新車試乗レポート
更新日:2023.10.10 / 掲載日:2023.10.02

【アウディ Q4 SPORTBACK】電気自動車の実力を実写でテスト【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス 

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか見分けるのが難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回テストするのは、アウディ「Q4 40 e-tron」のクーペSUV仕様「Q4スポーツバック 40 e-tron」。積極的に電動化を推進するアウディのEVは、果たしてどんな結果を見せてくれるのだろうか?

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アウディ Q4スポーツバック 40 e-tronのプロフィール

アウディ Q4スポーツバック 40 e-tron アドバンスド

 

 アウディは2026年以降、世界市場に導入するニューモデルをEVのみとする方針を明らかにしている。2022年は、グローバル市場で前年比44.3%増となる11万8196台のEVセールスを記録。その勢いは2023年も衰えてはいない。

 アウディのEV戦略は、ハードウェアの進化とインフラの拡充という両面で進んでいる。例えば日本市場でも、EVラインナップの拡充を計画しているほか、ドイツやスイスで先行した都市型充電ステーション“アウディ チャージング ハブ”の東京での開設を予定している。

 ちなみに海外のアウディ チャージング ハブでは、廃棄された開発車両から取り出したバッテリーをリサイクルした大容量バッテリーに蓄電し、最大320kW出力に対応した充電器を設置。オーナー専用のラウンジでケータリング/コンシェルジュサービスを提供する。

 さらにユニークなのは、アウディ初のEVである「e-tron」&「e-tronスポーツバック」に急速充電レトロフィットを用意したこと。この2モデルは50kWの急速充電に対応していたが、このレトロフィットキットを装着することで120kWや150kWでの急速充電に対応できるようになる。充電時間の大幅な短縮で、EVの利便性は大幅に高まるはずだ。

 そんなアウディのEVラインナップで、現在、最も身近な存在なのがピュアSUVの「Q4 40 e-tron」とスタイリッシュなクーペSUVの「Q4スポーツバック 40 e-tron」だ。今回はそのうち後者にフォーカスする。

 Q4スポーツバック 40 e-tronが採用するプラットフォームは、VW(フォルクスワーゲン)グループが開発したEV専用のアーキテクチャー“MEB(モジュラー エレクトリックドライブ マトリックス)”。本国ではすでに4WD仕様も登場しているが、現状、日本仕様は後輪駆動レイアウトのみとなる。

 今回テストに連れ出した「Q4スポーツバック 40 e-tron アドバンスド」のボディサイズは、全長4590mm、全幅1865mm、全高1615mm、ホイールベース2765mmで、これはエンジン車の「Q3」と「Q5」の中間に位置する大きさ。それでいて、室内長はQ5をしのぎ、室内空間や荷室は上位モデルに匹敵するなど、EV専用プラットフォームの恩恵を最大限に生かしている。

 エクステリアデザインは、アウディの“Qファミリー”に共通するオクタゴン形状のシングルフレームグリルなど、ひと目でそれと分かるデザイン言語を採用。また、電動開閉式の冷却エアインレットや各種ディフレクターなどにより、Cd値は0.26と優れた数値をマークする。

 対するインテリアは、センタークラスターがドライバーを向いたドライバーファーストのデザインが印象的。10.25インチの液晶メーターパネル“アウディバーチャルコックピット”や、中央の11.6インチ“MMIタッチディスプレイ”などにより、フルデジタルのコックピットを構築している。

 ちなみにラゲッジスペース容量は535Lで、インテリアにはカップホルダーやドリンクホルダーなど計24.8Lもの収納スペースを用意するなど、スタイリッシュなルックスだけでなくキャビンの実用性もハイレベルだ。

 日本仕様のQ4スポーツバック 40 e-tronは、82.0kWh(実容量77.0kWh)のバッテリーに最高出力150kW(204ps)、最大トルク310Nmのモーターを組み合わせている。1充電当たりの後続距離は、WLTCモードで最長594kmとなっている。

  • ■グレード構成&価格
  • ・「アドバンスド」(730万円)
  • ・「Sライン」(758万円)
  • ■電費データ
  • 「アドバンスド」
  • ◎交流電力量消費率
  • ・WLTCモード:145Wh/km
  •  >>>市街地モード:127Wh/km
  •  >>>郊外モード:137Wh/km
  •  >>>高速道路モード:160Wh/km
  • ◎一充電走行距離
  • ・WLTCモード:594km

【高速道路】改良による電費の改善を確認することができた

 Q4 e-tronをテストするのは2回目。

 EVテストは毎回2台ずつ連れ出しているのだが、もう1台は前回も今回もハードウエアの多くを共有するフォルクスワーゲンID.4だ。じつはID.4のほうはバッテリー容量やモーターの出力、モデルイヤーによる電費の改善など、前回と違うところが多いのだが、Q4 e-tronは前回とスペックの差はない。

 前回はSUVスタイルのQ4 e-tron Sラインで今回はクーペスタイルのQ4 スポーツバック e-tron 40 アドバンスドなのだが、WLTCモード電費などはまったく同じだ。

 ただし、前回は冬場のテストで外気温が-2℃~10℃でヒーターの負荷が高く、今回は17~31℃とだいぶ条件が違う。

今回の高速道路の電費は

制限速度100km/h区間のその1が5.5km/kWh、その4が6.8km/kWh、

制限速度70km/h区間のその2が7.2km/kWh、その3が7.0km/kWh。

前回テストしQ4 e-tron Sラインの高速電費は

制限速度100km/h区間のその1が4.6km/kWh、その4が5.8km/kWh、

制限速度70km/h区間のその2が5.4km/kWh、その3が5.4km/kWh。

 20~30%ほど改善が見られたのだが、外気温の影響がそれだけ多いということだ。

 もっと差がついてもおかしくないID.4よりも改善率は高かった。ただし、実用電費としてはID.4のほうが全体的に優秀ではある。

【ワインディング】同じような車重のモデルと比較すると優秀な電費

 ID.4と同じく前回のテストは箱根ターンパイクが通行止めとなり、並行している箱根新道を走った。

 だから今回の電費と比較してもあまり意味はないのだが、ID.4とQ4 e-tronともに前回も今回も登り区間はすべて1.9km/kWhだった。ちょこちょこと条件が違うので少しは差が出てもよさそうなものだが、ぴたりと収まってしまった。

 下り区間は電費計からの推測で3.78kWhが回生されている。ID.4は3.59kWhでだいたい同じ数値。過去のテストデータと比べると登りは優秀な部類、下りは並だった。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

【一般道】エアコンの影響か前回よりも低い数値が記録された

 一般道の電費は4.8km/kWhで、前回の6.0km/kWhを下回った。

 本来は冬場のほうが悪そうなものなのだが、状況次第だ。冬の朝イチで気温が低く、室内をガンガン暖めているときは電費は悪化するが、暖まるほどに負荷は減っていく。EVテストは朝イチに高速道路・往路、午前の早いうちにワイディングロード、午前の遅くに高速道路・復路、昼前後に一般道と走るので、コンディションは変わる。

 前回は室内が十分に暖まってヒーターの負荷が少なく、今回は外気温が上昇してエアコンの負荷が大きくなったということだろう。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約23kmの距離を走行した

【充電】90kWの充電器により30分間で57%から90%まで充電

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 スタート時のバッテリー残量94%、走行可能距離445km。そこから156km走行した復路・海老名サービスエリアに到着したときにはバッテリー残量57%、走行可能距離263kmになっていたが、出力90kWの急速充電器を30分使用して25.8kWhが充電され、バッテリー残量90%、走行可能距離423kmに回復した。

 充電開始直後は60kW以上の出力がでていたが、途中で80%を超えたのでだいぶ絞られ、充電終了間際は40kW以下になり、平均は51.6kWだった。90kWの出力をフルに引き出されているとは言えないが、40kWを使ったID.4の充電量は16.8kWhなので、意味がないわけではない。

足元はフラットで膝前空間にもゆとりがある。クーペスタイルのためSUVのQ4 e-tronよりヘッドクリアランスは少ない

アウディ Q4スポーツバック 40 e-tronはどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 

 RWDを基本としたBEV専用プラットフォームを採用するe-tronのエントリーモデルだが、ID.4とは差別化が図られ、動的にも静的にも質感は一枚上手だった。

 タイヤが1インチ大きくなるのに乗り心地も良くなっていたのはちょっとした驚き。また、パドルスイッチで回生強度を任意に選べるなどドライバーズカー的でもある。

 欧州ではフロントにモーターを搭載した4WD=クワトロもデビューしたそうなので、そちらにも期待したいところだ。

  • アウディ Q4スポーツバック 40 e-tron アドバンスド
  • ■全長×全幅×全高:4590×1865×1615mm
  • ■ホイールベース:2765mm
  • ■車両重量:2100kg
  • ■バッテリー総電力量:82.0kWh(実容量77.0kWh)
  • ■定格出力:70kW
  • ■最高出力:150kW(204ps)
  • ■最大トルク:310Nm(31.6kgm)
  • ■サスペンション前/後:ストラット/マルチリンク
  • ■ブレーキ前/後:Vディスク/ドラム
  • ■タイヤ前/後:235/55R19/255/50R19
  • 取材車オプション
  • ボディカラー(フロレットシルバーM)、アドバンストインテリアプラスパッケージ
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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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