新車試乗レポート
更新日:2022.06.21 / 掲載日:2022.06.21
【試乗レポート 日産 キャラバン】新ディーゼルエンジン搭載で何が変わったのか

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
営業や配送、職人の相棒として活躍するワンボックスとしてお馴染みのキャラバン。現行型は、2012年10月のフルモデルチェンジの際、名称を「NV350キャラバン」に改めているが、2021年10月の改良から「NV350」のサブネームが外れ、再びシンプルに「キャラバン」を名乗るようになった。その際に登場したのは、ガソリン仕様のみ。2022年2月28日に、待望のクリーンディーゼル車を追加。エンジン以外の改良点は、ガソリン車と同じ内容で、フェイスリフトによるスタイリングのリニューアルや先進安全機能の強化による全車「サポカーSワイド」化、7速ATの搭載などを行っている。クリーンディーゼル車の最大のトピックは、新エンジンの搭載だ。
新エンジンはパワーはほぼそのままに燃費改善



長く日産で使われている2.5L直列4気筒DOHCターボから、新開発の2.4L直列4気筒DOHCターボに変更。100㏄小さくなっているが、最高出力は3psアップの132psに、最大トルクは14Nmアップの370Nmに強化されている。しかし、違いはそれだけに留まらない。環境性能の向上させるため、AdBlueを使用する尿素SCRシステムを搭載。トランスミッションもガソリン車同様、5速から7速に多段化。これらの相乗効果で、燃費消費率にも有益で11.3km/L(WLTC)まで向上されたのは朗報のひとつだ。実は、この新エンジンは三菱自動車工業製で、二社のアライアンスの強みが活かされたもの。ただ排気量からも分かるように、デリカD5などの乗用車に搭載されるエンジンやトライトンなどの海外向けモデルに搭載されるものとも異なり、現時点ではキャラバン専用品となっている。
以前は、ビジネスカーのレポートを行う機会は限定的だったが、近年、車中泊やキャンプブームの影響もあり、永遠の宿敵トヨタ ハイエースと共に、一般ユーザーからの注目度が高まっている。そんな個人ユーザーを意識したキャラバン バンモデルの最上級仕様が、今回の試乗車である「グランドプレミアムGX」だ。もっともバンが故、エルグランドのように豪華絢爛とはいかないが、LEDヘッドライト、インテリジェントキー及びスタートボタン、4スピーカー、オートエアコン、リヤクーラー&リヤヒーター、セカンドシートの分割可倒式機能、スライドドア&バックドアオートクロージャー、助手席側後部パワースライドドアなど、乗用車感覚で使える機能を備えている。
エクステリアは、改良でフロントマスクの力強さが増したものの、傾斜の強いフロントスクリーンやボディサイドのキャラクターラインなど曲線を多用することで、ビジネスカーで感じがちの無機質さも薄く、表情も豊か。動物で例えるならば、トラやライオンよりも、熊に近いかも。クールさよりも、頼りがいと温かみを感じるスタイルだ。
スパイナルサポート機能付きシートの採用で乗り心地改善

コクピットに収まってみると、意外と雰囲気は乗用車的。これはガラスの傾斜が大きいので、キャビンの空間が乗用車的に感じるのだろう。好印象だったのが、シートの座り心地だ。柔らかすぎず、硬すぎず、身体をしっかりと支えてくれので、きちんとした運転姿勢が維持できる。これはキャラバンワゴンに採用されている「スパイナルサポート機能付きシート」をバンにも拡大した恩恵だ。コストと耐久性が重視される商用車だが、乗車及び運転時間は、乗用車よりも長いことが多いので、こういう気遣いは、しっかりと安全にも繋がる。基本的には荷室となる後部スペースだが、上位モデルのプレミアムGXとグランドプレミアムGXは、ヘッドレストも独立式となる乗用車ライクなセカンドシートが備わる。足元スペースもフラットで広い。乗員を載せるのにも役立つが、一人や二人で使う際も食事や休憩のスペースにも最適だ。セカンドシートを利用した状態でも、奥行き1.7mほどの空間があるので、そのまま昼寝もできそう。ただカーペット敷きとなるプレミアムGX以上でも、寝るならば、敷物くらいは欲しくなるだろうけど……。





ワンボックスであっても日産らしい気持ちのいいコーナリングが楽しめる

いよいよドライブへ。ドライビングポジションは、乗用車というよりもトラック的だ。フロントが短いワンボックスだけに、ドラポジの自由度が低いのは仕方ないところ。ただシートの着座姿勢が良いためか、やや右にオフセット気味となるペダルレイアウトには、慣れてしまうと気にはならなくなった。新ディーゼルエンジンは、低回転のトルクの太さもあって、大人二人の乗車で空荷状態だと、軽くアクセルを踏み込むだけでスイスイ走る。多段化も効いており、変速ショックとも無縁。ここは7速ATが良い仕事をしている。唯一変速機の存在を感じさせるのは、キックダウンを伴う急加速時のみ。この辺は、商用車を意識したセッティングとソフトな足回りの影響がありそうだ。ステアリングフィールは良好で、気持ちの良いコーナリングが楽しめるのは、日産車らしいところ。ただ空荷状態だと、ソフトなサスペンションが路面の凹凸を拾い、ピッチングが発生しやすいのが玉に瑕。少し後部に荷物を積むことで、実際の使用状況に即した評価もしてみたかった。例えば、後部が車中泊仕様となる特別仕様車「マルチベッド」は、ベッドキットにより、車重が60㎏アップするので、走りにも違いがでるはずだ。残念だったのが、乗降性だ。ステップの位置と高さが、男性でも気になった。女性ドライバーや家族使いする人は、その点もチェックしてみて欲しい。
まとめ
プロに選ばれるツールとして鍛え挙げられたキャラバンの魅力は、しっかりと往年の日産車らしい走りの良さに表れている。運転しているうちに、ギアを積み込み、アウトドアシーンに連れ出したくなった。実用車だけに、積載性に置いては、互いに研究し尽くしており、劇的な差はないと思われるが、走りのキャラクターは大きく異なる。市場的には、ハイエース押しの声が強いが、乗り比べてみれば、キャラバンを選びたくなる人もいるはずだ。食わず嫌いじゃもったいないというのが、キャラバンという存在。そのキャラバンも、スカイラインに継ぐ長寿モデルである。これからも、日産ファンを遊びと仕事の両面で支え続けて欲しいと願う。