車の最新技術
更新日:2021.07.09 / 掲載日:2021.07.09
なぜ電気自動車は静かなの?【EVの疑問、解決します】

文●大音安弘 写真●日産
電気自動車(EV)の特徴としてよく話題になるひとつに、静かなことが挙げられます。
理由は、やはりエンジンがないことが挙げられます。エンジンは、シリンダー内で燃料と空気を混ぜた状態の混合気を圧縮し、着火。その爆発で得られたエネルギーでクランクシャフトを回し、ギアを通してタイヤの動力にしています。その爆発・燃焼音を消音機(マフラー)で小さくしています。因みに、マフラーを取り去ったクルマのエンジンからは、かなり迫力ある音を発します。
EVの動力源となる電気モーターは、電気でモーターを回転させることでタイヤの動力を得ています。電気モーターは、大きな音を発する仕組みではないため、静かなクルマとなるわけです。
しかし、エンジンを電気モーターに変えたから静かになるというほど、EVは簡単な構造ではありません。まずエンジン音が無くなったことで、それまで気にならなかった走行中の騒音が目立つようになります。例えば、風切り音やロードノイズなどの走行音、さらに電動パワーステアリングやエアコンの作動音などの自動車の装備が発する音があります。さらにEV特有の音として、インバーターが発する高周波が問題となっています。インバーターは、直流から交流に変換し、その交流電流をコントロールすることで、モーター出力を制御しているEVの重要な機構です。その作動音自体が大きいというよりも、耳障りな音であるが問題となります。
なぜ電気自動車は静かなの?
騒音を発するエンジンがないことに加え、さまざまな対策をしているから
もぐらたたきのように手間とコストのかかる騒音対策

日産の新型EVアリアでは、SUVでありながら優れた空力性能を実現。室内に収入する騒音にも配慮している
これらの音対策のために、自動車メーカーは様々な遮音・吸音対策を施しています。以前、ある自動車メーカーの技術者が、電動車の音対策はいたちごっこと表現していました。これは、何かの音が小さくなる、もしくは消えると他の音が目立ってくるという意味です。その上、遮音や吸音などの音対策はコストと重量の増加という問題あります。そのため、機能の静音化に加え、遮音材や吸音材の最適化など様々な工夫がされています。
その中で間接的に静粛性を高める効果を生むのが、電費対策とEV専用ボディです。
EVでは電費を高めるべく、空力特性を最大限高めるボディデザインを採用しています。クーペデザインや流線型をしたクルマが多いのもこのため。空気抵抗が少ないと、それだけ風の抵抗を減らせるので、電費も良くなるという訳です。風の抵抗が減るということは、走行中に発する風切り音の低減にも繋がります。
そして、有力な電費対策となるのが、エコタイヤ。転がり抵抗の少ないタイヤは、やはり静か。これもEVの静粛性向上の大きな力となっています。次のEV専用ボディですが、簡単にいえば、駆動用バッテリーの搭載スペースを確保するだけでなく、その保護を目的に強化されたボディ構造のことを指します。駆動用に使われるリチウムイオン電池が燃えやすい特性があるため、もしものアクシデントから守るために、ボディ自体が強化されています。ボディを強化すると、余計な振動などが伝わりにくくなるため、音も伝えにくくなります。これが間接的に静かなクルマ作りにも貢献しているのです。
また意外なことに、EVのシートは、レザーよりもファブリックの方がおススメ。その理由は、素材の構造から布地の方が音や振動を吸収しやすいため。もちろん、車両全体で対策が施されるので、その差はわずかなものでしょう。ただそういうメリットもあるのも確かなのです。但し、愛車選びでは好みを優先させた方が満足度は高いでしょう。
EVは、エンジン車と比べて走行音自体は静かなので、低速域では、自らの存在を知らせるべく、疑似走行音を発しているほど。ですが、快適かつ静粛性の高いEVとするには、音の大小だけでなく、耳障りな周波数音の低減やカットも重要となります。これが構造的には静かなEVでも、様々な音対策が必要な理由なのです。
執筆者プロフィール:大音安弘(おおと やすひろ)

自動車ジャーナリストの大音安弘氏
1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。