新型車比較・ライバル車対決
更新日:2024.06.05 / 掲載日:2024.06.04

レクサスLM vs アルファード《プレミアムミニバン頂上決戦》

一度は体感したい“極楽空間移動”『ミニバン頂上決戦』

世界最高峰のミニバンを目指して開発されたレクサスLM。ラウンジ仕立ての贅沢なキャビン空間に加えて、2000万円のプライスが付いたことでも話題を集めているが、やはり気になるのはトヨタ・アルファードとの関係だ。プレミアムミニバンを求めるならば、アルファードで十分なのか? それとも頑張ってLMなのだろうか?

●文:川島 茂夫 ●写真:奥隅 圭之

LEXUS LM(ラグジュアリー・ムーバー) VS TOYOTA アルファード

単なる豪華仕様にあらず
レクサス流の工夫が一杯

 レクサスLMは、アルファード&ヴェルファイアをベースにVIPカー用途を強めたモデルだが、言葉以上にいろいろなところに手が加わっているというのが、率直な感想。単に化粧直しを施したモデルではない。
 後述する内装周りの加飾や装備でも違いは明らかだが、パワートレーン&シャシーの設定も異なっている。LMは2・4ℓターボをベースとしたパラレル式ハイブリッドに、最新のeAxleを用いた新四輪駆動力システム「DIRECT4」を採用しているが、この駆動システムはクラウン・クロスオーバーRS系に準じたものであり、さらに若干ながらエンジンもモーターも最高出力が向上している。さらにサスペンションも、周波数感応バルブを用いた電子制御ダンパーのAVSを装着。アル&ヴェルは、アルファードのエクゼクティブラウンジに周波数感応型ダンパーを採用しているがAVSではない。つまり、パワートレーンも足回りも、アル&ヴェルの上位仕様になっているのだ。

約1000万円の価格差
意味や意義はあるけど
……
 今回借り出したLMの価格は2000万円。比較車として用意したアルファードは、FFのエクゼクティブラウンジで850万円。なお、シリーズ最高価格となるE-Four車でも872万円だ。後席用の超大型ディスプレイや冷蔵庫など、LMならではの豪華なおもてなし装備を省いた実質的な価格差は1000万円くらいと推定できる。この2モデルを比べた時、LMにそれだけの価値があるのか? というのが、多くのユーザーが思うことだろう。
 結論から先に述べてしまえば、一般的な価値感として1000万円分の上乗せは感じにくい。アルファードのエクゼクティブラウンジは、国産屈指の贅沢さが宿るプレミアムミニバンだが、LMはその価値観の上をいく、超贅沢なラグジュアリーミニバン。アル&ヴェルとは、クルマとしての目的やモノサシの基準が違っている。
 LMの主用途として想定されているのは、世界中のVIPを送迎するショーファードリブンとしての役割。後席の快適性とホスピタリティに多くのリソースが割かれている。
 その象徴ともいえるのが後席のキャビンスペースで、シートの基本機能こそアルファードのエクゼクティブラウンジシートと大差ないが、サードシートを取り外し、フロントシートとの間にはパーティションを置くことによって生み出された空間の専有感は格別だ。パーティションのウインドウを閉めれば、前席のオーディオやナビの案内などの音が大幅減、良識的な音量レベルならほぼ聞こえてこない。

静粛性追求の恩恵は
走りでもアドバンテージ

 この静かさはドライバーの立場でも実感できる。エンジン出力に余裕があることも利いているのだろうが、加速中のエンジン音は穏やかで、かつ変速制御も低い回転域で巧みにこなしてくれる。280PS近い最高出力を持つターボとは思えないほど静粛性に優れている。
 さらに加速性能も2.5t近い車両重量をまったく意識させない。加減速の反応はペダル操作に従順で、踏み込み時の応答遅れはほとんどない。加速の増減もとても滑らかで、同乗者にも優しいタイプに仕上がっている。この良質な出力特性はアルファードも同傾向だが、地力はLMの方が明らかに上手。ドライブフィールも余力感も勝っている。
 フットワークの傾向も同様。特にAVSのリヤコンフォートモードのまとめ方が上手い。初期回頭と旋回力(横G)が穏やかに推移する特性はアルファードと共通だが、その動きがさらに滑らか。刺激の少なさや、居心地の良さはアルファード以上だ。
 ハンドリングのコントロール感も小気味よさは薄めだが、補正操舵少なく的確なライントレースが可能。大柄なボディをあまり意識させない運転ストレスの少ないタイプ。この特性は後席乗員に横Gや揺れを少なく感じさせる特性も兼ねている。LMと比べると相対的にアルファードが忙しなく感じられたが、これは「上等」と「特上」の違いのようなものだ。
 他にも前席床面やステアリングに伝わる微振動もLMの方が少ない。細かな部分でも、アルファードから向上している部分を多く感じることができる。
 後席周りの快適性だけではなく、ドライバーの立場でもLMが上位に位置するのは、乗ればすぐに分かる。アルファードも静かで運転ストレスの少ない走りを持ち、ミニバン系の頂点クラスとして納得もできる実力を持つが、LMはその世界をさらに飛び越えている。

LEXUS LM

運転席との境界をくっきり仕切るパーティションの下には、ドリンクを冷やせる冷蔵庫がインストールされる。
ラゲッジは、サードシートを取り払ったことで、十分な広さを確保。セカンドシートも気兼ねなく倒せる、余裕の広さの源にもなっている。

圧倒的な静粛性と運転感覚
最高峰のミニバンは伊達じゃない
後 席乗員のストレスを減らすために、刺激や雑味を拭い去る工夫が効果的。キャビン静粛性はセダン系のショーファードリブンモデルに遜色ないレベルに仕上がっている。コーナリングや車線変更時の挙動や横Gの変化も、自然体で受け入れられる。ドライバーにとっては操る手応えの少なめな走行特性だが、これはショーファードリブンとすれば正しい味付け。運転ストレスの少ない洗練された走りは、前後席どちらでも高い満足度を得られるだろう。

LMもハイブリッド車だが、ベースエンジンがターボとなり、モーター駆動力の利かせ方もアルファードとは異なる。駆動方式もAWDのみ。

TOYOTA アルファード

LMとはコンソールのメインモニターや加飾処理が異なるが、こちらも贅沢な素材がふんだんに使われる。国産ミニバンの頂点にふさわしい仕上がりだ。
サードシートが本格的な造りゆえに、格納時の出っ張り具合が邪魔に感じてしまう。ラゲッジはLMと大きな違いを感じてしまう部分。

LMほどの凄みはないが
実質ナンバー1は揺るがない

LMと比較すると操縦感覚や乗り心地の落ち着き感に違いを感じるが、ロールの抑制やラインコントロールに優れており、高い全高や高重心高のハンデをまったく感じさせない。加速時のエンジン回転数上昇は多少気になったが、静粛性はプレミアムと呼ぶに十分なレベル。さらに燃費も優等生で、全方位的に高水準で纏まっている。多人数で快適なドライブを楽しむなら最適なモデルなのは間違いなく、実質的にライバル不在の状況も納得できる。

アルファードハイブリッドは、2.5ℓ直4エンジンにモーターを組み込むシリーズパラレル式を採用。FFとE-Four(4WD)を選択できる。

LM VS アルファード《結論》

LMは孤高の存在。アル&ヴェルの地位はいささかも揺るがない

 ミニバンの魅力のひとつは、空間の共有感を持てることだ。ひとつの天井の下で、他席に乗る乗員の存在を意識でき、かつ同じ空間で感動を共有し、会話を楽しめるのはミニバンの醍醐味といえる。
 アル&ヴェルも、セカンドシートを武器にしていることもあって、シート自体の座り心地や機能面に圧倒的な違いはないが、キャビンの居心地はLMとアル&ヴェルで大きな違いがある。まず、LMの前後席に空間の共有感はほとんどない。天井も側面もセパレーションによって分断される。前席の気配はヘッドレストの背面くらいのものであり、ドライバーとの心情的距離が遠い。感動の共有も最低限でしかなく、ちょっと寂しい気分になってしまう。
 もちろん、完全なパーソナルスペースの確立がLMの後席の狙いであり、小窓を閉め視界を閉ざして気兼ねなく空間と時間を楽しむには最適な解答といえる。圧倒的に広いキャビンスペースを利したショーファードリブンの資質は、従来のセダン以上といってもいい。
 率直にいってLMの優れた運転感覚は、ドライバーにとっても最優秀のミニバンになりうるが、ミニバン本来の「みんなで楽しく」狙いならば、価格も含めたバランスの良さを持つアル&ヴェルの方が優れている。LMはショーファードリブンを必要としている、特別なユーザーのためのモデルだ。

LM&アルファード主要諸元

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内外出版/月刊自家用車

ライタープロフィール

内外出版/月刊自家用車

オーナードライバーに密着したクルマとクルマ社会の話題を満載した自動車専門誌として1959年1月に創刊。創刊当時の編集方針である、ユーザー密着型の自動車バイヤーズガイドという立ち位置を変えず現在も刊行を続けている。毎月デビューする数多くの新車を豊富なページ数で紹介し、充実した値引き情報とともに購入指南を行うのも月刊自家用車ならではだ。

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