新車試乗レポート
更新日:2022.08.22 / 掲載日:2022.08.04
【試乗レポート ホンダ シビック e:HEV】ホンダらしさにあふれるハイブリッド

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
新型シビックに、待望のハイブリッド「e:HEV」が投入された。発表された11世代目となる新型は、「爽快シビック」の愛称が示すように、従来型同様、走りの良さに注力したスパシャルティカー的な存在。モデルラインを1.5Lターボ車のみとし、MTも設定するなど、クルマ好きに訴える仕様となっている。その投入から約11か月遅れとなった「e:HEV」だが、結論からいえば、それだけの時間を待った甲斐はあったようだ。
「e:HEV」とは

要となるハイブリッドシステム「e:HEV」について簡単に触れておこう。これは駆動用と発電用の2モーターを搭載したシステムであり、その仕組みはシリーズ・パラレル式と呼ばれるもの。その強みを一言で示せば、ハイブリッド車とエンジン車の良いとこ取りとなる。ほとんどの走行シーンを電気モーターが担い、エンジンは発電に専念するが、高速走行など一部のシーンでは、効率を重視してエンジン走行も行う。だから、パワフルな電気モーターを搭載した電動車らしい走りが主となり、如何なるシーンでも力強い走りが楽しめる。
この「e:HEV」システムは、コンパクトクラスを中心とした1.5Lエンジン付きとミッドサイズクラス以上向けの2.0Lエンジン付きの大きく二つに分けられるが、シビックは、後者を搭載。その点からもシビックが走りの良さを重視していることが伺える。それでは、1.5Lターボ車と性能面を比較してみると、電気モーターの最高出力は+2psの184psと同等。しかし、最大トルクには大きな差があり、+75Nmの315Nmを発揮。しかもターボ車と異なるのは、発進時から最大トルクを発揮できること。このため、スタートダッシュからしっかりと違いを見せてくれる。燃料もターボ車がハイオクに対して、e:HEVはレギュラーとなるのも強み。燃費効率(WLTCモード)も、ガソリンターボの16.3km/Lに対して24.2km/Lと大きく上回る。この低燃費を影で支えるのが、新開発の2.0Lの直列4気筒エンジンだ。2.0Lの「e:HEV」システムでは、初採用となるエンジンで、最大熱効率を41%まで高めている。これまでのエンジンと大きく異なる点は直噴化で、より燃料を効率よく燃やすことを実現している。さらに静粛性を高める工夫も施されるなど、次世代上級向け「e:HEV」の高性能化と静粛性の向上という役目も担う重要な新エンジンであり、同じ2.0L「e:HEV」を搭載する最新車でもステップワゴンは、従来型のままだ。

もちろん、ボディなど基本構造は、ターボ車と同じ。但し、ハイブリッドシステムの搭載のため、改良が加えられている。特徴的なのが、リヤセクション。リヤシート下に、駆動用バッテリーなどの重量物を配置することで、ターボ車よりも10mmの低重心化と、更なるボディの強化を実現。重量増に合わせて、サスペンションのチューニングも専用化されているなどの違いもある。しかしながら、ハイブリッドシステムを上手に搭載することで、エンジン車と全く同等の室内空間を確保。ラゲッジスペースは、僅かに小さくなるが、縮小されるのは、フロアボード下のエリアのみに限定。このため、日常的に使うフロアボード上の空間広さは、ターボ車と同じ404Lを確保しており、使い勝手に支障はないように気を配っているのも好感が持てる。
他グレードと「e:HEV」との違い

コクピット周りでの違いを見ていくと、そこも限定的だ。そのひとつがシフト。同じオートマチックとなるターボ車のCVTは、一般的なシフトレバータイプとなるが、e:HEVはボタンとレバーを組み合わせた電制シフトとなる点が異なる。メカニズムの違いから、メーター表示もターボ車でタコメーターとなる部分が、e:HEVではパワーメーターに置き換えられる。このパワーメーターは、加速や減速の表示に加え、効きの強さを調整できる回生ブレーキの設定や作動状況も確認できるようになっており、タコメーター同様に、走りのリズムを視覚的に掴める工夫も凝らされている。ここにも走りのシビックらしいキャラクターがしっかりと反映されているのだ。
グレード構成は、ターボ車と異なり、モノグレードに。このため、装備内容は、ターボ車の上級モデル「EX」に準じており、BOSEプレミアムサウンドシステムやワイヤレス充電器なども標準化。シート表皮もプライムスムース×ウルトラスエードのコンビとなり、各部にレッドステッチが配されるのも同様だ。意外だったのは、ハイブリッドカーにありがちなブルーなどのエコカーを強調するアクセントが取り入れられていないこと。専用仕様として取り入れられたのは、フロントアッパーグリルとドアガラスまわりのサッシュのグロスブラック化とブラック塗装のドアミラーと、エコカーというよりはスポーツモデルのようなのだ。この趣向は、エコカーなんて今は当たり前というメッセージだけでなく、エコカーは単調とか、エコカーはつまらないとか、そんな愚痴は言わせないぞというホンダの意気込みでもあるのだろう。

試乗コースは、1.5Lターボ車と同じ八ヶ岳周辺が選ばれた。同じシチュエーションで試して欲しいというホンダの意向からも、「e:HEV」への自信の高さを感じさせるところだ。違いを確認するべく、ターボ車の6速MTとCVTを少し試したが、「爽快」の愛称に相応しい心地よい走りの時間を提供してくれた。1.5Lターボ車はバランスの良さも重視しているので、スポーティだが、刺激は薄め。乗り心地も良く、まさに大人な味付けだ。しかし、エンジン車の魅力は、公道でもエンジンをフルに使い切る走りが楽しめることだ。特に、今回の試乗コースのようなワインディング中心のシチュエーションでは、6速MTだとギアを的確に選び、エンジンも高回転域までしっかりと回すことができるので、しっかりスポーツできるのが魅力的。八ヶ岳周辺は、傾斜が強い長い上り坂となるコースも多く、ライトなターボとMT車の組み合わせの楽しさを実感できる。毎日楽しめるスポーツカーとして、シビックターボのMTはおススメ。CVTは、1.5Lターボの実力をクレバーに引き出してくれるところが魅力。そのオールマイティさは悪くないが、スポーツ度は、その分薄くなるのも正直なところ。それでは、e:HEVは、どうなのか。意外なことにスポーティさは、MTターボよりも上。エコカーという色よりもホンダの新しい高性能車という色味を強めているのだ。発進時から最大トルクを活かし、力強い加速を見せる。それはワインディングでも同様だ。まるでアクセルを介して、自分とクルマが一体となったように思わせてくれる。面白いのは、敢えて加速時に多段ギアのエンジン車のようなエンジン回転にステップを踏ませていることだ。まるでギアが変速するようにエンジン音が刻まれていくのだが、この間もエンジンと駆動は切り離され、発電しか行っていない。発電効率という視点では、全く意味のない動作なのだが、これがドライバーに良い意味で誤解を与える。加速度による体感だけでなく、エンジン音でも加速を感じさせることで、走りのリズムが生まれるのだ。正直、私自身も運転中は、電気モーター主導のハイブリッド車であることを忘れてしまっていたほど。走りの質も高く、リヤの剛性が高まったことで、操作に対して、車体の動きがより俊敏となり、シャープな走りを生む。連続するコーナーが快感となるほどのコーナリングマシンなのだ。かつて峠を席巻したシビックの伝統を感じさせてくれる。その走りを支えるべく、タイヤセレクトも、ターボ車よりもスポーツ度の高いものをセレクトするなど隠し味もしっかりと効いている。多くの努力を重ねているが、決して燃費至上主義では決してないエコカーなのである。
まとめ
これまでのハイブリッド車の概念を大きく打ち破るのが、このシビックe:HEVといっても言い過ぎではない。ホンダイムズ満点で他社が真似できないハイブリッドの味わいが、しっかりと表現されている。皆さんもご存じのように、今秋には伝説のスポーツモデル「タイプR」も加わる予定。しかし、タイプRはマニア向けであり、家族との共有にも不向きだ。これまで一部のモデルでは、その役目を「タイプS」というグレードが担ってきた。実は、「タイプS」の感覚で、今回の「シビックe:HEV」は企画されたのではないかと睨んでいる。確かに価格は高めだが、ターボ車とも、タイプRとも違う世界観を提供。ターボ車以上タイプR未満の選択として選んでも、その期待は裏切らないだろう。





