車の最新技術
更新日:2021.06.18 / 掲載日:2021.06.18

エンジン付きの電気自動車があるって本当!?【EVの疑問、解決します】

文●大音安弘

 電気自動車は、その名が示すように電気で走るクルマです。ところが、なんとエンジンを搭載する電気自動車も存在します。それがレンジエクステンダーEVと呼ばれるもの。電気だけで走れるなら、エンジンは不要なはず……。なぜエンジンを搭載し、そのエンジンはどのように使われるか。異色の電気自動車「レンジエクステンダーEV」について紹介します。

疑問:エンジン付きの電気自動車があるって本当!?

答え:EVの弱点を補うため、発電用のエンジンを搭載するEVのことです

レンジエクステンダーEVとシリーズハイブリッドの違いは?

BMW i3

BMW i3は現在(2021年6月)時点、日本で唯一購入できるレンジエクステンダーEV

 レンジエクステンダーEVのエンジンは、ずばり電気自動車(EV)に航続距離を拡大させる発電用につかうもの。

 エンジンがあるからといって、エンジンをそのまま動力に使うことはできません。それって日産のe-POWERのことって思われるかもしれませんが、そうではありません。エンジンの役割の簡単な違いを挙げれば、発電エンジンが活躍するタイミングが異なるのです。シリーズハイブリッドに分類されるe-POWERは、エンジンで発電し、電気モーターで走ります。その電気の供給元をエンジンに一元化することで、高価な駆動用リチウムイオンバッテリーの容量を削減。さらに充電機能も省いているので、価格面でも有利です。そのため、走行中は、エンジン停止するタイミングこそありますが、エンジンを始動せずに走ることはできないのです。

 一方、レンジエクステンダーEVは、構造はEVとまったく同じ。日常的な走行は、外部充電で駆動用バッテリーに蓄えられた電気を使います。なので、働かない発電用エンジンは、お荷物ともいえます。しかし、駆動用バッテリーの残量が規定値を下まわると、エンジンが始動し、電気を供給。そのため、バッテリーの充電が必要な状況でも充電を先延ばしにし、エンジンの発電で走行を継続することができます。いわばEVの助っ人的な役目を持つのです。

 もちろん、燃料を給油すればエンジンの発電で走り続けることもできます。予定外の遠出やバッテリーの充電不足をエンジンが補ってくれるので、ドライバーは、電欠の不安から解消されるのが最大の魅力といえるでしょう。ただ環境性能面から、発電に特化した低出力の小型エンジンに小型の燃料タンクを組み合わせるのが一般的。これまでのレンジエクステンダーEVには、発電エンジンを積極的に活用するタイプも存在しますが、こちらも外部充電にも対応しているため、やはりシリーズハイブリッドとは異なります。そこで分類的には、プラグインハイブリッド(PHEV)として扱われています。

 現在、日本で市販されているレンジエクステンダーEVは、BMW i3のみ。搭載されるエンジンは、コンパクトな650cc2気筒エンジンで、最高出力28kW(38馬力)、最大トルク56Nmとクルマのエンジンとしては非力。ただ発電には必要十分と割り切ったものといえます。ですから、高低差の大きい峠道など多くのエネルギーが必要となるルートによっては、モーターパワーが最大限活かせない可能性もあるようです。因みに、e-POWERでは、駆動バッテリーの容量が少ないので、走行状況により、発電した電力をそのままモーターに供給する必要もあります。そこでモーター出力に近い性能の発電エンジンを備えています。

 それでは、レンジエクステンダーの有無でどのくらい航続距離は変化するのでしょうか。BMW i3を例に見て見ると、42.2kWhのリチウムイオン電池を搭載し、EV仕様では最大360km。それがレンジエクステンダー仕様となると、最大466kmまで拡大します。この+106kmの差は、更なる移動の自由と行動範囲の拡大へと繋がります。そして、ドライバーを急な電欠の不安からも解放してくれるのです。

マツダからもロータリーエンジンを搭載したレンジエクステンダーEVが登場予定

マツダが発表したロータリーエンジンマルチ電動化技術

マツダが発表したロータリーエンジンマルチ電動化技術

 もちろん、欠点がないわけではありません。不要な場合は、発電エンジンと燃料はただの重りとなってしまうこと。またエンジンなので、オイル交換などのメンテナンスも必須。またエンジン分も価格に転嫁されるので、コスパも悪くなります。未だに高価なリチウムイオンバッテリーですが、エンジンを追加することで必要な対策とコストを考慮すれば、バッテリーの大容量化の方が現実的な選択といえ、現時点ではレンジエクステンダーEVは貴重な存在となっています。

 このまま大容量バッテリーに駆逐されてしまうと思ったレンジエクステンダーEVですが、近い将来、新たな形に生まれ変わろうとしています。それがマツダのロータリーエンジンを搭載したレンジエクステンダーEVです。

 ロータリーエンジンはコンパクトかつシンプルな構造ながら、高性能であることが最大の特徴。ただ高回転を多用すると燃費が悪化する弱点もありますが、発電エンジンでは最も効率の良い回転数を使うことが出来るので、その点は問題となりません。さらにマツダでは、ロータリーのレンジエクステンダーEVの燃料を代替燃料となるバイオ燃料などの使用も検討しており、これが実現すれば、単なるEV普及までの繋ぎとなるクルマでは終わらない可能性も大きいのです。

 何はともあれ、直接タイヤを駆動しない発電エンジンとはいえ、特徴的なロータリーサウンドを奏でるマツダEVが誕生すれば、クルマ好きを中心に、より多くの人がEVに関心をもつきっかけにもなりそうですね。

執筆者プロフィール:大音安弘(おおと やすひろ)

自動車ジャーナリストの大音安弘氏

自動車ジャーナリストの大音安弘氏

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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グーネットマガジン編集部

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