車の最新技術
更新日:2021.11.26 / 掲載日:2021.08.20
義務化されるオートライト【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第19回】

文●石井昌道 写真●メルセデス・ベンツ、ユニット・コンパス
周囲が暗くなるとヘッドライトやテールライトが自動的に点灯し、明るくなると消灯するオートライトは、2020年4月から新型車への搭載が義務化。モデルチェンジの予定がない継続生産車も2021年10月からは義務化される。もう間もなく、日本で販売されるすべての新車にオートライトが装着されるわけだ。
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オートライトは、2020年4月から新型車への搭載が義務化。メルセデスのニューモデルでは、すでにヘッドライトをOFFにできないようになっている(写真はEQA)
警察庁が2013年から2017年の5年間の交通死亡事故発生状況を分析したところ、日没時刻の17時から19時に多く発生していること、薄暮時間帯(日没前後の1時間程度)に自動車と歩行者の事故が多いことなどがわかった。自動車と歩行者の事故の発生件数は昼間が167.7件、夜間が321.1件なのに対して薄暮は時間が短いにもかかわらず681.5件と突出している。この薄暮時の事故を防止するためにも、早めのヘッドライト点灯が推奨されてきたわけだが、オートライトの義務化はかなり有効だろうと推測できる。
オートライト自体は珍しいものではなく、すでに多くのクルマに搭載されているが、以前は基準がなかったため、メーカーや車種によって点灯・消灯のタイミングなどには違いがあった。欧州車はけっこう早めに点灯し、一度点灯したらなかなか消灯しないものが多い。それに対して日本車は周囲の明るさに忠実に点灯・消灯することが多く、たとえば昼間走行中、ごく短いトンネルなどでは一瞬だけ点灯してすぐに消灯。前走車のドライバーからみると「パッシングされた」と勘違いすることなどもあった。
だがそれも義務化によって統一される。周囲の明るさが1000ルクス未満になるとヘッドライト(ロービーム=すれ違い用前照灯)が点灯しなくてはならず応答時間は2秒未満。7000ルクス以上では消灯の義務があるが、応答時間は5秒以上300秒未満と長くとられている。1000ルクス以上7000ルクス未満はメーカーの判断に委ねられる。1000ルクス以上でも、ワイパー作動時には点灯させることで雨天時の被視認性を高めることなどができるわけだ。1000ルクスは薄暮時の早期ぐらいの明るさで、ヘッドライトを点灯しなくても問題なく運転できると感じるドライバーも少なくないだろう。だが、日が傾いているからビルなどの影になる箇所も多く、たとえ1000ルクス未満にならなくても被視認性が下がることも考えられる。道路交通法によるヘッドライトおよびテールライトの点灯義務は日没時から日出時の夜間だが、義務化対応のオートライト装着車はそれよりも幅広い時間帯で点灯することになる。
日本では古くから、ヘッドライトは必要なとき以外は点けないほうがいい、という考え方もあった。昼間時にトンネルで点灯し、その後に消灯し忘れていると対向車がパッシングで教えてくれるなんてことを体験した人も多いだろう。また、夜間の信号停止時に、対向車線のドライバーが眩しくないようにヘッドライトからポジションランプへ切り替える“思いやり消灯“なども美徳とされる。そこで日本独自の基準として、夜間走行時はヘッドライト(ロービーム)をドライバーの意志では消灯できないようになっているが、停止時はポジションランプに切り替え可能となっている。ただし、オートライト機能が働くAUTOがデフォルトであり、たとえ停止中にポジションランプに切り替えても、走り出せば自動的にAUTOに戻り、再点灯のし忘れを防止する。欧州車は走行中にポジションランプに切り替えることも可能だが、完全に消灯するOFFスイッチはそもそもない。
オートライトの義務化は欧州では2015年からと早かった。日本よりも緯度が高い欧州は薄暮時間帯が長く、とくに北欧の冬期などは一日中薄暗い。そこで昼間点灯が古くから奨励されており、2011年にはデイタイムライトが義務化された。ところが暗くなってもデイタイムライトがあれば運転できると思うドライバーもいたため、2015年にはオートライトが義務化されたという背景がある。
薄暮時の事故防止に効果が期待できるオートライトの義務化は喜ばしいところだが、完全に普及するまではまだ時間がかかる。ヘッドライトの早期点灯という意識は、全ドライバーが持ち続けるべきだろう。
執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。
【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!