新車試乗レポート
更新日:2023.12.28 / 掲載日:2023.09.08
スバルの都市型ワゴン レヴォーグレイバック【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●スバル
スバルは国内専用モデルであるレヴォーグに都会志向の追加モデル、レヴォーグレイバックを追加。9月7日から先行予約の受付が始まった。
写真を見てわかる通り、ベースとなったのはレヴォーグだ。ボディパネルをそのままに、フロントフェイスと、前後バンパーの変更で、従来のラギッドなデザインを少し柔和なイメージに変えている。
だけでなく、ディメンジョンも少し変わっている。レヴォーグとレイバックで並べて比較してみる。全長は4770mmでほぼそのまま、全幅は1795mm→1820mm。全高は1500mm→1570mm。最低地上高は145mm→200mm。都会派と言いつつもロードクリアランスが増え、引き換えに車高が上がっている。都市部の立体駐車場はちょっと厳しい場合があるかもしれない。エンジンは従来通りの1.8直噴ターボということなので、全体を通して見て、クルマそのものはレヴォーグのバリエーションと考えて大筋では間違えていない。
スバルとしては、レヴォーグのワゴンらしい自慢のパッケージを活かしながら、ロードクリアランスを上げて、走破性を向上させ、従来の骨太で無骨なデザインを少し和らげたということらしい。
だいぶわかりにくいのだが、要するにトヨタのRAV4に対するハリアーの位置を狙い、新たな名前を与えてまで、従来アプローチできていない客層に訴求したいということの様だ。
トータルで見て、レヴォーグと一番違うのは、マイルドになったハンドリングで、落ち着いた分別のある挙動を示す。コーナリング途中でバンプがあったとしても、ストロークの長いよく動くアシで上手く処理しながら、路面をしっかりグリップする感じはなかなか良い。全体に自然かつ節度あるもので、むしろ筆者としては、レヴォーグと異なる商品としての、レイバックの最大の価値はそこにあると思う。もし、レヴォーグよりもう少し穏やかなハンドリングを望むなら、試乗してみる価値は大いにある。
どうも歯切れが悪いとお思いの読者もいらっしゃるだろうが、筆者としてはこのクルマの評価が難しくて困っているのだ。全く全然悪いクルマではない。ベースとなったレヴォーグが悪くないのだから当然である。むしろ燃費を除けばよくできている。そこは問題ないのだが、レヴォーグと別商品としての差というか、別の名前を与えるほど違うものにしたかった心がどうにも飲み込めない。
今のスバルに、トヨタばりにボディパネルを全部変えて、RAV4とハリアーくらい別の商品を作り上げろというのは酷なのは理解しているのだが、最初からわかりきったその制約がある中で、どうしても「なんでレヴォーグじゃいけないのか」が腑に落ちない。
スバルは弱者の兵法として、数年間をかけてスバル車のデザインを一定の方向に寄せ、アウトドア感の強い、骨太でラギッドなデザインに振った。それは「選択と集中」であり、少なくとも失敗している様には見えない。アメリカでも受けている。なぜ今更、方針を変えてまで一度切り捨てた都市型の商品に色目を使うのだろうか?
それが知りたくて、随分と色んな人を捕まえて聞いてみた。なるほどと思える答えをくれたのは営業の人だった。こういうことである。スバルは8月に新経営方針を発表したのだが、そこで打ち出されたのは、2030年までに全世界でのBEV販売50%、60万台を達成するという目標だ。
となれば、フラット4とAWD、アウトドア、ラギッドという従来のスバルイメージをどこまでも引っ張れない目算が高い。長期的に見ればBEVとアウトドアの様な土臭い世界が不自然ではなく馴染む日が来るかもしれないが、直近で売れるBEVを目指すのであれば、未来的・都会的、あるいはクールなデザインがどうしても求められる。そういう中で、今が成功していようとも、目標年次を考えれば、早急に新方針に向けて流れを変えていく必要があるということらしい。
まずはファーストステップとして、今回のレイバックで可能な範囲の手直しを加え、方向性を見定めて、その先にBEV時代のスバルのキャラクターを早急に見出して行かなくてはならない。要するにスバルデザインはこれからBEV時代の新フェイズに進んで行く。今後のフルモデルチェンジではボディパネルもそういう方向へ変わって行くのだろう。
そのための第一歩としてレイバックがあるのだとすれば、それはだいぶ納得が行く。ただなぁ、そういう過渡期のブリッジとしてみるにはクルマの出来は普通に良いので、少し割り切れない思いがあるのだ。