新車試乗レポート
更新日:2022.12.08 / 掲載日:2022.12.08

新型クラウン クロスオーバー/ターボ車公道試乗!

TOYOTA 新型クラウンTURBO! “シリーズ最強の真実”

既に試乗の機会を得た2.5ℓHEVに続き、
いよいよ新開発の高出力ユニットを搭載する2.4ℓターボHEVに試乗。
リアルワールドで感じた、その走りの資質とは——。

●文:川島 茂夫 ●写真:澤田 和久

【新型クラウン TURBO・プロローグ】効率、ファントゥドライブ、そしてクラウンらしさのバランスやいかに

走りのカギを握るのは
ターボ&新開発6速AT
 SUVなのかセダンなのか。トヨタの分類ではSUVとなっていて、大径タイヤやクラッディングを採用し、シート座面高も一般的な乗用車より多少高めだが、最低地上高は145㎜であり、前後のバンパー下部デザインもちょっとSUV寄り程度。車体骨格は新クラウンシリーズの披露時に並べられていたセダンのプロト車に近く、室内高もSUVとしては低めだ。と書き連ねるとエセSUVみたいだが、単に外観の嗜好の問題であり、キャラを立たせるためにSUVをモチーフにしたデザインをトッピング。スポーティの演出をエアロに求めるか、クラッディングのタフネスに求めるかの差異と捉えれば分かりやすい。
 スポーツ&カジュアルをテーマにした新趣向のクラウンが「クロスオーバー」だが、嗜好は違うもののスポーティなクラウンという意味ではアスリートの系譜とも言える。そこで今回の主役となるRS系だ。しかも新開発の高性能型ハイブリッドを伴っての登場である。「デュアルブーストハイブリッドシステム」と命名された新システムは272PSを発生する4気筒2.4ℓターボと6速ATを核に61‌kWのモーターを組み合わせたパラレル式ハイブリッド。後輪駆動用の59‌kWモーターを備えたe-アクスルとのコンビでE-Fourアドバンストを構成し、システム最高出力は349PSに達する。構造的にはシリーズ式の稼働も可能だが、制御はパラレル式に限定される。また、前輪用パワートレーンはモーター前後に多板クラッチを配してトルコンレスとしたのも新機軸だ。
 トヨタは効率を追求してスプリット式を採用してきたが、この新システムが効率面でスプリット式に勝るわけもなく、WLTC総合燃費はスプリット式2.5ℓハイブリッド車より約3割減の15・7㎞/ℓ。ちなみに先代RS系の3.5ℓV6ハイブリッド車(2WD)は16.0㎞/ℓなので、カタログ燃費では同等である。
 これまでトヨタ系のハイブリッドで横置きV6モデルはなく、GA-KプラットフォームにおけるV6ハイブリッドの代替パワートレーンと位置付けてもいいのだが、効率低下覚悟で敢えてパラレル式を新開発というのが興味深い。要するにターボと6速ミッションが新RS系のファントゥドライブの訴求点のひとつなのは間違いない。内燃機車ならではの操る手応えを入れ込んだ新たなトヨタ・ハイブリッド車と考えるのが妥当だろう。効率、ファントゥドライブ、クラウンらしさの3点の按配が興味深い試乗となった。

【新型クラウン TURBO・公道インプレッション】良質な乗り心地へのこだわりにクラウンの伝統が活きている

TOYOTA クラウン
クロスオーバー RS“アドバンスト”
●車両本体価格:640万円
●ボディカラー:ブラック×プレシャスレイ(有料色:16万5000円)

■主要諸元(クロスオーバー RS“アドバンスト”) ※オプションを含まず
●全長×全幅×全高(㎜):4930×1840×1540 ●ホイールベース(㎜):2850 ●最低地上高(㎜):145 ●車両重量(㎏):1920 ●パワーユニット:2393㏄直4DOHCターボ(272PS/46.9㎏・m)+モーター(フロント61kW/292Nm、リヤ59kW/169Nm) ●駆動方式:4WD(E-Four Advanced) ●トランスミッション:6速AT ●WLTCモード総合燃費:15.7㎞/ℓ ●タイヤ:225/45R21

速度ではなくリズムの
良さを愉しむタイプだ

 変速の素早さはピカイチ。自動変速でも、パドルの手動変速でもタイムラグほとんどなしで決まる。アップシフト時の加速の途切れも認識できない。変速機構は遊星ギヤ式。要するにふつうのATと同じタイプでハイブリッドシステム用も含めてクラッチはすべて湿式多板式。しかも前後輪共に電動駆動可能だ。変速の速さも加速の途切れなさも当然である。DCTに比べると多少変速感にメリハリを欠くが、それは突き出しや引っ掛かりのなさ、つまりは変速による加減速の繋がりのよさでもある。
 ではエンジンはというと、これも気持ちよく回る。どの回転域でも余裕のトルクを発生し、高回転域に至っても荒ぶらないエンジンフィールもあって、気楽に高性能を楽しめてしまうタイプ。音質こそ弾けるような感じだが、全開で加速させてもエンジン周りの騒音は控えめ。総じて静粛性も良好だ。
 優等生すぎて迫力や昂揚感を欠くのだが、さほど神経質にならずに、心地よくリズムを刻むが如く変速を楽しめる。速さが愉しいのではなくリズムが愉しいのだ。
 フットワークも速さよりリズムやストレスの少なさを優先した特性だ。X/G系と同様に電子制御後輪操舵システムのDRSを採用。その効果もあって、操舵初期反応の鋭さと定常円旋回での安定性、低速コーナーと高速コーナーでの操縦特性の変化の少なさなど基本特性はよく似ている。ただ、車体挙動の据わりが違う。
 RS系はナビの地図データを制御要件に組み込んだ電子制御可変ダンパーのナビAI-AVSを装着する。要するに足回りの負荷が大きくなれば相応に減衰力を上げて挙動を小さくあるいは収束性を高めるシステムだ。操安と乗り心地の両立で効果が高く、最近では高性能スポーツ車にも同様のシステムが多く採用されている。
 標準サス仕様に比べて、高速コーナリングでの接地感など、負荷変動で起こる浮つくような挙動がタイトターンから高速旋回まで減少している。だからといってサスの硬さで抑えているような感覚が少ないのが興味深い。
 サス制御まで込みのドライブモードは「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「スポーツS」「スポーツS+」「カスタム」の6モードが設定され、AVSの減衰力制御だけでなく、ペダルストロークに対するアクセル特性やパワステのアシスト特性などがそれぞれのモードに対応。「カスタム」ではアクセル/操舵感/サス制御等を任意で組み合わせられる。
 ツーリングを模した試乗では、大体の場合は「コンフォート」や「ノーマル」を選ぶことが多い。最もスポーティなセットは試してはみるが、乗り心地の面からそう長い時間は走らせないのだが、今回は「スポーツS+」を主で走らせていた。理由は簡単である。予想外に乗り心地がいいのだ。
「スポーツS+」でもサスのストローク感がしっかりと伝わってくる。コーナリングのロール挙動も路面のうねりによる上下動も抑え込むのではなく、ストロークで往なし収束させる。しなやかで強靭といった感じのサス制御である。
 ただし、スポーツモデル特有の路面に貼り付くような引き締まった印象は希薄。ストローク速度は抑制されているが、揺れ戻しがつきまとう。重みを感じさせるというか、「スポーツS+」のモードでも穏やかな乗り心地への気配りがなされているのだ。
 ロールを上手に使うとコーナリング時に頭を左右に振られる感覚は弱まるが、単なる上下動の突き上げだけでなく、横G等々で頭や身体を揺する負担を挙動でコントロールしている。電子制御ならではの適量適所の制御の効果もさることながら、硬/柔とは違った良質な乗り心地へのアプローチを感じたフットワークである。
 それがスポーツモデルとして正しいかと言われると微妙。「スポーツS+」くらいはもっと熱さと昂揚感に振っても良さそうな気がする。しかしクラウンのスポーティモデルとしては正しい在り方なのだろう。リセットして再スタートの印象が強いクロスオーバーだが、RSの走りはいい意味でクラウンの伝統を感じさせてくれた。

【新型クラウン・再確認】NAハイブリッドの実力

クラウン
クロスオーバー G“アドバンスト”
●車両本体価格:510万円
●ボディカラー:ブラック×プレシャスブロンズ(有料色:16万5000円)

■主要諸元(G“アドバンスト”) ※オプションを含まず
●全長×全幅×全高(㎜):4930×1840×1540 ●ホイールベース(㎜):2850 ●最低地上高(㎜):145 ●車両重量(㎏):1770 ●パワーユニット:2487㏄直4DOHCターボ(186PS/22.5㎏・m)+モーター(フロント88kW/202Nm、リヤ40kW/121Nm) ●駆動方式:4WD(E-Four) ●トランスミッション:電気式無段変速 ●WLTCモード総合燃費:22.4㎞/ℓ ●タイヤ:225/55R19

電動時代のクラウンの基本型
他車を圧倒する実燃費!
 新東名のACC100㎞/h超巡航や山岳路走行も含めての燃費はWLTC総合モード超えの約23㎞/ℓ。伸びるとは予想できたが、同クラスでは群を抜いた燃費である。しかも、ドライブフィールには切り詰めて燃費を稼いでいる感覚がない。トヨタ2.5ℓハイブリッド車の中では車重がある方だが、中庸域のトルク制御の巧みさが利いているのか、運転感覚にそのハンデは感じない。
 操縦感覚や乗り心地に重質な味わいがもう少し欲しいなど、乗り味の車格感では多少の不満も感じたが、セダンでもSUVでも同クラス世界最高峰の燃費がそんな細々とした不満を吹き飛ばしてしまう。RS系に比べると地味にも思えるが、電動時代のクラウンの基本型はやはり2.5ℓハイブリッド車と言えそうだ。

【新型クラウン・プロフィール】

TOYOTA 新型クラウン クロスオーバー
●発表日:’22年7月15日
●車両本体価格:435万〜640万円

伝統と革新を具現化した
新時代のトヨタフラッグシップ

 クラウンと言えば日本を代表するFRセダン。そんな常識を覆し、セダン/SUV/エステート(ワゴン)/スポーツ(ハッチバック)という多タイプ展開へ刷新。第一弾となるSUVタイプの「クロスオーバー」は、2.5ℓNA(自然吸気)のシリーズパラレルハイブリッド(従来のTHS Ⅱと同様のメカニズム)に加え、新開発のトルコンレス6速ミッションを搭載する2.4ℓターボ、デュアルブーストハイブリッドを設定。クラウンの名に恥じぬ品質や居住性をキープしつつ、市場の要請に応えるラインナップと最新技術を大胆に採用し、新たな時代を拓くことを狙った意欲作だ。

メーターは12.3インチの全面液晶。複数の情報をゾーンごとに切り替えて表示可能だ。
キャビンと荷室はセダンのように仕切られている。AC100V電源を標準装備する。

【新型クラウン・まとめ/結論】

衝撃的なデビューだったが
クラウンらしさは継承

 クロスオーバーからのスタートはある意味でショック療法戦略なのかもしれない。初めてその姿を見た時、あるいは車名がクラウンでクロスオーバーはグレード名と聞かされた時には伝統の破壊が目的かなとも思われた。トヨタ系ブランドの頂点としてFRセダンを極めて欲しいという気持ちもあったが、実際に乗ってみると嗜好的新味や流行に寄せた部分はあっても、伝統の否定とは違っていたことに気付かされる。
 市場性や時代性、クラウンらしさを取りこぼしなくまとめたウェルバランスが新クラウンであり、それを分かりやすく表現したのがクロスオーバー。見た目に寄らずクラウンらしいモデルなのだ。
 同格他車に対してアドバンテージになるのは2.5ℓ車の燃費くらいのもので、RS系に展開した新ハイブリッドシステムも性能面で他を圧倒しているわけではなく、ストレス少なく操る楽しさを求めた結果。ファントゥドライブと燃費の両立ならトップクラスでも、身内に同車格で世界最高峰の燃費を達成したモデルがあるだけに、燃費の代償が大きく見える。ただ、燃費の2.5ℓ車とファントゥドライブのRS系のどちらにしても新クラウンらしい選択ではある。

【新型クラウン・主要諸元一覧】

ターボ追加でどうなる!? ディーラー直撃!【最新版】新型クラウン購入攻略ガイド

●文:渡辺陽一郎

“アドバンスト”から生産開始、最短でも約8か月待ち……
 RSは605万円。本革シートなども標準装着され、2.5ℓのG“レザーパッケージ”に比べて65万円高い。ただしRSにはショックアブソーバーの減衰力を変化させるAVSなどが標準装着され、正味価格差は57万円に縮まる。今のトヨタはノーマルエンジンとハイブリッドの価格差を35万円に設定する車種が多く、ハイブリッド同士で57万円の正味価格差は大きめだ。RSは使用燃料がプレミアムガソリンだから、燃料代も割高だ。買い得なのは2.5ℓの“アドバンスト”になる。
 販売店によるとデリバリーは“アドバンスト”からで、納期は2.5ℓ車が約8か月、2.4ℓターボは約11か月。その他は’23年4月以降生産予定で、納期は未定とのことだ。

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内外出版/月刊自家用車

ライタープロフィール

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オーナードライバーに密着したクルマとクルマ社会の話題を満載した自動車専門誌として1959年1月に創刊。創刊当時の編集方針である、ユーザー密着型の自動車バイヤーズガイドという立ち位置を変えず現在も刊行を続けている。毎月デビューする数多くの新車を豊富なページ数で紹介し、充実した値引き情報とともに購入指南を行うのも月刊自家用車ならではだ。

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