輸入車
更新日:2022.12.26 / 掲載日:2022.12.21

【EQS 53 4MATIC+】12気筒サウンドまでを再現した内燃機関的な乗り味

文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス

 SUVはもはや流行りでなく定番と化している。それを証拠に各メーカーはラインナップを拡大中だ。メルセデス・ベンツあたりはいい例だろう。AクラスからSクラスまでをなぞるように、GLAからGLSまでフルラインナップを構築した。

 そんな彼らが新たな展開を進めているのが、EVモデルのフルラインナップ化。電気自動車であることを意味する“EQ”の文字をつけたモデルは、EQC、EQB、EQAとコンパクトカテゴリーを充実させてから、EQE、そしてEQSの発表に至った。まさにAクラスからSクラスまでのEV版である。

メルセデスにとって初のEV専用プラットフォームを採用

EQS 53 4MATIC+

 そしてそのフラッグシップとなるのがEQSだ。EQCやEQBがCクラスやBクラスをベースにしているのとは違って、“電気のSクラス”は初めてEV専用プラットフォームでつくられた。理由は簡単。このクラスのカスタマーを満足させるには、それなりのパフォーマンスを要するからだ。効率よくバッテリーを積むには専用設計のメリットは大きい。

 それにこのクラスともなれば見た目の存在感も大切。既存のモデルをEQマスクにしただけではユーザーに納得してもらえないのだ。より本格的なEVならではの新しい価値観を提案しなければ手に取ってもらえない。なんたってスタートプライスは1500万円オーバー。相手はクルマを熟知した大人となる。

 ということで、EQSのパッケージはSクラスとは違う。フロントピラーを前方に置くキャブフォワードを採用する。そしてリアには開口部の広いハッチ。フォーマルなスリーボックスではないツーボックスタイプとなる。ただメルセデスが主張する「Sensual Purity(官能的純粋)」は継承される。ゆったりした面構成でつなぎ目のないシームレスさが特徴だ。

 結果、空気抵抗値0.20という驚異的な数値が生まれた。これまでいろいろなクルマのスペックを見てきたが、こんな数値記憶にない。フロントを低くしルーフをどんなになだらかにしてもやすやすと達成できるものではないはずだ。

EQS 53 4MATIC+

3枚の高精細パネルを1枚のガラスでカバーした特徴的なインテリア

EQS 53 4MATIC+

 そんなボディの運転席に座ると目の前が広く感じる。ボンネットが低いので視野が広がるのだ。フロントにエンジンを積まないメリットがここにある。ダッシュパネルも個性的。3枚の高精細パネルを一枚のガラスで覆うワイドスクリーンがそうで、センターにあるPC画面サイズのモニターはとにかく大きい。初めてテスラモデルSに乗った時以来の衝撃だ。しかも運転席正面とセンターだけでなく、助手席正面にもモニターが付く。鮮明でクリアな画面を実現するためここには有機ELが採用された。操作はタッチ、音声、指定のジェスチャーにより行える。

 シートは輪郭に沿って照明付きパイピングが施されていて、夜間走行時には光らせることができる。かなり妖艶な雰囲気になるのは間違いない。乗車定員は5名。試乗車にはパノラミックスライディングルーフが標準装備されていた。フロントだけでなくリア側にも太陽の光を取り入れる大きなガラスルーフがあるのはグッドだ。リアにはハイエンドでありながら2ボックススタイルにすることで大きなハッチドアが取り付けられる。開口部は広く、リアシートまで畳めば相当なスペースとなる。

 充電は自宅で出来る普通充電と日本規格に合った急速充電に対応する。日本では50kWあたりが高速道路SAでよく見かけるが、近頃150kWもにわかに増えている。前者であれば30分の充電で10%が29%になるところ、後者だと同時間で10%が59%になるというから魅力的。EVの利便性が高まってきた。

内燃機関のフィーリングを完全に再現した走り味

EQS 53 4MATIC+

 では走りについてだが、試乗車はEQS53 4MATIC+だった。最高出力は658ps、RACE START時は761psを発揮する。で、これには終始驚かされっぱなし。スタートしてしばらくするとこのクルマがEVであることを完全に忘れさせる。理由はアクセルに対する走りのレスポンス、つまり、トルクの出方、フィーリング、クルマの挙動すべてが内燃機関のような反応でまったく違和感がないからだ。どこかがクイックすぎるわけではなく、操作に対しリニアなレスポンスが終始行われる。これまで「ガソリン車から乗り換えて違和感がないように仕上げました」、という言葉を色々なメーカーのEV開発陣から聞いたが、そのレベルではない。このクルマこそ、それなのだ。

 また、精緻に作られたエンジンサウンドもそう。アクセルを踏み込むと腹の底から響くような12気筒サウンドが耳に到達する。これには心の底から驚かされた。EVでここまで内燃機関のようなフィーリングを出させたら、他のメーカーは手も足も出ないだろう。

というのが今回のインプレッション。EQBとEQAの走りはいわゆるEV的だが、EQSの仕上がりはまったく別。これを知ると、EV時代の幕開けもまたメルセデスが中心なのかもと思わずにいられない。

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九島辰也(くしま たつや)

ライタープロフィール

九島辰也(くしま たつや)

外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの”サーフ&ターフ”。 東京・自由が丘出身。

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外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの”サーフ&ターフ”。 東京・自由が丘出身。

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