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更新日:2021.11.22 / 掲載日:2021.08.13

車検不正問題のその先に【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第18回】

文●池田直渡 写真●ユニット・コンパス

 7月20日。トヨタモビリティ東京「レクサス高輪」で、565件の不正車検が発覚した。遡ること4ヶ月。今年3月にも同じくトヨタ系のネッツトヨタ愛知 プラザ豊橋で過去2年間に約5000件の不正が問題になった。

 この2件の不正そのものについては、トヨタは責任を持って対処するとともに、再発防止を徹底しなければならない。筆者としてはこの件についてトヨタをかばい立てする気は毛頭なく、責任はしっかり追及したい。

 さはさりとて、トヨタが悪いと糾弾して全てが解決するのかと言えばそれはそれで思考停止の感がある。車検制度そのものにも指摘すべき点は多々ある。日本という国は何かの制度が出来ると、その中身をアップデートできない。一度決まれば決めたまま、何十年でも同じルールを引っ張る。

車検制度は色々な意味で見直すべき時期にきている

 これだけ電動化が叫ばれており、EVはともかく、ハイブリッドの普及も相当な台数に及んでいるが、駆動用のモーターや走行用バッテリーに関する点検項目が新たに設けられることはなく、一方でライトの光軸の様な、今やほとんど検査が必要とも思えないことが重要項目に入っていたりする。車検制度は時代に応じてアップデートをすべき時期が来ている。

 遙か昔のライトは固定がいい加減で確かに光軸が狂うことはあった。しかしながら今のオートディマー(自動減光)や対向車を避けて配光するLEDライトは、簡単に光軸が狂えば、対向車にとって危なくて仕方がない。当然それらの固定にはかつてとは比べものにならない精度と確実性が持たされているのである。それらのシステムにとって、もはや光軸点検の意味は激減している。

 そういう意味で言えば、過半数のクルマとオーナーにとって、現在の車検制度は過剰整備を強いているとも考えられるのである。車検制度には現実に即した改革が必要だ。

 しかし、一部の事故車や、改造車、日頃極端に荒く使われたクルマをそれら普通のクルマと同列に扱っていいかどうかの問題もある。車検制度には整備不良に起因する事故を予防する効果は確かにあり、そういう危険なコンディションのクルマには、確実に整備を促さないと公共の安全が保てない。しかしながら、それら一部のクルマを基準にしてルールを決めると、大多数の善良なオーナードライバーに結局は金銭的なしわ寄せが行くことがジレンマになっている。

 そこで提案なのだが、車検が必要かどうかのスクリーニング検査を別途設けるのはどうだろうか? この検査は基本的に分解などの重整備を行わない安価な検査とし、代わりに毎年行う。プロの整備士であれば、クルマの管理状態などは実車をざっと見ればわかるはずで、この検査をパスした場合、例えば最長5年まで車検の間隔を延ばすことができるようにする。もし外観だけでどうしても判断がつかない微妙な状態であれば、スクリーニング検査のステージ2を設け、もう少し詳細にチェックするのでも良い。

 改革によって目指すのは、自動車ユーザーの車両維持費の低減である。整備業界にとって車検の間隔を間引きするのは、手痛い売り上げ損失になるだろうが、日本のクルマ保有に関わるコストは明らかに常軌を逸している。アメリカの31倍という数字からもそれは明らかだ。

 とにかく、クルマの所有コストを下げないと、この先クルマはますます売れなくなる。新車が売れなければ整備の仕事もなくなると考えれば、答えは自ずと出て来るはずだ。

 もちろん、自動車を巡る税制度などについてもこれを機に改革を進めなくてはならないだろう。もちろん基本方針は減税だが、税負担の公平性の維持も重要である。EVの普及が進めば、既存の燃料関連税と整合させる走行税なども考えなくてはならない。もちろん道路特定財源を一般財源から取り戻すことが絶対の前提だが、例えばスクリーニング検査の時に走行距離を届け出て課税する方法なども考えられる。

 ここに挙げた方法はあくまでも一例に過ぎないが、いずれにしても、車検制度をこのまま旧態依然としたシステムのまま惰性で継続している場合ではない。新しい技術に合わせた項目の増減、過剰整備による費用負担の排除と安全の確保の両立、自動車関連税の国際的に異常な負担の是正などやらなければならないことは沢山あるのだ。

今回のまとめ

・現行の車検項目においては、形骸化している内容がある
・車検項目はCASE時代の自動車に対応する内容アップデートが必要
・現行の車検制度を見直し、所有コストを削減する必要がある

執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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