新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2023.03.31
【メルセデス・ベンツ EQS450+】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス
欧州や中国ではクルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、近年、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのでは?
とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか見分けるのが難しい。
本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。
今回フォーカスするモデルはメルセデス・ベンツ「EQS」。同ブランドが展開するEVのフラッグシップモデルは、果たしてどんな実力を見せてくれるのだろう?
【第36回 ボルボ XC40リチャージ】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
【第37回 ボルボ C40 リチャージ】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】
メルセデス・ベンツ EQSのプロフィール

マーケットニーズ次第では、2030年までにすべての新車販売をEVにシフトする可能性もあるとしているメルセデス・ベンツ。同ブランドは、EV時代に向けてさまざまな施策を検討中だ。
そんなメルセデス・ベンツのフラッグシップEVが、ここに紹介する「EQS」だ。エンジン車の「Sクラス」に相当するポジショニングのモデルだが、メルセデス初のEV専用プラットフォーム“EVA2”の採用により、そのルックスやパッケージングはSクラスとは大きく異なっている。
全長5225mm、全長1925mm、全高1520mm、ホイールベース3210mmというボディサイズはSクラスのロングホイールベース版に近い。しかし、ボンネットが短くキャビンスペースを車体の前方へとシフトさせ、流れるようなワンモーションフォルムを採用したEQSのルックスは、これまでの高級サルーンの常識を打ち破る斬新なものだ。ちなみに、EQSの流麗なフォルムは空力性能にも効くようで、量産車としては最高の値となるCd値0.20を実現している。
大柄なボディのクルマは取り回しに難があるものだが、EQSは独自の4WS機構“リア・アクスルステアリング”でそうした課題を解消している。
ダッシュボード全面に3枚の高精細ディスプレイをレイアウトし、それらを1枚のガラスで覆った“MBUXハイパースクリーン”を設定するインテリアも、従来の高級車像を一新するもの。物理スイッチがほとんどなく、始動/停止時に押すパワースイッチやハザードボタンなどを除けば、ほぼすべての操作をタッチディスプレイに集約している。
そんなEQSは、メルセデス版とメルセデスAMG仕様の2モデルをラインナップするが、今回試乗したのは前者の「EQS 450+」。リアアクスルに搭載されるモーターは最高出力245kW(333ps)、最大トルク568Nm(57.9kgm)を発生する。
搭載するリチウムイオンバッテリーの容量は107.8kWhで、1充電当たりの航続可能距離はWLTCモードで700kmをマーク。これは、日本で販売されるEVで最長となる数値である。
■グレード構成&価格
- ・「EQS 450+」(1563万円~)
■電費データ
- 「EQS 450+」
- ◎交流電力量消費率
- ・WLTCモード:182Wh/km
- >>>市街地モード:184Wh/km
- >>>郊外モード:180Wh/km
- >>>高速道路モード:184Wh/km
- ◎一充電走行距離
- ・WLTCモード:700km




【高速道路】世界最高レベルの空力性能が発揮された優秀な値

EVは冬場でヒーターの負荷が高いと電費の落ち込みが大きいが、3月を迎えてようやくそんな心配もなくなってきた。
スタート時の朝5:30の気温は9℃。今回のテスト車はメルセデスのEVのフラッグシップであるEQS450+は低全高でCd値0.20と世界最高峰の空力性能を誇るだけに高速電費に期待がかかった。
制限速度100km/h区間のその1が5.2km/kWh、その4が4.9km/kWh、制限速度70km/h区間のその2が6.2km/kWh、その3が5.9km/kWh。
東名高速の東京→厚木は早朝でも交通量が多く、平均速度が下がりがちなので最近はスタート時間を早めているが、年度末が近いからかそれでもちょっと混雑気味。その1ではじゃっかんではあるもののペースが落ちて電費はわずかに良くでる傾向だった。その4は思いのほか交通量が少なく、制限速度付近で走り続けることができた。
いずれにせよ5.0km/kWh前後が妥当なセンであり、WLTCの高速道路モードが5.43km/kWhに近い電費だ。その2とその3は交通量が多くも少なくもなく安定していて制限速度付近で走行を続けていずれも6.0km/kWh前後。100km/h制限区間に対して約2割良好という、妥当な電費だ。


【ワインディング】上りの電費は標準的。一方で回生効率はかなり優秀

3月になって気温が上がってきたことで、EVテスト的に嬉しいもう一つは箱根ターンパイクが通行止めやチェーン規制などで走れなくなる可能性が低いことだ。
今回は通常営業で走れたが、標高が上がっていくとさすがに寒く、ヒーターの負荷は増えた。
スタート地点は標高25mで気温は9℃だったが、ゴール地点は標高991mで気温は1℃。片道の距離は約13kmで登りの電費は1.4km/kWhだった。この激しい登りではどんなEVでも電費は厳しいが、車両重量2.5t級はいずれも1.3~1.5km/kWh程度で標準的と言える。
下りでは車載電費計からの推測で4.1kWh分を回生。これはトップクラスの数値でBMWやアウディを含めドイツのプレミアムブランドの上級モデルはいずれも優秀。モーターの性能によって回生効率は大きく違うようだ。

【一般道】どの速度域でも同じような電費を記録した

一般道の電費は4.5km/kWhで2.5t級としてはまずまず優秀な部類だった。今回同時テストのEQE350+とは高速道路、ワインディングロードではあまり差が付かなかったのだが、一般道ではEQE350+が5.3km/kWhと15%ほどの差がでた。
WLTCモード電費は
- EQS450+ 総合5.49km/kWh、市街地モード5.43km/kWh、郊外モード5.56km/kWh、高速道路モード5.43km/kWh。
- EQE350+ 総合5.68km/kWh、市街地モード5.81km/kWh、郊外モード5.75km/kWh、高速道路モード5.43km/kWh。
EQS450+は、市街地と高速道路がかわらず、どの速度域でも同じような電費。対するEQE350+は速度域が低いほうが電費が良く、高まればじょじょに悪化していくという一般的なEVの傾向。EQS450+は空力性能が高いので、高速電費が得意だからだと言えるだろう。EQE350+も空力性能は秀逸だが、全長が短いためCd値はEQS450+の0.20に対して0.22とわずかに劣る。だから高速道路ではあまり差が出なかったが、一般道ではEQS350+が上回ったということで、妥当な結果だ。

【充電】充電効率のよさが光る。航続距離は市販EV最長クラス

スタート時のバッテリー残量は96%、走行可能距離は565km。155.4km走行して復路・海老名サービスエリアに到着したときにはバッテリー残量66%、走行可能距離378kmになっていた。
出力40kWの急速充電器を30分間使用して、得られた電力は19.0kWh。終始38kW程度の出力でロスは最小限だった。
バッテリー残量83%、走行可能距離482kmまで回復した。EQS450+は一充電走行距離が700kmと現時点では市販車最長を誇っているだけに、200km程度のEVテストでは充電の必要性を感じないほど。
また、40kWの出力では30分で高速道路100km走行分は充電されるものの、100kWh級の大容量バッテリー車には少々物足りなさも感じる。せめて90kWが各サービスエリアにあればロングドライブでの安心感、利便性が高まるだろう。

EQSはどんなEVだった?

メルセデスのEVであるEQブランドのフラッグシップであり、メルセデス初のEV専用プラットフォームを採用するだけあって、快適性や静粛性は異次元。電費に関しても、現状のバッテリーの性能では高速時に課題があるところを、あえて低全高とし空力性能を究極まで高めて対応してきたところに好感が持てる。実際に高速道路では、空気の壁をあまり感じず、スムーズに流れるような感覚で走っていくのが印象的だった。EVならではの新しさも感じるエクステリアに負けじと、MBUXハイパースクリーンでインテリアも圧巻の未来感がある。新しい時代に向かっていく勢いを感じるモデルだ。
- EQS 450+
- ■全長×全幅×全高:5225×1925×1520mm
- ■ホイールベース:3210mm
- ■車両重量:2560kg(リアコンフォートパッケージ付き)
- ■バッテリー総電力量:107.8kWh
- ■最高出力:245kW(333ps)/4147~1万1544rpm
- ■最大トルク:568Nm(57.9kgm)/0~4060rpm
- ■サスペンション前/後:4リンク/マルチリンク
- ■ブレーキ前後:Vディスク
- ■タイヤ前後:265/40R21
- 取材車オプション
- リアコンフォートパッケージ、MBUXリアエンターテインメントシステムパッケージ、エクスクルーシブパッケージ、デジタルインテリアパッケージ、リア・アクスルステアリング(10°)