新型車比較・ライバル車対決
更新日:2020.08.31 / 掲載日:2020.08.31
NISSAN キックス vs ライバル 比較研究

軽自動車以外では3年ぶりとなる日産のニューモデル、「キックス」が正式発表! 海外では’16年から販売されているグローバルモデルだが、日本仕様はe-POWER搭載車のみで、プロパイロットをはじめとする先進装備も満載。ハイブリッドやディーゼルといった上級パワートレーンを搭載するライバルと見くらべつつ、その資質を明らかにしていこう。
ノートに続け!! e-POWERはコンパクトSUVでもトップを狙えるのか!?
NISSAN キックス【e-POWER】
●発売日:6月30日 ●価格:275万9900~86万9900円
出し惜しみなし! 日産の切り札を標準搭載

ライバルの多いコンパクトクラスのクロスオーバーSUVカテゴリーに、XとXツートーンインテリアエディションのシンプルな2グレード展開で挑む。FFのみという設定からもわかる通り、悪路ではなく都会が似合うプレミアムコンパクトカーが本質であり、そこにe-POWERとプロパイロットという日産自慢の技術を搭載。ノート e-POWERを上回る成功を期待したいところだ。
■主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):4290×1760×1610●ホイールベース(mm):2620●車両重量(kg):1350 ●パワーユニット:交流同期モーター(95kW/260N・m) ●発電用エンジン:1198cc直3DOHC(82PS/10.5kg・m) ●トランスミッション: ●使用燃料・タンク容量(L):レギュラーガソリン・41 ●WLTCモード総合燃費:21.6km/L
ボディカラー
ボディカラー
※1は8万2500円高、※2は5万5000円高、※3は7万1500円高、※4は3万8500円高、※5は4万9500円高。
【ライバル】《上級パワートレーン搭載》コンパクトSUV軍団
TOYOTA C-HR(ハイブリッド)【THS II】
●発表年月(最新改良):16年12月(19年10月)
●価格:273万~309万5000円
都会派のハートをわしづかみ
スタイリッシュなスペシャリティ系クロスオーバーSUV。都会的な暮らしにフォーカスしたキャラクターでベストセラーの常連に。TNGAに基づく新世代のアーキテクチャーを採用し、現行プリウス譲りの1.8Lハイブリッドのほか、1.2Lターボもラインナップする。
■主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):4385ー4390×1795×1550●ホイールベース(mm):2640 ●車両重量(kg):1440ー1450 ●パワーユニット:1797cc直4DOHC(98PS/14.5kg・m)+交流同期モーター(53kW/163N・m) ●トランスミッション:電気式無段変速機 ●使用燃料:レギュラーガソリン ●WLTCモード総合燃費:25.0ー25.8km/L
HONDA ヴェゼル(ハイブリッド)【i-DCD】
●発表年月(最新改良)13年12月(18年2月)
●価格:250万5555~298万186円
先代フィット系の万能選手
1.5Lのガソリン/ハイブリッドを搭載してデビュー。先代フィットのメカニズムと使い勝手を受け継ぐ万能型クロスオーバーで、ハイブリッド車は1モーターパラレル式のi-DCDを採用し、4WDも設定。なお、’19年1月には1.5Lターボも追加されている。
■主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):4330ー4340×1770ー1790×1605 ●ホイールベース(mm):2610 ●車両重量(kg):1270ー1390●パワーユニット:1496cc直4DOHC直噴(132PS/15.9kg・m)+交流同期モーター(22kW/160N・m)●トランスミッション:7速DCT ●使用燃料:レギュラーガソリン ●WLTCモード総合燃費:21.6ー27.0km/L
MAZDA CX-3(ディーゼル)【SKYACTIV-D】
●発表年月(最新改良)15年2月(20年5月)
●価格:249万2600~41万5800円
独自路線で“プレミアム”を追求
現在は1.5Lガソリン車もあるが、デビュー時は1.5Lディーゼル車のみだった。クラス唯一となるディーゼルエンジンは、その後1.8Lに排気量を拡大し、プレミアムなキャラクターにふさわしい走りを提供。他車にはないCX-3ならではの魅力を打ち出している。
■主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):4275×1765×1550●ホイールベース(mm):2570 ●車両重量(kg):1270ー1340●パワーユニット:1756cc直4DOHC直噴ディーゼルターボ(116PS/27.5kg・m) ●トランスミッション:6速AT ●使用燃料:軽油●WLTCモード総合燃費:19.0ー23.2km/L
現実的用途に対処しつつ 独特な“電動感覚”をプラス

ひと昔前のSUVのモノサシで測ればキックスは中途半端な存在である。4WD車の設定はなく、最低地上高は170mmであり、本格オフロード走行は厳しい。オンロード主体にプラスα程度の悪路対応力を付与されたモデルと考えるべき。とはいえ多様化の進むSUVの中にあっては珍しい存在ではない。人気のCHRはガソリン車にのみ4WDを設定するが、それとて最低地上高は最大でも155mm。悪路走破が前提のモデルではなく、SUVをモチーフにしたスポーツ&スペシャリティの演出に魅力がある。
キックスには、ジューク後継としてのスペシャリティSUV、ノートから発展した実用面での適応用途拡大モデルの二つの側面が見て取れる。拡大したキャビンスペース、拡大した最低地上高と車体前後端のデザインで悪路対応力が向上し、ノートでは荷が重いレジャー用途へと適応範囲を拡大。コンパクトカーの手頃さをそのままにちょっとアウトドア趣味が楽しめるというのがミソである。
こういった志向ではヴェゼルが巧みなまとまりだが、ハイブリッド車同士で比較すると1・5Lベースのパラレル式では余力や走りの先進感を求めるには物足りない。電動の特徴を最大限に活かしたシリーズ式のePOWERの瞬発力や1ペダルドライブは内燃機車では味わい難く、惚れてしまうと替えが利かないタイプである。
対CX3では、パワートレーンやシャシーの高速ツアラーとしての資質はCX3が勝るだろう。ただし、キャビンユーティリティや運転支援機能が泣き所。また、ディーゼルは極めてトルクフルだが、ドライブフィールの先進感という意味での魅力は薄い。
各車各様ではあるが、キックスはライバル車の得意分野から見れば中途半端な感があっても、そのカバーレンジは意外と現実的である。SUVに固執することなくコンパクト2BOX車も含めて比較してみると、キックスのポジショニングの妙味が見えてくる。
【比較1】エクステリア&インテリア
キックスは比較的カジュアル志向だ

ルーフスポイラーを設定するなどスポーティキャラを出しているが、キックスのプロポーションは実用志向。インテリアもケレン味なくまとまっている。ただ、全体的にカジュアルな印象であり、同じようにスペシャリティ感覚と実用性を両立したヴェゼルのほうが、クーペルックにしてもインパネ周りのデザインにしても今風プレミアム志向に沿った印象だ。スペシャリティ志向の強さという点ではC-HRが目を引く。車体寸法もひと回り大きく、実用面の犠牲があってこそのスタイルとも言え、コックピット周りもスポーティカー的だ。CX-3は内外装ともにマツダデザインのセオリーに沿った仕立て。新味は減ったがシックなプレミアム感が見所だ。
キックス

ビビッドなカラーが似合う、カジュアルで若々しいエクステリア。ダブルVモーションメッキを配したグリルが目を引く。塊感のあるフォルムや前後フェンダーの張り出しなどにより、力強いプロポーションを形成している。
2グレードともに同じ205/55R17+アルミホイールを標準装着。
灯火類は前後ともにフルLEDを採用。フロントは薄型のシャープなデザイン
リヤは立体感のある造型で、先進感と力強さを表現。

写真はツートーンインテリア。インストルメントパネルのソフトパッドなど、インテリアの各部に効果的にステッチを施して高級感を演出。オーディオレスが標準で、ナビはディーラーオプションで用意される。
シートは合皮/織物コンビ(写真)またはブラックの合皮となる。
C-HR(ハイブリッド)
これまでのSUVらしさにこだわらず、内外装ともに都会的でスタイリッシュなスポーティ路線でまとめられ、独自の個性を表現。
ヴェゼル(ハイブリッド)
使い勝手を犠牲にしないボディフォルムに、先代フィットの面影もあるインテリア。ドレスアップよりも機能性や快適性が主眼だ。
CX-3(ディーゼル)
魂動デザインの流麗なフォルムに上質な家具を思わせるインテリアなど、マツダは車体サイズを問わずプレミアム感の追求を徹底。
【比較2】ラゲッジ& ユーティリティ
キックス
CX-3
ヴェゼル
C-HR
機能のヴェゼル、 容量のキックス
多彩な機能で多様な積載性、の筆頭はヴェゼル。ヴェゼルに比べるとキックスの後席機能はシンプル。後席格納は単純な不等分割可倒式だ。ただ、荷室高などの寸法的なゆとりで実用性を向上。コンパクトSUVではトップクラスの荷室容量である。C-HRもCX-3も荷室の平面寸法では見劣りしないものの、C-HRは荷室高と積降性が、CX-3は奥行きが泣き所。なお、両車とも後席格納はキックスと同様に不等分割可倒式である。
【比較3】パワー トレーン
キックス
【FF】【129PS】<ノートe-POWERから出力20%UP【21.6km/L(WLTC)】ノートやセレナで好評を得ているシリーズ式ハイブリッド「e-POWER」をブラッシュアップして搭載。効率を高め、パフォーマンスも向上させている。
CX-3(ディーゼル)
【FF/4WD】【116PS】【19.0~23.2km/L(WLTC)】4車中唯一、MTを設定。キックスのモーター以上の最大トルクはディーゼルならではだ。
ヴェゼル(ハイブリッド)
【FF/4WD】【152PS】(システム)【21.6~27.0km/L(WLTC)】ハイブリッド車にも電子制御式4WDを設定。発売時期の関係で発表燃費はJC08モードのみ。
C-HR(ハイブリッド)
【FF】【122PS】(システム)【25.0~25.8km/L(WLTC)】トヨタのお家芸であるハイブリッドシステム・THS2は信頼性・洗練度ともに孤高の存在だ。
キックスは電気自動車(EV)そのもの
CX-3は、ディーゼルを採用していることを除けば、パワートレーンの基本構成は内燃機車の標準。ただ、同クラスでは少数派となる遊星ギヤ式ATを奢っているのも見所である。他の3車はいずれもハイブリッドを採用するが、システムは“三車三様”である。キックスはエンジンを発電機として用い、電動モーターで駆動するシリーズ式、ヴェゼルはエンジン/ミッションをメインに電動モーターによる駆動回生を補助的に行うパラレル式、C-HRはシリーズ式とパラレル式の特徴を融合させたスプリット式を採用する。キックスの駆動系は電気自動車と共通であり、構造的に最も電気自動車に近い。なお、高速巡航においては、内燃機車は効率が向上するため、電気自動車に対して有利となる傾向がある。

【比較4】安全・運転支援機能
プロパイロット搭載のキックスがリード
ACC(追従式クルコン)は4車とも採用しているが、キックスとC-HR、CX-3(AT車)は前車追従時に停車までサポートする全車速型、ヴェゼルは作動速度域30km/h以上の高速対応型となる。LKA(車線維持支援)はCX-3が逸脱警報までで、他の3車は操舵支援機能を備えるが、C-HRが逸脱予防支援に止まるのに対してキックスとヴェゼルは走行ライン維持支援制御も備わっている。なお、ACCはCX-3がプロアクティブ以上に設定、他の3車は全車標準装備。隣接車線走行車を検知/警告するBSMは高速走行での支援機能として有用性が高いが、CX-3が全車標準装備、C-HRはG系に標準。キックスとヴェゼルは非採用だ。駐車場等で後方交差路の接近車両を検知するRCTAはC-HRとCX-3が採用。また、衝突時にエアバッグと連動して自動発信を行うSOSコールはキックスとC-HRが採用している。BSMが気になるものの、車格を考えればキックスの安全&運転支援機能は最新モデルらしい先進性がある。
キックス(プロパイロット)
日本仕様にのみ、高速道路同一車線走行支援技術「プロパイロット」を設定。しかも標準装備だ。ほかにも踏み間違い衝突防止アシスト機能などの先進安全機能も備えている。
■インテリジェント トレースコントロール
4輪のブレーキを制御することで、状況に応じた安定した走行をサポートする。
■インテリジェント エマージェンシーブレーキ
前方の車両や人を検知し、表示とブザーによる警告や緊急ブレーキの作動を行う。
■インテリジェント アラウンド ビューモニター(移動物検知機能付)
見下ろし映像をナビ画面やルームミラーに表示。移動物の警報機能もある。メーカーオプション。
■踏み間違い衝突防止 アシスト
ペダルの踏み間違いを判定し、エンジンやブレーキを制御。ガラスや人も対象だ。
■インテリジェント ルームミラー
カメラの映像を利用して後席や荷室の状況に関わらず後方視界を確保。メーカーOP。
■ハイビームアシスト
先行車や対向車、周辺の明るさに合わせ、ハイビームとロービームを自動で切り替える。
■SOSコール
万一の際に専門オペレーターを呼び出す。標準装備だが、利用開始には申込みが必要。
CX-3(プロアクティブ セーフティ)
危険発生時の支援以前に、危険な状況を未然に回避する思想に基づき、特にドライバーの認知支援を積極展開しているのが特徴だ。
C-HR(トヨタセーフティセンス)
16年時点の機能が基本で、操舵支援付きの最新版ではない。19年の改良でインテリジェントクリアランスソナーなどがOP選択可能に。
ヴェゼル(ホンダセンシング)
16年から設定、18年に歩行者事故低減ステアリングなど機能を拡充&標準装備化。ブレーキ制御で挙動を修正するアジャイルハンドリングアシストも備える。
●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久