新車試乗レポート
更新日:2022.10.17 / 掲載日:2022.10.11

新型トヨタ シエンタ 公道試乗 HV車とガソリン車の比較検証も!

全長4.3m弱のコンパクトボディに3列シートを効率的に配置することで多人数乗車にも対応可能。これだけでも十分魅力的だが、新型シエンタは最新メカニズムと最新装備で全方位的に大進化! まさに1台でなんでもこなせる万能モデルに生まれ変わった。その魅力、余すことなくご確認あれ。

●文:川島 茂夫 ●写真:奥隅 圭之

TOYOTA 新型シエンタ

●発売日:2022年8月23日 ●価格:195万〜310万8000円

従来型の不満を解消した
新世代コンパクトミニバン
 トヨタはユーザーニーズの多様化に最も前向きに取り組んできたメーカーであり、多彩な車種を開発している。その中のひとつの流れとして注目すべきは”ユニバーサルデザイン“、すなわちすべての人に使いやすい設計があり、この思想に基づきセンターピラーレスのラウムや大型スライドドアのポルテを誕生させている。ハイト系のラクティスもここに分類していいだろう。また、3列シート車の最適設計を求めイプサムやウィッシュ、プリウスαもを開発するなど、展開の多様性は際立っていた。
 とは言え、この考え方は商業的には非効率であり、以前に比べると車種が整理されてきた。当然、無くなった車種のオーナーにしてみれば乗り換えるモデルを失い、受け皿となる代替モデルが必要となる。その役割を幅広く請け負ってくれるのがシエンタである。
 シエンタはステーションワゴンと1BOX型ミニバンの中間的なパッケージングを採用。全高は1695㎜であり、2ℓ級1BOX型のノアよりも200㎜も低い。ただ1BOX型と異なり、乗用車型の地上高の低いフロア形状を採用しているため、カタログ室内高の差はノアと105㎜に留まる。
 リヤドアにはワゴン型ながらスライドドアを採用。ラウムやポルテと比較するとドア開口部は狭いが、狭い場所での乗降性や乗降姿勢の自由度が高いことが長所。前席と2列目のウォークスルーも可能とし、子どもと一緒にリヤドアから乗降し、子どもを座らせた後に車内移動で運転席に座るといった使い方にも対応している。
 これらの基本的な機能は初代から継承されているものだが、新型になってキャビンスペースの拡大や荷室開口部の拡大で居住性と積載性の改善、更に多様な用途への適性向上も図られた。
 そして一新された走行ハードウェアも見逃せない。ガソリン、ハイブリッド共に新世代型となる高熱効率の1.5ℓ3気筒を採用。ハイブリッドの形式は従来型同様にスプリット式を採用するが、システムは全面刷新されている。
 安全&運転支援面では最新のトヨタセーフティセンスが導入され、従来型の最大の弱点を解消。さらにハイブリッドの最上級グレード限定ながら駐車操作を自動化したアドバンストパークもOPで選ぶことができるようになった。上級コンパクトと同等以上の運転支援機能を選択できるのは、ウィッシュやプリウスαからの代替を検討するユーザーも見据えた選択と思われる。
 いずれにせよヤリス、アクアと共にエントリークラスを支えていくモデルとして中心的存在となるのは間違い無いだろう。

公道試乗インプレッション

走りは穏やかさ最優先
ファミリーユースに最適

 シエンタの走りの特徴を一言にするなら、神経質さの徹底的な排除。操る手応えも精密なコントロール性も昂揚感もないわけではないが、とにかく穏やかに走れることを第一に考えている。静粛性とか細かな振動を抑えるといった、細部の磨き込みは抜かりなく、ストレスフリーを貪欲に狙っている。
 サスチューニングは比較的低い負荷から長めのストロークを使う柔らかめの設定。いかにもファミリーカーといった和み系の走りが強く押し出されている。
 パワートレーンに関しては、1.5ℓのダイナミックフォースエンジンに刷新されたガソリン車は、ギヤ付きのダイレクトシフトCVTとの相乗効果もあって、街中などでは余力感を強く実感することができるが、高速走行などの高負荷加速ではダウンシフトを併用して高回転域を用いることになる。この状態では1.5ℓ相応の力感でやや加速に物足りなさも感じてしまう。シエンタは同型エンジンを搭載するヤリスと比べると車両重量は250㎏以上重く、ダウンシフトに入るタイミングも早い。タウンユースなら不満はないが、レジャー用途で高速長距離も前提にするなら、少し心許ない動力性能にも感じる。
 そこをしっかりと埋めてくれるのがハイブリッド車だ。重量ハンデは同様だが、電動パワーアシストにより加速や高速巡航時の余力が向上。劇的に力強いとまではいえずエンジン回転も上がってしまうが、ガソリン車の不満はかなり和らぐ。車格と価格を考えれば高速域でも合格点が与えられウェルバランスで納得できる。
 今回の試乗では実燃費は計測できなかったが、ハイブリッドFF車のWLTC総合モード燃費は28㎞/ℓを超える。この数値はカローラのハイブリッド車並みであり、ミニバン系では群を抜いた省燃費性能を備えている。
運転支援機能も大きく向上
ストレスフリーを実現

 ACCを全車に装着しているが、その付帯機能としてエンブレの自動制御を備えるのも運転しやすさの特徴だ。これは前走車との車間距離と速度差に応じてエンブレ減速を自動制御して、ブレーキペダルの踏み替え頻度減少や踏み替えの時間的猶予を生み出すのが特徴。減速度制御はハイブリッド車は回生量、ガソリン車は油圧ブレーキの作動で行われる。頻繁に加減速や停車する都市部での運転ストレス軽減には効果的だ。
 なお、ACCは全車とも停車までサポートする全車速型を採用しているが、停車保持機能はハイブリッドの最上級グレードに限定されている。ここには出し惜しみを感じてしまう。
 シエンタの和み系な走りの柱になるのはフットワークだ。
 ハンドリングは機敏な反応を抑えているのが特徴。ゆっくりとした操舵では応答遅れも少なく追従感も良好だが、転舵速度が高くなると操舵に対する回頭量が減少していく。高速で左右に素早く切り返してもゆらっと鈍い反応しか示さない。定常円旋回時の舵角も深めで安定性重視の特性が際立つ。
 先に述べたように長いストロークを使う設定だが、ストローク速度はしっかりと抑制が利いている。例えば初期ロールの動きは早めだが、ストローク量が増加してもロール速度が抑えられている。ロールしきるのに要する時間は長め。そこを上手く使って急激な回頭反応などを往なしている感じだ。
 動力性能も操縦性も、フレンドリィなファミリーカーに徹底した印象が強い。カーマニアが好むスポーティな味付けは皆無に近い。ウィッシュやプリウスαといった上位モデルからの乗換ユーザーにとっては動力性能や走りの質感で物足りなさを感じるかもしれないが、シエンタが狙う万人向けのファミリーカーというキャラには似合い。同乗者はもちろん、ドライバーも一緒に和みを実感できる走りだ。

ハイブリッド車

HYBRID Z (7人乗り・FF)●価格:291万円 ■主要諸元 ●全長×全幅×全高(㎜):4260×1695×1695 ●ホイールベース(㎜):2750 ●車両重量(㎏):1370 ●パワーユニット:1490㏄直3DOHC(91PS/12.2㎏・m)+モーター(59kw/141Nm) ●WLTCモード総合燃費:28.2㎞/ℓ ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)ディスク(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)トーションビーム式(R) ●タイヤ:185/65R15

動力性能重視なら
ハイブリッド車がベストバイ

乗り味も運転感覚も穏やかの一言に尽きる。それでいて高速走行でも安心感がある。電動特有の力強さは薄めだが、充実した運転支援機能もあってタウンユースからレジャー用途まで汎用性に優れている。

1.5ℓハイブリッドはヤリス/アクアと同世代。駆動用バッテリーは標準的なセル型ニッケル水素だが、このクラスではトップの燃費性能を持つ。

ガソリン車

Z (5人乗り・FF)●価格:252万円 ■主要諸元 ●全長×全幅×全高(㎜):4260×1695×1695 ●ホイールベース(㎜):2750 ●車両重量(㎏):1280 ●パワーユニット:1490㏄直3DOHC(120PS/14.8㎏・m)●WLTCモード総合燃費:18.4㎞/ℓ ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)ディスク(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)トーションビーム式(R) ●タイヤ:185/65R15

普段使いは問題ないが
高速走行時は非力さも

巡航時の力感やコントロール性は1.5ℓ級ガソリン車としては優れるが、負荷がかかるとパワーの余裕が気になってくる。タウンユース主体なら問題ないが、負荷時の加速性能を求められる高速道路や山岳路では少し非力さを感じてしまう。

1.5ℓ3気筒のダイナミックフォースエンジンを採用。ギヤ付きのダイレクトシフトCVTとの相乗効果でガソリン車としては最高レベルの熱効率を発揮する。

スライドドアに加えて、乗り込み高さは330㎜という低床構造を採用。圧倒的な乗降性の良さも見逃せない美点。
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内外出版/月刊自家用車

ライタープロフィール

内外出版/月刊自家用車

オーナードライバーに密着したクルマとクルマ社会の話題を満載した自動車専門誌として1959年1月に創刊。創刊当時の編集方針である、ユーザー密着型の自動車バイヤーズガイドという立ち位置を変えず現在も刊行を続けている。毎月デビューする数多くの新車を豊富なページ数で紹介し、充実した値引き情報とともに購入指南を行うのも月刊自家用車ならではだ。

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