車の最新技術
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.09.28
【Mercedes-EQ EQC】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場してきた。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのではないだろうか?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのはまだまだ難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。 今回フォーカスするのは、2030年までに全ラインナップをEV化する計画を検討しているメルセデス・ベンツが立ち上げた電動化ブランドである「メルセデス・EQ」から登場した初の量産EV「EQC」。100年を超える自動車の歴史の中でたびたび業界のスタンダードを打ち出してきた名門のEVは、果たしてどんな実力を秘めているのだろうか?
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メルセデス・EQ EQCのプロフィール

EQCはメルセデス・ベンツが手がけた初めての量産EVであり、先日、メルセデスが立ち上げたピュアEV向けのブランド“メルセデス・EQ”が誕生するきっかけになったモデルともいえる。
先頃メルセデス・ベンツは、「マーケットの状況が許すなら、2030年までにすべての車種をEV化する準備を進めている」との声明を発表したが、そうした壮大なビジョンを思い描けるのも、EQCを始めとするメルセデスEQの各車が優れた実力を備えているからにほかならない。
EQCは内燃機関を搭載するDセグメントSUV「GLC」をベースとするEVであり、プラットフォームはGLCのそれをEV仕様へとコンバートしたものを使用する。メルセデス・EQの最新モデルであるラージセダン「EQS」は、EV専用のプラットフォーム“EVA II”を採用しているが、同ブランドの量産EV第1号となったEQCの開発時点では、メルセデス・ベンツもEVに対して手探り状態だったことがうかがえる。
そんなEQCはメルセデス初のEVというだけあって、まさに同ブランドが秘めるEV技術のアドバルーン的な存在だ。例えばバッテリー容量は80kWhと大容量で、さらに前後アクスルにそれぞれ1基ずつ、高性能モーターを搭載した4WDレイアウト“4マチック”を採用。システムトータルの最高出力は408ps、最大トルクは78.0kgmという強心臓もあいまって、最高速度180km/h、0-100km/h加速5.1秒という駿足を披露する。
その分、車両重量は2520kgとヘビー級で、航続距離はWLTPモードで400kmにとどまるが、そうした実用面よりも、鋭い加速などモーター駆動車ならではの速さを強烈にアピールする。
EQCはGLCベースのEVとはいうものの、そのエクステリアデザインは全くの別物だ。同じクロスオーバーSUVということもあって一見、同じように見えるが、子細に見ていくと、フロントマスクや前後フェンダー、ドアパネル、リア回りなど、ボディパネルが巧みに作り分けられている。
また、後に続いた「EQA」、「EQB」、そしてEQSの先進性を感じさせるフロントマスクは、いずれもEQCに通じる仕立てであり、EQファミリーのルックスを形づくったのがEQCであったことがうかがえる。
一方のインテリアも、GLCに通じる雰囲気を感じられるが、じっくり観察するとEQCオリジナルの素材やデザインが随所に採り入れられていて、巧みに差別化されていることが分かる。また、メーターパネルを始めとするコックピット回りのデザインは、昨今のメルセデス各車と同様、先進性を感じさせる仕上げになっているが、メーターパネルやドライブコンピューターなどにはEVらしい機能や表示を盛り込んでいる。
メルセデス・ベンツは2022年から2030年までに、400億ユーロ以上の開発費をEVに投資すると発表しており、9月7日からドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティ2021」では、メルセデス・EQに加えて、メルセデス・AMGやメルセデス・マイバッハといった超高性能&超高級ブランドにもEVをラインナップしていく考えを明らかにした。
プレミアムEVのカテゴリーでは、アメリカのテスラがトレンドセッターともいうべきポジショニングを確保しているが、先行するテスラを打倒すべく、メルセデス・ベンツも急速にアクセルを踏み込んでいるようだ。
■グレード構成&価格
・「EQC400 4マチック」(895万円)
■電費データ
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:236Wh/km
>>>市街地モード:233Wh/km
>>>郊外モード:234Wh/km
>>>高速道路モード:237Wh/km
◎一充電走行距離
・WLTCモード:400km












同格のEV SUVと比較しても良好な電費データを披露

EVテストでメルセデス・ベンツ(メルセデス・EQ)を取り上げるのは2回目。日本導入となったのは今回のEQCのほうが早かったが、なるべく身近なモデルからテストしていこうということでEQAを先に行った。CセグメントのEQAはバッテリー容量66.5kWh、車両重量2030kg、1充電走行距離422km(WLTCモード)、1モーターのFWD、車両価格640万円からなのに対して、DセグメントのEQCは80kWh、2470kg、400km、2モーターの4MATIC(4WD)、895万円からとなる。車格があがり、パフォーマンスも高いが、電費としては軽量コンパクトなほうが有利であり、その差がどれぐらいなのかも見所だ。
高速道路での電費は、制限速度100km/h区間のその1が4.4km/kWh、その4が4.8km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が5.6km/kWh、その3が5.4km/kWh。同時テストをしたアウディe-tronスポーツバックに比べると、その1は5%良好、その4は4%良好、その2は同等、その3は10%良好だった。車両重量が90kgほど軽く、WLTCモード電費も3.8%上回っているので妥当なところだろう。その3は工事区間があり、ストップ&ゴーも発生するほど渋滞した区間もあったので、車両重量の影響がより大きくでたとみることができる。
以前にテストしたEQAの高速電費はその1が5.5km/h、その4が6km/h、その2が6.7km/h、その3が6.25km/hで、EQCに対して10-20%ほど良好だ。


車重からして順当なデータ。回生ブレーキでの充電量には着目すべきところも

日常生活ではあまりお目にかからない、けれども興味を惹かれる箱根ターンパイクの上りと下りの電費。日本でもここまで上り、および下りが連続するシーンは少なく、自動車メーカーもハイブリッドカー以上の電動車で、バッテリーの充電状態がどう変化するなどをテストしている。上りは当然電費がきつく、EQCは1.4km/kWh。e-tronスポーツバックは1.3km/kWh、EQAは1.7km/kWhというデータと比較して、やはり妥当な数値だ。メーターに表示されるバッテリー残量は68%から55%へ、航続可能距離はたった13kmしか走っていないのに293kmから203kmへと90km分も減ってしまうのだから、上りはやはり厳しい。
でも、上った分を下れば、回生によってある程度はエネルギーが返ってくるのがEVの嬉しいところだ。下り始める直前は39%だったバッテリー残量は約13kmの下りで43%に回復。航続可能距離は19km増えて182kmとなった。計算上は3.8kWhほど電力を取り戻したことになる。これまでテストしたなかで最良の部類であり、バッテリーの内部抵抗の少なさ、ツインモーターによる効率の良さなどが推測できるが、あくまで参考値としておきたい。

電費データから推測する後続可能距離は十分に実用的と言える

一般道の電費は4.0km/kWh。e-tronスポーツバックが4.1km/kWhだったことを考えれば、もう少し伸びても良さそうなものだが、同時テストとはいえ信号のタイミングなどでストップ&ゴーの回数や平均速度がかわってくるので、高速道路やワインディングロードほどデータは安定しない。WLTCモードの市街地が4.292km/kWhなので、十分に納得がいく電費だろう。EQAは5.0km/kWhで、やはり車両重量の差は正直に電費に出る。とはいえ、利便性を考えれば、4.0km/kWhの電費でも80kWhのバッテリー容量なら320km走れる計算であり、日本の都市部の平均速度は概ね20km/h程度なので、16時間も走り続けられることになる。そんなに走り続ける人はまずいないだろうから、一般道での利便性はたいていのEVで問題がないレベル。課題はやはり高速道路で、2時間程度=160〜200km程度は走り続けられるようなら実用的と言っていいだろう。

急速充電器テスト! 現時点では高速での長距離移動に課題があるが、充電器側の問題も大きい

今回のテストは事情によってスタート前に十分に充電できていなかったので、海老名サービスエリアの往路と復路でそれぞれ急速充電をした。スタート地点の東名高速・東京ICではバッテリー残量63%、航続可能距離272kmだったが、往路・海老名SAでは55%、231kmへ。出力40kWの充電器を30分使用して17.9kWh分を充電。メーター上では概ね35〜36kWで充電されていた。バッテリー残量は76%、航続可能距離は323kmとなった。
復路・海老名SAに到着したときは34%、151kmで、今度は90kWの充電器を30分使用して22.4kWh分を充電。45〜46kWは出力が出ていた。61%、261kmとなった。
現状では高速道路で用意される急速充電器は40〜50kWが多く、30分の上限だから20〜25kWしか充電できない(ロスがあるので実際には18〜23kW程度)。電費が4.0km/kWhだとすると距離にして72〜92km分でしかないので、1時間程度しか走り続けられないことになる。ただし、海老名SAのように90kWの急速充電器が普及し、車両側もそれに対応すれば2時間弱になり、そこそこ実用的だと言えるようになる。輸入車の多くはこれまでCHAdeMOには50kW程度の受け入れ能力しかなかったが、そもそもの能力は持っているので90kW以上対応にアップデートされれば、エンジン車から乗り換えても不便を感じないようになるはずだ。

メルセデス・EQ EQCはどんなEVだった?

メルセデス初の量産EVであるEQCは、エンジン車のGLCなどとプラットフォームを共有しているものの、最初から高い完成度を見せつけている。EV専用プラットフォームほど効率的ではないものの、最初からエンジン車のみならず電動化対応を考慮した設計になっているからだろう。乗り味は、高級で快適なメルセデスの名に恥じないものであり、モーターによる音・振動の少なさやトルキーな特性などによって、むしろエンジン車よりもメルセデスらしいといえるほどだ。高速道路では、現状の急速充電環境では30分で1時間程度の走行分しか充電できないものの、それ以外では十分な利便性を持っているといえる。家で満充電にしておけば、片道200km、往復400km程度のドライブならどこかで1度急速充電を入れれば事足りる。週末毎にゴルフ場に出かける人なんかでも、臆することなく相棒にできるはずだ。
メルセデス・EQ EQC 400 4MATIC AMGライン装着車(80kWh)
■全長×全幅×全高:4775×1925×1625mm
■ホイールベース:2875mm
■車両重量:2520kg
■バッテリー総電力量:80kWh
■モーター定格出力:145kW
■システム最高出力:408ps
■システム最大トルク:78.0kgm
■サスペンション前/後:ウィッシュボーン/マルチリンク
■ブレーキ前後:Vディスク
■タイヤ前/後:235/45R21/255/40R21
取材車オプション ■メーカーオプション:AMGライン、レザーエクスクルーシブパッケージ、ガラス・スライディングルーフ、メタリックペイント