新車試乗レポート
更新日:2022.07.08 / 掲載日:2022.07.08
【試乗レポート 三菱 eKクロスEV】長年のノウハウを感じさせる完成度の高さ

文と写真●ユニット・コンパス
乗って納得、開発者の話を聞いてまた納得。軽自動車の電気自動車(BEV)として注目を集める三菱の「eKクロスEV」は、期待を超えるクルマだった。
「EV」に強い三菱と日産による共同開発

軽自動車は新車販売の4割を占め、多くのひとびとの生活を支えている。そこに電気自動車の選択肢が生まれれば、電気自動車の普及に勢いがつくことは間違いないだろう。三菱はかつて、2006年から2021年まで「i-MiEV(アイ・ミーブ)」という軽の電気自動車を販売していた経験がある。リチウムイオン二次電池を用いる量産電気自動車としては、世界初で、デザインもメカニズムも意欲的なものに仕上がっていた。「i-MiEV」は、クルマとしての出来は高く評価されたものの、大ヒットとまではいかなかった。今回三菱は、アライアンスを組む日産とともに「eKクロスEV」を開発することで、より本格的な軽EVの普及を目指している。日産はいうまでもなく、電気自動車については長年取り組みを続けてきたメーカーだ。
三菱と日産は、新型軽EVを開発するにあたって作戦を建てた。コストを下げるためには数をたくさん作りたい。そこで、ターゲットを人気のあるトールワゴンに決定し、基本設計を工夫することでガソリンエンジン搭載モデルとBEVを作り分けられるようにしたのだ。しかも同じ基本設計で三菱版(eKクロス)と日産版(デイズ、サクラ)と販売できるので、スケールメリットは何倍にもなる。日産の「サクラ」は「デイズ」とは異なるオリジナルデザインと名前で登場したが、三菱は「eKクロスシリーズ」の1台という位置づけとここは2社で考え方が分かれた。未来的な「サクラ」もグッドルッキングだが、「eKクロスEV」の三菱らしい力強いスタイルにもファンがいるだろう。三菱としては、現状すべてのひとに電気自動車が最適な提案だとは考えておらず、ガソリンエンジン車とBEVをユーザーが選べるようにしたかったという。簡単に言えば、現状のバッテリー技術ではガソリン車の置き換えにはならないという意味だ。それはたしかに正しい認識で、ユーザーとしても、自分の使用環境に電気自動車がマッチするのかどうか、よく考える必要がある。
満タン状態からの走行可能距離は180km(WLTCモード)。三菱の試算では1日20km前後の走行距離であれば、週に1度の充電でまかなえるという。充電設備のことを考えると、利用者のほとんどが戸建てまたは会社の社用車ということになるだろう。昼間は通勤や買い物などに使い、夜間に備え付けの普通充電器で充電するというのが想定される利用シーンだ。急速充電器にも対応しているが、あくまでも出先で必要になってしまったときの手段としてもらいたいと説明する。ユーザーとしては、20kWhならば急速充電器で30分も充電すれば、すぐ満充電になると考えるかもしれないが、バッテリーの性能を長期間維持するために充電効率を細かく管理しており、実際には満充電にするには想像以上に時間がかかる。継ぎ足し充電で長距離ドライブに行くことは不可能ではないが、あまり満足いく結果にならないだろう。現状では、そういうユーザーはガソリン車を選ぶべきだ。
ガソリン車との違いは?

使用環境にマッチするのであれば、eKクロスEVは非常に魅力的なクルマであることは間違いない。デザインについては、eKクロスとeKクロスEVは基本的に変わらないが、実車を前にすると、グリルやバンパーの塗り分けが異なることで、かなりイメージは変わっている。三菱らしいSUVテイストはそのままに、よりすっきりとしていて、親しみやすくなった印象を受ける。試乗車はボディカラーがカッパーメタリックのルーフとミストブルーというなかなかに魅力的な組み合わせだった。

インテリアについては、メーターが7インチのカラー液晶となり、シフトがレバー式から電制シフトになったことが大きな違い。シフトの横には「イノベーティブペダル オペレーションモード」のスイッチが用意される。これをONにすると、アクセルペダルの操作でクルマを減速させられるようになる。BEVならではの装備だ。快適装備や先進安全装備の内容については、eKクロスに準じる。「サポカーSワイド」対象車で、衝突被害軽減ブレーキや踏み間違え防止アシスト、車線逸脱警報などといった機能は全車に標準装備。BEVということで、床下に20kWhのバッテリーを搭載するが、衝突時の安全性を確保するために、「eKクロスEV」はガソリン車よりも車体の下部を補強し、バッテリー自体も強固な構造でカバーしている。車両開発の計画当初からBEVモデルの登場を想定していたため、室内が狭くなったり使い勝手が制限されていないのは大したもの。後席ドアを開ければ普通車顔負けの広い空間が出現し、リヤシートも前後にスライドする。



電気自動車の嬉しさは走っているときだけではない

運転席に座ってスタートボタンを押しても当たり前だけどエンジンはかからない。静かなまま、エアコンが作動して涼しい風が吹き出してきた。そう、BEVの良いところは、こうして止まっているときにエアコンを使っても周囲に騒音の心配がないこと。たとえば車内でビデオ会議に参加するようなときに便利だ。エンジン車ではこうはいかない。
走り出して実感するのが加速のスムーズさ。ガソリン車だとターボであってもアクセルを踏み込んでから加速体制に移るまでに若干のタイムラグがあるが、それがまるでないのだ。しかもトルクがガソリン車の倍もあるものだから、加速自体が力強い。車体が重く、さらに車体の下まわりを強固に作っているおかげで、小さいのにもっと格上のクルマに乗っているような心地よさがある。加速の塩梅に関しては元気ではあるものの、過激に速いわけではない。この辺の味付けは、長年BEVを作ってきた三菱ならでは。普通のガソリン軽自動車から乗り換えても違和感はないだろう。
短距離ではあるものの高速道路も走ったが、街中よりもさらに頼もしさが光った。とくに合流や追い越し車線への車線変更といった瞬発力が必要なときに頼もしい。これで航続距離がもっと長ければなぁと思わなくもないが、現時点のバッテリー技術では現状のスペックは優れたバランス感覚。これ以上バッテリーを増やすと、価格も車重も増えてしまい「環境に優しいシティコミューター」というコンセプトから離れてしまうだろう。
まとめ
試乗から戻って開発エンジニアの方と話をすることができたが、繰り返し主張していたのが、「eKクロスEVには三菱がこれまで培ってきた電気自動車のノウハウが詰まっている」ということ。開発は組織的には日産が主導した形になっているが、味付けから製造に至るまで三菱と日産がお互いのノウハウを出し合い、完成度の高いクルマを目指したという。試乗した印象はまさにそのとおりで、「eKクロスEV」は非常にていねいに作り込まれている。現時点の電気自動車はガソリン車を置き換える存在にはなっていないが、現時点の電気自動車として「eKクロスEV」は非常によく出来ている。補助金の財源や電気代など、電気自動車はそれを取り巻く環境に左右される部分も多くあるが、1台のクルマとして納得できる仕上がりになっているところに何より共感できた。