新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2022.11.08

【テスラ・モデルY】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回フォーカスするのは、EV販売シェア世界一のメーカーへと成長したテスラモーターズの「モデルY」をピックアップ。昨今、自動車業界で革命を起こし続ける黒船の最新モデルは、どんな魅力を備えているのだろう?

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テスラ モデルYのプロフィール

テスラ モデルY RWD

 2021年、テスラモーターズは93万6172台の販売台数を記録した。これはテスラにとって創業以来過去最高の数値であり、コロナ禍の影響をもろに受けた2020年に比べて87%アップという飛躍を遂げた。

 なかでも人気を集めたのが、テスラ車のラインナップでコンパクトセダンに位置づけられる「モデル3」と、コンパクトなクロスオーバーSUV「モデルY」である。2モデルを合わせた販売台数は91万1208台。これはテスラモーターズが記録した2021年販売台数の実に97%に相当する。

 テスラモーターズ初の量産セダンとなった「モデルS」が米国カルフォルニア州のフリーモント工場から初めて出荷されたのは2012年のこと。それから10年あまりで世界一のEVメーカーへと成長したテスラの勢いは恐るべしだ。そしてその勢いはとどまることを知らず、今では北米に4拠点、海外では中国やドイツにファクトリーを構えるなど、世界的に量産体制を整え始めている。

 今回フォーカスするモデルYは、そんなテスラの最新モデルである。2019年春に本国で発表されたコンパクトクロスオーバーSUVで、EV人気が高まる北米カリフォルニア州では、2022年第1四半期の車名別ランキングで販売台数1位をマーク。世界的な人気もあって日本上陸は予定より少々遅れ、日本第1号車は2022年9月8日に納車となった。

 75%ほどのコンポーネンツを共有するということもあり、モデルYのエクステリアデザインはモデル3に通じるものがある。しかし、クーペSUVを思わせるシルエットなどにより、全長はモデル3比で57mmプラスの4751mm、全幅は同72mmプラスの1921mm、全高は同181mmプラスの1624mmとなるなど、思いのほかサイズやディテールが異なっている。

 一方、イグニッションスイッチやメーターパネルが存在せず、大半の操作を中央の15インチ大型タッチパネルに集約したコックピットの眺めは、モデル3とほぼ共通。もちろん、ソフトウェアのアップデートに対し、大型タッチパネルを介して随時更新できるテスラならではの美点も継承する。ちなみに本革シートには、ヴィーガンレザーを100%使用するなど、環境への配慮も行き届いている。

 また、モデルYはクロスオーバーSUVということで使い勝手も追求。気になる荷室容量は通常状態で854リッター、後席の背もたれを倒した状態で2041リッター、さらにボンネット下のフロントトランクに117リッターを確保する。

 もちろんイマドキのクルマだけあって、モデルYは安全性も優秀だ。モデル3と同様、高強度スチールとアルミを効果的に使用することで高剛性を実現し、また構造自体も工夫。それによりユーロNCAPで5スターを獲得するなど、優れた安全性評価を獲得している。

 そんなモデルYの日本仕様は、現時点では2グレードをラインナップ。ロングレンジのバッテリーを搭載し、595kmの航続距離(WLTC、以下同)と最高速度250km/h、0-100km/h加速3.7秒という駿足の持ち主であるデュアルモーターAWD仕様の「パフォーマンス」と、スタンダードレンジのバッテリーを搭載し、507kmの航続距離と最高速度217km/h、0-100km/h加速6.9秒という十分な性能を獲得した「RWD」が用意される。

 またモデルYはモデル3と同様、すべてのモデルに4年間または8万km(いずれか早い方)、バッテリーやドライブユニットに8年間または16万km(いずれか早い方)の保証が設けられるなど、EVに対する安心感をしっかりケアしている点も見逃せない。

■グレード構成&価格
<デュアルモーターAWD仕様>
・「パフォーマンス」(833万3000円)

<シングルモーターRWD仕様>
・「RWD」(643万8000円)

■電費データ
<パフォーマンス>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:150Wh/km
 >>>市街地モード:147Wh/km
 >>>郊外モード:139Wh/km
 >>>高速道路モード:153Wh/km

◎一充電走行距離
・WLTPモード:595km

<RWD>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:140Wh/km
 >>>市街地モード:130Wh/km
 >>>郊外モード:130Wh/km
 >>>高速道路モード:144Wh/km

◎一充電走行距離
・WLTPモード:507km

【高速道路】モデル3に対して10%ほど悪化するが、他ブランドと比べると優秀なデータ

 日本で販売されているモデルYはいまのところスタンダードなRWD(後輪駆動)とパフォーマンスと呼ばれるAWD(4輪駆動)の2種類。今回はRWDとなったが、セダンのモデル3のEVテストもRWDだったので比較対象として都合が良かった。
 電費は制限速度100km/h区間となるその1が6.5km/kWh、その4が7.4km/kWh、制限速度70km/h制限となるその2が7.2km/kWh、その3が8.1km/kWhだった。
 2021年7月にテストしたモデル3はその1が7.9km/kWh、その4が6.1km/kWh、その2が9.3km/kWh、7.6km/kWh。
 東名高速のこの区間は早朝でも交通量が多く、ペースが安定しないのでデータもばらつくが、100km/h区間の合計ではモデルYがほんのわずかに悪かっただけでほぼ誤差のレベル。70km/h区間ではモデル3に対してモデルYが10%ほど悪くでたが、その2で差が大きく出ている。モデル3のときはスムーズに制限速度付近で巡航できたが、モデルYでは工事区間が長く速度変動が大きくて電費が悪化した。それらを考慮すると、概ねモデルYの高速道路での電費はモデル3に対して10%弱落ちるといったところ。車両重量が170kg重く、前面投影面積が大きいことを考えれば妥当なところだろう。他のEVとの比較では、車両重量等を勘案すれば、秀逸な実電費と言える。

【ワインディング】コースが異なるため参考値ながら妥当性のあるデータとなった

 今回はいつもEVテストで走行している箱根ターンパイクが貸し切りで走れず。苦肉の策で並行している箱根新道を走った。登りのスタート地点からゴール地点までの距離はどちらも約13kmでかわらず、標高差は箱根ターンパイクが963mなのに対して箱根新道は762m。また、中・高速コーナー主体で交通量が少ない箱根ターンパイク、低速コーナーも多く交通量が多い箱根新道と。走行環境もだいぶ違う。
 それでも今回は登り・下りともに奇跡的に交通量は少なく、それなりにスムーズに走れた。登りの電費は2.2km/kWh。ちなみにモデル3の箱根ターンパイク登りの電費は2.0km/kWh。同じ道路・条件だったらモデル3のほうが10%程度はいいだろうから、やはり今回のコースは標高差が少なくて楽なのだろう。
 下りでは車載電費計の推測から2.2kWh分を回生した計算になる。こちらも標高差が少ない分、回生も少なくなるかと思いきや箱根ターンパイクでのモデル3は1.9kWhだった。箱根新道はタイトコーナーが多く、強めに減速することもあるから回生を多くとれたのかもしれない。とはいえ、差はそれほど大きくない。また、モデルYは大人気車種なので折を見て再テストをしてみたいと思う。

いつもテストする箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)が利用できなかったため、並走する箱根新道を使ってテストを実施した

【一般道】トップレベルの飛び抜けた電費のよさを披露

 一般道での電費は6.9km/kWhで、スペックを考えるとかなり良好だった。

 モデル3の5.8km/kWhを超えているし、過去のEVテストで6km/kWh台以上を記録しているのは軽量級のモデルばかりだ。と思いきやヒョンデ・アイオニック5が車両重量2100kgながら6.5km/kWhで、かなり良好だった。モデルYは1930kgなので、同等レベルといっていいかもしれない。

 一般道は信号のタイミングや周囲の交通状況などによって電費が変動しやすいものだが、平均走行距離は約20km/hでいつもとさほどかわらない。テスラとヒョンデが採用しているSiCインバーターの効力か、ワンペダルドライブの制御が効率的なのか、断言できるところまで分析できないが、一般道での電費が頭一つ抜けて良好なのはたしか。再テストなどでもう少し検証してみたい。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

【充電】テスラ独自の急速充電網に加えてCHAdeMOもアダプターで対応

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 テストスタート地点でのバッテリー残量は81%、そこから132km走って復路・海老名サービスエリアに到着すると35%になっていた。出力90kWの急速充電器を30分間使用して74%まで回復。なお、モデルYは走行可能距離がバッテリー残量との切り替えで確認できるのだが、スタート時にそれを怠ってわからず。海老名サービスエリア到着時、バッテリー残量35%で走行可能距離は151km、充電後の74%で314kmと表示された。充電された電力量は22.8kWhで30分間の平均出力は45.6kW。テスラは独自の急速充電器ネットワーク、スーパーチャージャーを構築していて、その多くが120kW、2021年6月以降は250
kWもの高出力タイプが設置され、素早く充電できるのが魅力。現在日本全国に、近日開設予定も含めると68カ所あり、東京都心など一部では2基のところもあるが、多くの場所が4〜6基、広い敷地では8基というところもある。
 日本の公共急速充電器であるCHAdeMOにはアダプターを装着することで対応。その場合の受け入れ能力は最大50kWなので、今回のように90kWの充電器を使っても50kW弱にとどまる。今回、CHAdeMOで充電されたのは30分で22.8kWhだが、120kWのスーパーチャージャーならば最速で12分程度で済む計算。スーパーチャージャーを目的地に設定しておけば到着時にはバッテリーが充電に最適な温度になるよう設定されているので、熱ロスは最小限に抑えられスムーズに充電できるはずだ。

前席とのゆとりはかなりあり、床がフラットなため足元も広々としている。頭上スペースは若干狭く感じられた

テスラ モデルY RWDはどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 モデルSやモデルXはEセグメントのプレミアムカーであり、車両価格もそれなりに高価だったが、Dセグメントのモデル3は一気にリーズナブルに。ボディサイズも日本の都市部で使いやすいもので急速に人気が上がった。モデルYはそのSUVタイプということで、さらに拡販されるのは間違いないところだろう。

 室内に物理的なスイッチがほとんどなく、多くの操作を15インチの大型タッチパネルで行うなど優れたUI(ユーザーインターフェース)、既存の自動車にはないガジェット的な魅力が注目されがちだが、運動性能の高さや良好な電費、スーパーチャージャーなどあらゆる面でハイレベル。一度はまってしまうともう戻れない沼のような存在になりうるのだ。

テスラ モデルY RWD

■全長×全幅×全高:4751×1921×1624mm
■ホイールベース:2890mm
■車両重量:1930kg
■バッテリー総電力量:非公表
■モーター定格出力:非公表
■モーター最高出力:299ps(220kW)
■モーター最大トルク:35.7kgf(350Nm)
■サスペンション前/後:ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
■ブレーキ前後:Vディスク
■タイヤ前後:255/45R19

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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