新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2022.12.31
【スバル ソルテラ】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回フォーカスするモデルは、スバル「ソルテラ」のFWDモデル。トヨタとの共同開発により誕生したスバル初の量産EVは、どんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか?
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スバル ソルテラ(FWD)のプロフィール

スバル「ソルテラ」はトヨタ「bZ4X」の兄弟車であり、生産もトヨタの工場で行われる。
2台はトヨタとスバルが結成したプロジェクトチームの下で製品企画やデザイン、開発、実験を共同で行った。そのため、シャシーやパワートレインといったメカニズムの大半を共用。2台の違いは、エクステリアデザインの一部と細かな装備内容、そして4WD仕様の走り味などに限られる。
エクステリアでは、ヘッドライトやフロントバンパー、リアのコンビネーションランプにアルミホイールなどがbZ4Xとの識別点。インテリアでは、スバルの他車に共通する警告音やハーマンカードン製オーディオ、発熱エリアがbZ4Xのそれより広いシートヒーター、上級グレードに用意されるタンカラーのシートなどがスバルらしさをアピールする。
ちなみに、ソルテラは210mm、bZ4Xは180mmという最低地上高を確保するが、これはスバル側が「EVでも悪路走破性は外せない」と強く主張した結果、実現したもの。トヨタ側がその主張を受け入れたことで、2台はたっぷりとしたロードクリアランスを確保することになった。
同様に、スバル側が主張した結果、2台の前後オーバーハングは当初のデザイン案より短くなったという。これは、アプローチアングルとデパーチャーアングルを稼ぐための方策だ。一般的に、オーバーハングは長い方が空気抵抗を軽減できるとされるものの、ソルテラとbZ4Xはそれよりも悪路走破性を重視したのである。
ソルテラは、両社のエンジニアが共同開発した“e-TNGA”と呼ばれるEV専用プラットフォームを採用。スリーサイズは全長4690mm、全幅1860mm、全高1650mmと、bZ4Xと共通だ。
また、71.4kWhの大容量バッテリーを搭載しながらフロアに張り出しがなく、リアシートの乗員がゆったり座れるキャビンや、フル乗車時で奥行き985mm、最大幅1288mmという空間を確保したラゲッジスペースは、2台に共通する美点である。
bZ4Xと同様、ソルテラの駆動方式はFWDと4WDとが用意されるが、今回、試乗したのは前者で、最高出力203.9ps、最大トルク266Nmのモーターで前輪を駆動する。1度の満充電で走れる航続距離(WLTCモード)は、FWD仕様で567kmとされている。
ちなみに、bZ4Xはサブスクでのリース販売のみとなるが、ソルテラは一般的な販売方法がとられている。
■グレード構成&価格
・「ET-SS」<FWD>(594万円)
・「ET-SS」<4WD>(638万円)
・「ET-HS」<4WD>(682万円)
■電費データ
「ET-SS」<FWD>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:126Wh/km
>>>市街地モード:110Wh/km
>>>郊外モード:119Wh/km
>>>高速道路モード:139Wh/km
◎一充電走行距離
・WLTCモード:567km






【高速道路】18インチ・スタッドレスタイヤは20インチのサマータイヤと同程度の電費となる

ソルテラのEVテストは共同開発であるトヨタbZ4Xと行った。
両車ともFWDのモデルだが、bZ4Xが20インチを履いていたのに対して、ソルテラは18インチ。しかもスタッドレスタイヤだったので、標準装着タイヤに比べると電費はやや不利であり、一般的には10%程度悪化すると言われている。
bZ4X FWD 20インチタイヤのWLTC高速電費は6.45km/kWhなのに対してソルテラ FWD 18インチタイヤ(標準装着)は7.19km/kWhとなっている。今回の電費は制限速度100km/h区間のその1が4.7km/kWh、その4が5.4km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が4.9km/kWh、その3が5.5km/kWhだった。
bZ4Xは制限速度100km/h区間のその1が5.1km/kWh、その4が5.2km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が5.2km/kWh、その3が5.5km/kWh。
ソルテラのほうがその1とその2がちょっと悪いが、これはヒーターの負荷だと思われる。というのもスタート地点までbZ4Xは1時間弱走ってきて室内が十分に温まっていたのに対してソルテラは15分程度しか経っていなくてまだ暖まっていなかった。
その3とその4ではほとんど同じ電費になっていることから、20インチの標準装着サマータイヤと18インチのスタッドレスタイヤは、電費のポテンシャルがだいたい同じぐらいだと推測できる。


【ワインディング】ヒーターによる負荷を考えても平均的なデータを記録した

箱根ターンパイクでの電費は上りが1.5km/kWh、下りが3.5kWh分の回生でありbZ4Xの1.4km/kWh、3.6kWhとほぼ同様だった。
下り始めるときの走行可能距離は54kmで下りきったときは72kmへと18km分増えていた。bZ4Xでも20km分増えていたので、これもほぼ同等であり、過去のEVテストのデータをみても車両重量的に平均的。上りは平均よりちょっとだけ悪いぐらいだが、冬場でヒーターの負荷がある分を考慮すれば妥当なところだろう。

【一般道】WLTCに対する達成度は季節や条件を考えれば納得の範囲

街中の電費もbZ4Xの5.1km/kWhに対してソルテラ5.0km/kWhとほぼ同一。やはり20インチの標準装着サマータイヤと18インチのスタッドレスタイヤの電費はだいたい同じとみていいようだ。
絶対的な電費としては、あまりいいとは言えないが、その一つが年末で道路が混んでいてストップ&ゴーが増えていたことがある。ちなみにWLTC市街地モード電費は7.19km/kWhで達成率は69%。ヒーターの負荷が20%、スタッドレスタイヤが10%と考えれば、だいたい妥当なところと言えるだろう。機会があれば気候が良くてヒーターの負荷があまりない時期に標準装着タイヤで再テストをしてみたいところだ。

【充電】40kWの充電器では時間効率に不満が。90kW以上の充電器の普及に期待

スタート時の走行可能距離は241kmでそこから166.5km走行して復路・海老名サービスエリアに到着したときには34kmになっていた。
出力40kWの充電器を30分間使用して17.5kWhを充電。走行可能距離は141kmまで回復した。
充電開始直後から終了間際まで出力は35kW程度で安定していて平均も35kW。ちなみに出力90kWの充電器を使用したbZ4Xは終了間際に出力が落ちていったのだが、SOCの上限に近づいていったからだろう。
bZ4Xは90kWの充電器の使用で、走行可能距離はスタートが256kmでそこから170.3km走って246kmに回復している。これならば、ちょうど休憩したいあたりで30分間充電すればほぼ取り戻せて実用的と言えるが、40kWの充電器だと走行可能距離が241kmから141kmになってしまうので、ちょっと物足りない。それなりの大きさのEVでは、90kW以上の充電器の普及に期待したいところだ。

ソルテラ(FWD)はどんなEVだった?

ソルテラとbZ4Xは共同開発。どちらもFWDと4WDがあるが、今回のテストは両車ともFWDで揃えた。じつは4WDではサスペンションのセッティングや回生強度の調整など走りの面で差別化が図られているのだが、FWDではまったく違いがない。
今回はタイヤの違いがあったので比較する意味があったが、比較試乗としては4WD同士のほうが興味深い。近いうちにそれを実現するつもりだ。ソルテラの4WDはスバルらしさを強調しているのでファンも注目するべきモデルなのだ。
ソルテラ ET-SS(FWD)※18インチホイール装着車
■全長×全幅×全高:4690×1860×1650mm
■ホイールベース:2850mm
■車両重量:1910kg
■バッテリー総電力量:71.4kWh
■定格出力:73kW
■最高出力:150kW(203.9ps)/5379〜7500rpm
■最大トルク:266Nm(27.1kgm)/0〜5379rpm
■サスペンション前/後:ストラット/ダブルウィッシュボーン
■ブレーキ前後:Vディスク
■タイヤ前後:235/60R18
取材車オプション
なし