社を中小企業と称するが、スズキの自動車メーカーとしての実力はトヨタとホンダの次を狙う位置にある。
中でもこれからモータリゼーションが進展するインドではトップシェアを握る。開発力もコスト競争力も高く、かつてはGMもそれを頼った。トヨタの世界戦略の上でも重要なパートナーとなる。
【BMW】トヨタの企画力とBMWの走りの新しい協業の形
復活を果たした新型スープラは、BMWとの共同開発。伝統の乗り味を生むBMWの技術と、規模が縮小したスポーツカー市場でもビジネスを成立させるトヨタ一流の商品企画力が、新しい魅力を創出した。
自社で作らなくても自社らしい商品を生み出すのも、トヨタの言うモビリティ企業の在り方の一例だ。
【マツダ】独自の魅力を備えたクルマで危機を乗り越えてきた個性派
広島に拠点を持つマツダは、戦争や経済の荒波など、多くの危機を独自の技術や個性で乗り越えてきたメーカー。ロータリーエンジンやロードスターなど、時代を代表する技術や商品は世界で認められている。
トヨタの技術を使ったアクセラハイブリッドの個性的な走りはトヨタの技術者も驚かせ、EVの開発でも協業する。
【スバル】共同開発という新しいビジネスの源になった成功例
トヨタが企画して他社が開発生産することで、一社ではペイしにくい商品企画を成立させるというビジネスモデルで生まれたのが、スバルとのコラボによるスポーツカーの86。
その姿勢を指弾する向きもあるが、プロデューサーとしてのトヨタの実力を発揮した、見事なビジネスチャレンジだった。
トヨタと日の丸を掲げたクルマが月面を走る未来
そうした新しい事業を軌道に乗せるためには、多くのビジネスパートナーとの協業が欠かせない。たとえばEVの実用性の鍵を握るバッテリー技術も、トヨタはハイブリッド技術とともに独自に磨き上げてきたが、それをさらに進化させ、量産するために、パナソニックや東芝を始め、BYDやCATLといった中国企業とも協業することを表明している。
EV技術はより精度の高い自動運転のためにも注目の技術だが、自動運転の技術開発のためには、ライドシェア大手のUber社と協業しているし、さらに遠い未来のビジネスとして、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との協業で、月面探査機の研究まで始めようとしている。
燃料電池技術とEV技術、自動運転技術を活かして、トヨタの月面探査機が月をドライブする。それはもう、けっしてSFの中だけの話ではなく、我々が生きている間にも実現するかもしれないプロジェクトなのだ。
自動車を作って売る会社から、宇宙空間にまで自由な移動の機会を提供するモビリティ企業へ。トヨタの壮大な未来戦略は、これからも多くのパートナーを巻き込みながら続いていくのだ。