車の最新技術
更新日:2021.12.24 / 掲載日:2021.10.01

尊敬されるメーカーになるためのトヨタの取り組み【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文と写真●池田直渡

 ここしばらく、環境問題ばかりが取り上げられるが、いつの時代であってもクルマの基本は「走る」「曲がる」「止まる」である。欧州の一部のクルマたちが長らくリスペクトされてきたのは、その部分で世界をリードする資質を見せつけ続けてきたからだ。

 トヨタはTNGAというクルマづくり改革の中で、優れた走行性能を大衆の手の届く価格でどうやって作るかを模索してきた。その取り組みのひとつであるGRファクトリーにおいて、トヨタは分かり易く言えばアルピナを作ろうとしている。ご存知の方も多いだろうが、アルピナとは、BMWをベースにしつつ、熟達したマイスターのハンドビルドによって、高精度組立を行い、BMWと言えども量産車ではなしえない性能に仕立てたクルマである。

トヨタGRファクトリーの真価は、高価な高性能車を量産しコストダウンする手法の確立にある

 それは簡単に言えば、設計図に対しどこまでもピュアに作られたクルマであり、大量生産のための精度的妥協を極力排除した末に成し遂げられる性能だ。そのためには数百もの同一部品の中から最も出来の良い部品を選んで、残りは処分することになる。残りを量産車に回すのか棄てるのかそれは状況によって様々だろうが。こうしたやり方を選別組み付けと言うが、これに加えて、組立そのものも後述するような特殊な手順で行われる。その代償として、素のBMWの数倍のプライスタグが下げられる。

 カテゴリーの高いモータースポーツの世界では、プロダクションカーのクラスであっても、ディーラーで売っている新車そのままでレースやラリーに参加することはあり得ない。一度バラバラに分解して、大量の部品の中から、前述した選別組立によって、丁寧に重量や寸法を揃えて、ハンドビルドで組み立てる。そんなことをする理由はただひとつ。そうしないと勝てないからだ。逆に言えば、モータースポーツの世界では勝つため、つまり「もっといいクルマ」を作るための「確立されたノウハウ」があるということでもある。ただし、競技用のフルオーダーならともかく、それによってディーラーで売るクルマの価格が数千万円になってしまってはトヨタのビジネススコープに収まらない。

GRファクトリーは、愛知県豊田市にあるトヨタ元町工場内に新設され、2020年から稼働を開始している

 それを解決したのがGRファクトリーである。高精度ハンドビルドと選別組立ての新手法を使って、クルマを高性能化するためには、流れ作業では無理だ。シャシーを高精度ジグの上に固定し、制止した状態で精度の高い組立を行わなければならない。そこでトヨタは全ての作業工程を、いくつかに分割し、分割された単位を、流れ作業ではなくセル方式にあらためた。セルでは、匠の技能工が精密組み付けを行い、セルでの工程を終えると、次の行程へと無人搬送車で運ぶという革新的なラインを構築した。ハンドビルドのリレー方式である。

 こうすることによって、従来のハンドビルドでは不可能だった、大型組み付け機械などの半自動機械を工程に設置できるようになり、技能工への作業負荷が減ると共に、作業速度が圧倒的に速くなった。もちろん絶対的な効率は量産用のコンベアラインには及ばないが、それでも従来の欧州的なハンドビルドとは桁が違う。つまりGRファクトリーでトヨタがトライしたのは、ハンドビルドの高速化であり、ローコスト化である。

 一般論として現代のハンドビルドと選別組立てはセットである。そこでは、従来、部品公差の中央値のものを選別して、使っていたが、先に書いた様に、それでは部品の無駄が多くなる。GRファクトリーでは、膨大な部品を精密に測定し、公差の相性を揃える。何も中央値でなくても良いのだ。大きいもの同士、小さいもの同士を組み合わせれば精度由来の性能はきっちり出せる。今時の公差管理であれば大きいセットと小さいセットで、例えば重量差は無視しうる。これによって無駄が排除でき、棄てる部品が大幅に減る。だからコストが下がる。

 さらに各セルの工程では、工程の自己完結が徹底される。レーザーによる3次元計測とカメラの画像分析による組み付けチェックを行って、その作業の精密性と正確性を確保する。サスペンションも、組み付け時に一度地面に下ろして、1Gの荷重を掛けて締め付けを行う1G締め付けを採用する。

 こういう手間を掛けた組立てのタクトタイムをトヨタは9分と発表している。トヨタの量産ベルトコンベアラインの場合、車種にもよるが2~3分で生産している。量産ラインの3~4倍も時間が掛かっていることになる。

 別角度からも検証してみよう。GRファクトリーの日産台数は104台。アルピナの年産台数から計算した日産台数は7台。しかもその7台にはステッカーとホイールだけを装着したコスメティック仕様も含まれる。少なくとも15倍以上、本格的ハンドメイドに対してはおそらくは30倍以上の効率で作っていることになる。

 こういう組立をやった結果、トヨタの契約レーシングドライバーが乗っても、車両の個体差が判別できないほど高次元に性能の粒が揃った。黙ってクルマを差し替えられたら気付かないそうである。

 ちょっとしたインプレでも書こうと思ったが、野暮過ぎるので止める。こういう作り方をされた特別モデルが良いのは、クルマ趣味の経験が長い人ほど疑わないだろう。実際そういうものになっている。

 しかしホントにスゴいのはそうやって作られるGRヤリスの価格である。一番高いRZ“High performance”で456万円。それが現代のランチア・ストラトスの値段だと思ったらどうだろうか? バーゲンと言わずして何と言う。トルセンタイプのLSDとウォータースプレー式インタークーラー冷却システムを備える。全部盛りの一番羨ましがられるヤツだ。

 その下にLSDとウォータースプレー無しのRZがあり、こちらは396万円。センターデフが悪さしない分、ハンドリングはこちらの方が素直。競技に出ない前提で、実を取るならこっちがベターだと思うが、それは人目に左右されない大人の選択を求められる。一番高いヤツじゃないということを気に病むくらいなら上のモデルを買った方が良い。

 強烈にスゴいのは、一番安い265万円のRS。ターボ無しの1.5リッター3気筒で、CVTだし、AWDですらないが、高精度手組みのクルマが265万円。言い過ぎを承知で言えば、アルピナが265万円ということでもある。

 ことの次いでに普通のヤリスの価格はどうかと言えば、一番装備の良いZグレードのハイブリッドだと、FFモデルが232.4万円、E-Fourが252.2万円なので、差額の少なさに驚くことになる。

 現時点では、GRファクトリーから生み出されるのはGRヤリスだけだが、同じ手法は、当然他のクルマにも生かせる。そうした車種が拡充していくことになれば、われわれの過去の常識を覆し「ハンドリングカーと言えばトヨタ」というリスペクトを集める様になるかもしれない。安くて壊れず、耐久消費財として高品質というだけじゃない価値をトヨタは新たにそのブランド価値に加えようとしているのだ。

今回のまとめ

・世界で認められるメーカーは、「走る、曲がる、止まる」といったクルマの基礎体力が高い

・高コストでしかなしえなかった高性能を、GRファクトリーでは生産技術の「カイゼン」でクリア

・現時点で生産しているのはGRヤリスのみだが、今後他車種への展開も期待される

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執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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